第134話 俺、キョーダリアスへのルートを発見する
「どれ、検分してやろう。あのレフェリーとやら、カオスディーラーの手の者であろう。じゃが戦わなかったということは、あやつの意志を植え付けられた端末の可能性がある。どこかに、あやつとカオスディーラーをつなぐものがないかどうか……。イビル・スピリット」
シーマがふわふわ浮きながら、俺の傍らまでやってくる。
そして、呪法を使ってオレンジ色の小人みたいなものをたくさん生み出した。
どいつもこいつも、ちっこいゴブリンみたいな顔してやがる。
「これらを実体化させて育てれば、レッドキャップという上位のゴブリンになるな。じゃが今は関係ない。ほれ、お前達。瓦礫の隙間から探せ! キョーダリアスの気配がするものがどこかにあるはずじゃ!」
小人達は一斉に返事をすると、あちこちに潜り込んでいった。
「どれくらいで分かるんだ?」
「一晩はかかるじゃろうな」
「じゃあ、俺達は一旦撤収しよう。ビル一つぶっ壊したから、警察が来るぞ」
するとシーマはきょとんとした。
「お前の力なら敵にもならんじゃろうが。蹴散らせ」
「警察はお仕事してるだけだろ! そういうのは蹴散らしたらダメなの!」
「ふむ、この世界の決まりごとというものか……」
シーマは鼻を鳴らすと、そのまま高く浮かび上がった。
「では解散じゃな。明日の昼ごろにお前に電話を掛ける。そうしたらまたあの神殿に集合じゃ」
あの神社な。
シーマ曰く、本当に神様の端末がいるとか言っていたな。
「神殿の端末と今交渉中でな。もしかしたら、わしらの帰還のための場として貸してもらえるかもしれん」
「ほう」
何気にシーマは仕事をしてるな。
俺はすっかり見直してしまった。
地球に戻ってきてからも頼りになるし。
「じゃあ、解散ということで! あと、近々キョーダリアスに戻る予定なんだけど、ついてくる人、ついてこないでこっちに残る人とか聞きたいので」
「うん、分かった。私はあっちに戻るね」
日向が断言する。
日向パパが「マキ~」と泣きそうな顔になった。気持ちは分かる。
「じゃあ引っ越しの準備をしないとな。退職届出してくる」
「楽しみねえ」
シーマが、ウキウキとするうちの両親を見て不思議な顔をした。
「……なんじゃ。お前の親、ついてくるのか? キョーダリアスに? この平和な世界の住人が? なんで?」
「物好きってのはどんな世界にもいるんだよ」
「奥野の奥さん候補のお嬢さんたちにも、挨拶したいもの! 母さん、楽しみだわー。前から娘がほしいと思ってたの!」
元女神の依代の娘、未亡人の娘、遊牧民の娘、バイキングなパワフル娘……。あと四人も娘ができるぞ。
「奥野。父さんな、経済的な面からお前をサポートするからな。任せておけ。あ、向こうの言葉も覚えなくちゃなあ。ルリアちゃん、教えてくれるかい?」
「もちろん!」
ルリアが元気に応じるが、お前ら、もう言葉が通じてないか?
というか多分これ、俺がフタマタの言ってることが分かるのと同じ現象が起きてる気がする。
うちの両親は俺と近いから、異世界の言語に親和性があるのかも知れないな。
だが、ルリアは母が言っていた、他の女子達にも会いたいわ、というのは分からなかったようだ。
よしよし。
ルリア一強はよろしくないからな。
俺も後ろめたいのだ……!
