第144話 俺、辺境伯の娘を仲間に入れて王都に戻る
「危険なのではないかアリシア」
「お父様。すでにこの国で、危険ではない場所はなくなっているのです」
「だが、イクサヴァータ殿下の足を引っ張ることになるのではないか?」
「わたくしが再び、この地で反乱軍に襲われたら、イクサヴァータ様の心を悩ませることになります。その方が、ずっと足を引っ張ることになります!」
おおっ、深窓の令嬢って感じだったアリシアが、イーヒン辺境伯に堂々と反論している!
イクサは黙って、事の推移を見つめているだけだ。
これは賢さが足りないからよく分かっていない……のではなく、親子に事の解決を委ねているんだろう。
「ずっと周囲の者に世話をされるばかりだったお前が、どうして傭兵団に入ってやっていけると思う」
「覚えます! お洗濯でも、お料理でもお掃除でも、全部やります! わたくしは、わたくしの戦いをしてイクサヴァータ様を支えます!!」
「おおー」
「おー」
カリナとミッタクが感心した。
二人とも最前線で戦う系女子だが、自ら戦うと決意した女はリスペクトする方針なのだろう。
ちなみにシーマは、「あほらしいのう」とか言いながら一人で茶を飲んでいる。
「決意は硬いのだな?」
「はい! お父様が何と言われようと、翻意いたしません!」
「お前が死ねば、私は一人になる。それでも行くのか?」
「死にません。イクサヴァータ様と添い遂げます!!」
すると、イーヒン辺境伯がにっこり笑った。
うわ、めっちゃ嬉しそう。
「アリシア、お前の中にも騎士の魂が確かにあるのだな。父はお前を試していた。行ってくるがいい。今からお前は、イクサヴァータ殿下の妻だ。国の一大事を救わんと戦う夫を支え、ともに生きて帰ってくるのだ……!」
「はい!! ありがとうございます……お父様……!」
アリシアは涙ぐみ、辺境伯に抱きつく……と思ったら、ばたーんと倒れた。
あ、これは過呼吸みたいになってぶっ倒れてるな。
普段はおしとやかなお嬢様だったのが、無理しまくって辺境伯とやりとりしたからである。
大丈夫かなあ。
アリシアが回復したところで、バギーに乗せてさあ移動だという事になった。
じっとメンツを見回す。
俺は運転手、重量的に、助手席はミッタクでバランスが取れる。
後部座席にはイクサとシーマ。
ちょいバランスが悪かったところだから……。
「アリシア、ちょっとだけシーマ寄りに座ってくれる?」
「は、はい」
「うわあ、狭くなったのじゃ」
シーマがぶうぶう文句を言った。
邪悪な呪術師が座席の広さに不満を言うのはなかなか面白い光景だ。
「アリシアが狭いなら俺のそばに来ればいいのではないか?」
「アホかお前! 狭いのはわしじゃ!!」
「わたくしのために争わないで……!」
「分かった」
「お前のためじゃないわー!」
後部座席のやり取りが面白いぞ。
アリシア、天然お嬢様という感じだな。
うちの母親に家事全般を仕込んでもらおう。
信頼できる雑務要員が増えるのは団としては歓迎だしな。
俺達はバギーで王都へと戻っていくのだが、その途中途中で革命軍に手を出していく。
「カリナ、ちょっとあそこの中心突っ込んで、革命軍のボスをファイナルレターしてきて」
「はーい! おまかせです! フタマタ、お願いします!」
「わんわん!」
ぴょーんと飛び出していったフタマタが、革命軍の只中に降り立って、そこから跳躍したカリナは着地ざま、この方面の革命軍首魁を膾切りにして即死させる。
そのままヒットアンドアウェイである。
時速百キロは出るバギーと並走できるフタマタに、追いつける者はいない。
空を飛んでどうにか食い下がっても、カリナの弓が待っている。
「バードストライク!」
『ウグワーッ!!』
次々に撃ち落とされているぞ。
それから、敵の前線にはイクサが烈空斬や飛翔斬を連発して、戦線をずたずたにしておく。
三十分ほどで、革命軍は恐慌状態になって散り散りに逃げ出した。
「よしよし、次行ってみよう」
「こ……これが本場の戦場なのですね……」
アリシアが呆然としている。
うん、本場の戦場じゃなくて、かなりおかしい戦場だからな。
基準にしなくていいからね。
「オクノ、ちょっと止めておけ。わしがあやつらを纏めて洗脳してくる」
「ほいほい」
シーマが出かけていったので、ここでお弁当タイムとなった。
辺境伯領の奥さんたちが持たせてくれたバスケットを空けて、サンドイッチをつまむ。
「サンドイッチは、古代文明時代のサンドイッチ提督という方が考えた食事形式で、とても由緒正しい戦闘食なのです」
アリシアが説明をしながら、俺達にサンドイッチを取り分けてくれる。
