第127話 俺、キョーダリアスへの帰還手段を探す

 朝目覚めたら、昨夜のことを思い出して、なんだ夢だったかと思った。

 そしてよくよく見ると俺は素っ裸ではないか。

 周囲は俺の学習机とかゲーム機とかが転がっており、部屋いっぱいに敷かれた二枚の布団の片方には、ルリアが素っ裸で、ぐうぐう寝ている。


「アッ、事実だった!!」


 こりゃあやばい。

 素っ裸なのを見ていると俺も体の一部が元気になってきてしまう。

 朝からおっ始めるのはいかがなものか!


 それに、これを知ったらラムハさんが怒るぞ、くわばらくわばら。


「それはそうと、腹を出して寝ていると風邪を引くぞルリア。あとムラムラしてくるのでなんか朝シャワーとか浴びてこい」


「うーん、むにゃむにゃ、もう食べられない……。オクノくんの実家のご飯美味しすぎるよー」


「日本食を気に入ったか……」


 どうやら起きてこないので、ルリアを担いで浴室に行き、自分ごと洗うのである。

 うーむ、何だこの光景は。

 シュールすぎる。


「あら奥野、起きたの? 着替えここに置いておくわね。むふふ、昨夜はお楽しみでしたね……」


「聞いてたな……!?」


「そりゃああれだけ音がしてれば聞こえるに決まってるでしょ。おかげで母さん達も燃え上がりました」


「そういうの息子の前で言うのは良くないと思うなあ」


 うん、俺は間違いなくこの両親の子供だな。

 ルリアの頭を洗い、タオルで拭き、髪を乾かして適当にまとめて……。

 俺はお父さんか? などと思いつつ準備を整えた。


「ふおー、オクノくんおはよー」


「おはよう。自分で朝の準備くらいするのだ。あ、これがルリアの靴下な。槍はアイテムボックスに収納してあるから必要だったら言うんだぞ」


「はーい! むっふっふ、昨夜はお楽しみでしたねー」


「母と同じことを言うなこいつ」


 ルリアの顔にあるのは達成感と、これ以上ないくらいのドヤ顔である。

 これを見ていて、俺はハッとする。

 一つ体験を重ねたことで、ルリアはかなり得意げになっている。


 未亡人であるアミラは、ステージ的にルリアや他の女子達よりも一歩進んだステージにいながら、あえて同じ土俵で戦ってくれていた可能性があるのではないか?

 ここに来て、アミラの偉大さを知るのだ。

 なんというフェアプレーであろうか。


 むしろ押し相撲なんかは、フェアプレーの末に実力で勝利をもぎ取っているので強い。

 食卓では、両親が満面の笑顔で迎えてくれた。


「おお、奥野、おはよう。ルリアちゃんもおはよう」


「?」


 ルリアがおはようの意味が分からなかったようなので、朝の挨拶だと説明した。


「オハヨー!」


 ルリアが挨拶したら、両親がさらにニコニコした。

 めちゃくちゃ嬉しそうだ……!

 言葉が通じないはずなのに、ルリアと両親がジェスチャーで昨夜の事を報告しあっている。


 やめろ、その手付きを食事中にするな……!

 おかしい。

 ルリアにはこの両親の血が入っていないはずなのに、似ている……!


「奥野、外には報道陣が来てるから気をつけろよ。下手にボディスラムとかして奴らをなぎ倒したら大騒ぎになるからな。俺は経験者だから詳しい」


「親父の過去も気になる……。てか、俺が外出する気だってよく分かったな」


「そりゃあ親だからな。お前、異世界とやらに一旦帰る気なんだろ? 恐らく向こうに、お前とともに冒険した仲間達がいて、お前がいなきゃどうにもならない事態が待ち受けているんだろう。そしてルリアちゃんだけではない、お前と親しい女子が……俺のラノベ知識によるとあと四人くらい?」


「理解が早すぎるのでは?」


「親だからな」


 いや、そこまで察するのはそろそろエスパーの領域では?

 というか女子陣の数をドンピシャで当てるなよ。

 なんだよこの親父怖いな。


「奥野」


「なんだい母さん」


「異世界は法律が違うから重婚いけるの? 孫がいっぱいできそう? 父さんと二人で移住してもいけるかしら」


「むしろあんた達の理解が早すぎて俺は怖いな!」


「父さんこんな性格だから会社でも浮いてるからな。こっちに未練はないぞ」


「朝食の場でする話じゃなくない? 分かった。考えておく」


「ヤッホーウ!」


「まだ見ぬ新天地!」


 両親二人がハイタッチした。

 うーむ……!!

 間違いなく俺はこの二人の息子だな……!


「お父さんとお母さん、オクノくんに似てるねえ。こっちの世界だと生きづらいでしょ……」


 ルリアにまで同情されてしまったのだった。


 さて、今日すぐに帰ることはなかろうと、地球側の服を着て外に出ることになった。

 母からお小遣いをもらう。

 昼食とかおやつとか用らしい。


「さすがにホテルに入れるお金は無いからね」


「真っ昼間からしないよ!?」


「まあ、凄い自制心……!!」


 伊達にあっちの世界で自制心を鍛えてはいないのだ。

 ちなみにルリアは、下着を母に買ってきてもらい、ちょうどいいのを身に着けている。

 その上から羽織るのは、『異世界帰り』と大きくプリントされたTシャツだ。


 なんてものをチョイスするんだ……。


「これ、お父さんが母さんにプレゼントしてくれたんだけど、最近太っちゃって入らないの。ルリアちゃんにプレゼントするわね」


「アリガトウ!」


 言葉が通じないはずなのに通じている。

 ルリアが母とハグしあっている。


 いかんぞ、ラムハさん。

 ルリアがポイントを超稼ぎまくっているぞ……!!


「行くぞ、ルリア」


「はーい!」


 ごく自然に腕を組み、くっついてくるルリアである。

 くっ、ムラムラするな俺よ。

 落ち着け。深呼吸だ。


「……そう言えば、親父はなんで俺の後ろについてくるんだ?」


「父さん、これから出勤なんだがな。報道陣が邪魔で出ていくの大変そうだから、お前を盾にしようと思うんだ」


「親のセリフかよ!? いや、的確っちゃあ的確だけどな」


 この親父のラノベ知識とメタ思考、かなり正確である。

 何しろ、俺が外に出ると……。


「一ヶ月の行方不明から戻ってきた少年が現れました! 所属不明の少女も一緒で……」


「奥野さん! 一言! 一体どこにいたんですか!!」


 ふむ。

 わーっと群がってきた。


「奥野……。やってしまえ」


 親のセリフか……?

 だが、そうするとも。


 俺は息を吸い込んだ。

 体を大きくしても、どういうことか服まで同じサイズに拡大するので破けない事は実験済みだ。


 俺は、キョーダリアスにいたころのサイズに変身する。


「うわー! 大きくなった!」


「こ、これは一体……」


「雷幻術!!」


 空に向かって幻の稲妻を放った。

 マイクがこの音をもろに拾ってしまい、スタジオとお茶の間にとんでもない放送事故を引き起こす。

 広がる電磁波っぽいものでカメラが故障し、インタビュアー達が耳を抑えて、頭を抑えてうずくまった。


「ひいー!」


「うわあー」


「じゃあ奥野、俺は出勤してくるからな!」


「いってらっしゃい。強いなー親父は」


 軽くステップ踏みながら遠ざかっている背中を見送る。


「オクノくん、あたし達も行こう!」


「よしっ」


 プリペイド式のスマホをポケットに入れて、ルリアとともに目的地へ。

 そこは、仲間達と示し合わせた集合場所だ。


 石段を登ったところにある稲荷神社。

 お祭りの時以外、人気が少ないのだ。


 既に日向がやって来ていた。


「おはよー」


「おはよう。日向はサラッと出てこれたんだな」


「実はお父さんが妨害してきて……。腕ずくで黙らせちゃった」


「異世界で身につけた技が力を発揮したか」


「ねえねえマキ! あたしとオクノくん、何か昨日と違うことに気付かない? ねえー」


「ルリアちゃんと多摩川くんが? うーん」


 事さらに、俺にベタベタするルリア。

 それをじっと見て、日向は首を傾げた。


「うーん? あ、Tシャツ可愛いね!」


「ありがとー! って、ちがーう!!」


 喜びから憤慨へ。

 忙しいルリア。


「あたしとオクノくんは、むっふっふ!! 大人の関係になったのです!」


「えっ、えっ!? えええーっ!!」


 飛び上がって驚く日向。


「多摩川くん、ほんと!?」


「若さ任せの性欲についに敗れてしまいました」


「あー、そっかー。おめでとうね、二人共」


 日向はニコニコしながら拍手した。

 いい子だ。


 続いて、明良川がやって来る。

 妙に辺りを警戒しながらこそこそそている。


「あたし、別にもう戻らなくていいんだけど」


「それはそうだが、まだ呪法使えるだろ? なんかの助けになると思って」


「そりゃ使えるけどー」


 明良川の手のひらで、炎が踊る。

 そう、俺達は、完全にキョーダリアスで身につけた能力を維持したまま地球に戻ってきた。


 つまり、シーマもそれは同じわけで。


「参った参った……!」


 フリフリのワンピースを着せられた西府アオイ……シーマが空を飛んでやって来た。

 おい!


「シーマ、空、空!」


「この世界の連中は下ばっかり見て、空を見上げんのじゃ。平気平気。この肉体の親が、わしを監禁しようとするのでな。窓から逃げ出してやったのじゃ! しかしこの世界の食事は変わっていたのう。味も悪くない」


 どうやらそれなりに、地球の日本を堪能しているシーマである。


「それはともかくとして、情報を集めねばならんのじゃ。わしらはキョーダリアスへ戻らねばならんからな」


「あたしは戻らないんですけどね!」


 明良川の主張を軽くスルーしつつ、境内での会議が始まるのだった。

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