「ということでオクノくーん! 今日は愛し合おうね……!!」
ひっついてくるルリア。
「わふん」
間に鼻面を縦に並べて突っ込んでくるフタマタ。
「あーん、フタマタのいけずー!!」
「わんわん」
フタマタは言っている。
勝負の続きはキョーダリアスに戻ってからにしましょうと。
ぐうの音も出ない正論である。本当によくできたわんこだ。
そんなわけで、俺達は帰宅後風呂に入り、テレビを見ながらアイスなど食べ、フタマタを間に挟んで川の字になって寝たのだった。
久々によく働いたので、熟睡だった。
朝目覚めると、フタマタをスウィングでスタンさせたルリアが俺の服をはごうとしていたので、慌てて飛び起きた。
「あーん! フタマタちゃんが気を抜いてる隙にスタンさせてからオクノくんを襲おうと思ったのに!!」
「こえー! ルリアは実力をつけるほどにやばくなるな! 何でスウィングしたんだ」
「これ? 紙の束?」
「それは東京ドームで開催されたあの試合のポスター……! ポスターでスウィングできるのかあ」
「くぅん」
フタマタが申し訳無さそうに鳴いた。
よしよし、お前は悪くないぞ。
このラッキーモンスターがやばいだけだからな。
フタマタの安全のためにも、キョーダリアスへ戻らねばな。
昼前に、俺はプリペイド携帯を手に入れた。
こいつで仲間達と連絡を取り合うのだ。
そして、昼頃。
俺とルリアと母とフタマタでスパゲティナポリタンなど食っていると、シーマから電話があった。
「案の定見つかったのじゃ! これで今日にでもキョーダリアスへ戻れるぞ! 黄昏時に神殿へ来い! 時間厳守じゃぞ! チャンスはその時間帯しかない。逃すとまた一日伸びるぞ!」
「よし」
大変話が早い。
地球に戻ってきてから四日目である。
なんというか、俺がフラグを引き寄せて粉砕し、それをシーマが分析した。
これほど超高速で物事が進んだのは、幸運の権化であるルリアを常に近くに置いておいたお陰のような気がする。
デュエリストとの遭遇とか、結構レアな確率だろうし。
「んお?」
口の周りをケチャップで汚したルリアが首を傾げた。
「いやな。全員の力が合わさった結果だなって話だよ。もうすぐキョーダリアスへ戻れるぞ」
「ええー。あたしはずっとこっちでオクノくんの赤ちゃん産んで暮らすー」
「ダメだよ!? っていうか昨日から話が早いよ! なんでそんなに俺の子供作るモチベが高いんだよ!」
「あら、ルリアちゃんに奥野の子供が? まあまあ、お赤飯炊かなくちゃ! それにあっちの世界に今日行けるの? あらまー! お父さんに連絡しなくちゃ」
母の行動も早い!
既に父にFINEというチャットアプリで連絡を送っている。
タマママ『夕方ですって!』
マスク・ド・タマ『よし今すぐ辞表叩きつけてくる!!!!!』
すげえ、秒で既読になって返信来た。
うちの両親の、異世界移住へのこのモチベーション。
よっぽどこっちで上手く行ってないんだな二人共……!
親父は変人で世渡り下手だし、母は母で……まあ上手くはやってるんだけど、日々退屈そうではあったんだよな。
仕方ない、本当に連れて行くか。
その後、家の解約とか家具の処分とか、いろいろな手続をしていたらあっという間に夕方だ。
キャリーバッグに詰め込めるだけ荷物を詰め込んで、俺達は出発した。
「それ重いだろ。持ってやるよ」
「ありがとう。持つべきものは力持ちの息子ね」
キャリーバッグをひょいっと担いで、神社への道を急ぐ。
途中、道行く人がフタマタを見てギョッとする。
首が二つあるでかい犬だもんな。
隣にいる、明らかに外国人なルリアが目立たなくなってしまう。
しかし今回は何のハプニングもなく、目的地に到着だ。
そこには既にシーマがいた。
「遅いぞ!」
「奥野ー! 母さん! いよいよだなあ!」
晴れやかな表情の親父もいた。
あと、
「むごごー! ふぐぐー!」
ふん縛られて転がされている明良川もいる。
「回収してきたわい」
「いい仕事だ」
後は日向だけか。
日向パパが、日向の帰還を嘆いていたからなあ。
どうなることか。
そう思ったら、どやどやとたくさんの人がやって来た。
えっ、全員道着!?
日向の家の道場の門下生達じゃないか!
先頭には、とても居心地悪そうな日向とパパ、そして日向によく似た男達がいる。
兄弟だな。
「みんなで見送りに来なくていいよう」
「そういう訳に行くか! マキ!! 向こうでも元気でやるんだぞ!!」
「マキ、彼氏連れてたまに帰って来いよ!」
「マキさん!」
「マキさん!」
超にぎやかになってしまった。
シーマが唖然としている。
「なんじゃこれ」
「気にしないでやってくれシーマ」
「う、うむ」
シーマが指を鳴らす。
すると、近くの茂みからオレンジ色の小人たちが飛び出して来た。
彼らは、コンクリの板を運んでいる。
板には、光り輝く模様が刻まれていた。
「呪法陣の一種じゃ。古代文明の技法じゃの。わしがお前達を召喚した時に使ったものと同じじゃ。基本的に、新たに作ることはできん。これを消費してこちらと向こうを渡るわけじゃが……」
ここでシーマは俺を指差した。
「今回は違う。オクノ、お前がこいつを媒体にして、また時を砕いてあちらとこちらを繋ぐのじゃ。あと、そこの娘!」
「あたし?」
突然指差されたルリアがきょとんとする。
「何かおかしいと思ったら、お前、時空に干渉するスキルかステータス持ってるじゃろ。恐ろしい速さで事態が進むと思ったんじゃ。じゃが、お前がオクノに手を貸せば、目的の場所に戻れるじゃろう!」
やはり。
混沌の裁定者が、天文学的な確率でなければ奴の送還の呪法に介入できない、みたいなこと言ってたもんな。
つまり、ルリアならば天文学的な確率を確定で引き当てられる可能性がある。
「時の流れを砕き、向こうで、わしらが飛ばされた時間へと戻る! 本来ならば何度も挑戦してその時間を探らねばならぬが、この娘がいれば一発勝負でいいじゃろう! 行くぞ!」
いきなり呪法陣が展開した。
早い!
日向が、家族や道場の人々と別れを惜しんでいる。
明良川が猿ぐつわを炎の呪法で焼き捨て、「ああああああだしのお金えええええ! せっかく一千万円も稼いだのにぃぃぃぃ」とか叫んでいる。それは俺が戦ったお陰では?
ルリアはちょっと不満げに頬を膨らませている。
「ルリア、手を貸してくれ」
「やーですぅー」
「俺にこう、ちょっと抱きつく感じで」
「オクノくんに抱きつくの? ヒャア、やるやるぅー!」
ルリアがむぎゅっとくっついてきた。
よし、落ち着け落ち着け俺。平常心。
「時の呪法……!」
俺は呪法をイメージする。
その瞬間、再び世界が、この呪法の行使に抗うよう圧力を掛けてきた。
ほう……今度は投げ対策をして来たようだな。
世界がちょっと俺から間合いを取っている。
だが、甘い!
俺の全身から、闘気が吹き上がる。
それは足を振り上げ、世界の土手っ腹に蹴りを叩き込んだ。
「ビッグブーツ!!」
世界が震撼する。
隙が生まれた。
「タイムブレイク!! そして……行け、フタマタ! 向こうの世界に突撃!!」
「わおーん!」
フタマタが走る。
俺が砕いた世界の壁を、オルトロスがさらに押し広げながら抜ける。
その先に、また世界の壁が現れた。
「わおおおーん!!」
フタマタが壁をぶち抜く!
「集まれ!」
俺は仲間達を呼んだ。
体を大きくし、シーマと日向を両肩に載せ、明良川を小脇に抱え、ルリアを前に貼り付け、うちの両親を紐で繋ぐ!
「なあ奥野。父さんたちだけ扱いが不安定なんじゃないか? この紐大丈夫か?」
「行くぞー! 1、2の、3っ!」
ダーッシュ!!
「うわー!」
「きゃー!」
俺はフタマタが開いた、世界と世界を繋ぐ穴へと跳んだ。
猛烈な勢いで穴が縮もうとする。
これを両手で掴んでこじ開ける!
日向が紐を引っ張り、両親をキョーダリアスへと次々放り投げた。
「うわー」
「きゃー」
そして俺も、飛び込む!
背後で、世界の穴がピタリとふさがった。
俺の周囲を、ひんやりとした空気が包んでいる。
ここは……。
「オクノ!!」
懐かしい声がした。
灰色の髪をした女が、俺に駆け寄ってくる。
「ラムハ!」
俺は明良川を捨て「ぐへえ」、ルリアを剥がしてその辺に置き「むきー!」、ラムハを抱きとめた。
ここは凍れる城。
そして俺達は、キョーダリアスへと帰還したのだ!
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