艦隊戦を指揮しながらでも、片手で食べられる食事を求めてたどり着いた境地なのだとか。
地球でのサンドイッチの発祥はもっと平和的だったよなあ。
戦いばかりしてる世界なのかも知れん。
シーマの分を残しておいたら、案の定腹をすかせて呪術師は戻ってきた。
後ろにぞろぞろと、虚ろな目をした革命軍を従わせている。
「腹が減ったのじゃ!! わしのぶんも取っておいてくれたのか? すまんのう」
飯の取り分があることに感謝する、悪の女呪法師。
彼女はサンドイッチをパクパクやりながら、革命軍にぞんざいな命令を出した。
「お前ら以外の革命軍を見つけたら、襲いかかれ。ひたすら同士討ちするんじゃ」
『ウェーイ』
「ほれ、散れ散れ! 死ぬまで戦え!」
『ウェーイ』
「ほう、これでうちの戦力を増した感じになるな。大したもんだ」
「お前の女のラムハもできるじゃろうが。あやつの場合、モラルが高いからやらんじゃろうがな」
「まあなあ。優しい子だからなあ」
ちなみにこのやり取りを聞いて、アリシアが青ざめていたりする。
「あれ? これって邪悪な行為なのではないのですか……? 敵を洗脳して死兵として使い潰すとか……」
これは勘違いを解いておかねばなるまい。
「アリシア。彼らはもう人間に戻れないので、モンスターなんだ。放っておくと人を襲うし、常人より強いから力にかまけて悪いことをする。人間、力があってもそれを自制できるほど強くないからな。なので、俺達が自制心になって彼らの力を世のために役立つよう使わせてあげるわけなんだよ」
「正義だ」
イクサが深く頷いた。
こいつの正義もまあまあ適当だよな。
だが、イクサが認めたので、アリシアはパッと表情を輝かせた。
「そうなのですね! 正しい行いなのですね! それならば、わたくし安心致しました! シーマ様もよい行いを成されているのですね」
そんな事を言われて、シーマがサンドイッチでむせる。
「ウェーっ! わ、わしがいい事をしてるじゃと!? お前、頭が沸いてるんじゃないのか!? おいこらオクノ! お前こそ何やら精神汚染みたいなことをしておらんか!?」
「知らんなあ」
俺はシーマの抗議をやり過ごし、再びバギーを走らせるのだった。
途中、三つの貴族領で革命軍を洗脳し、手勢に加えた。
もういれぐいである。
というか革命軍どんだけいるんだ。
「アリシア、その辺どうなの?」
「反乱軍は、もともとこの国にいた国籍を持っていない者達や、国に不平を持つ者達を集めたのです。ですから、国民のおよそ一割が参加していると言われています」
「そりゃすごい量だ」
「じゃがわし、そのうちの1割くらいを洗脳したぞ」
「そりゃすごい量だ」
革命軍は俺達によってある意味半壊し、そのうちの1割が洗脳された死兵となって身内に牙を剥く。
内部崩壊させるのは大変合理的な戦い方だ。
シーマが味方で良かったなあ。
「まったく。わしをこき使いおって。じゃが、メイオー様が復活したらもっとこき使われるかもしれん」
「遠い目してやがる。シーマもいっそうちの子になっちゃえよ」
「そうはいかん……。あんなメイオー様でも一応わしの生みの親じゃからな……」
義理堅い。
そして俺達は、適当なところで宿泊し、再び旅立った。
いよいよ王都が見えてきた……という頃合い。
遠くの空で、巨大なモンスターが何者かに放り投げられているところだった。
おや?
なんだあれは。
モンスターはまるで、アルゼンチンバックブリーカーの体勢から上空に跳ね上げられたような状態ではないか。
そして、地上から黒い影が飛ぶ。
……ありゃあなんだ。
「オクノさんです! オクノさんが二人!?」
目がいいカリナが状況を視認して、混乱した。
「そうか、あれはもう一人の俺が、モンスターにプロレス技をかけてるんだな!? だがどういうことだ? 俺は幻影戦士術など使ってないが」
それは、小麦色の肌をした俺だった。
アルゼンチンバックブリーカーの体勢から跳ね上げたモンスターを空中でキャッチし、体格の差をものともせずに仕掛ける、あの技は……。
「ナパームストレッチ!!」
叫びが聞こえた。
モンスターの両腕を押さえ、爆撃機のような体勢にさせてい地上に激突させる荒技!!
『ウグワーッ!!』
モンスターは爆発四散。
その後に立つ、黒い俺。
そして、海の方にはホリデー号の姿。
ホリデー号とともにやって来たもう一人の俺がいるのだ。
これは一体全体、どうしたというのだろうか……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます