第102話 日向マキ航海記4・蒼の閃撃エスプレイダー

「ダーク・ダイヤモンドってなに?」


 私が聞くと、石神フロントさんはグッと拳を握りしめました。


「奴らはこのサンクニージュ大陸の征服を狙った悪党どもだ。表向きはロボットとモンスターと人間が手を組み、新たな社会体制を打ち立てようという革命運動のように装っていた。だが、奴らはテロリストだったんだ! 俺の両親も、友も、あいつらに殺された。俺もまた復讐を誓って奴らに挑んだが、返り討ちに……。そして俺は奴らに実験体として改造されたが、脳改造手術を受ける前に逃げ出したんだ」


「大変だったんだね……。頑張ったね、石神さん」


「フロントでいい」


「フロントさん。あの、あと、記憶喪失だったはずでは」


「ハッ」


 目を見開くフロントさん……フロントくんです。


「オレハ、ナニモオボエテイナイ」


 バレバレです。

 彼が目覚めた後、今は古代文明がすっかり滅びた後の時代であることをお話しました。

 すると、彼は愕然としたものです。


「ダーク・ダイヤモンドを倒したと言うのに、世界は滅んでしまったのか……。いや、だが人間は生きているんだな……!」


 ここでも記憶喪失設定がボロボロです。

 結局、フロントくんは行き場がないということで、オクタマ戦団に加入することになりました。

 フタマタ副長もイーサワさんもいない状態だと、どうやら私がこの辺を決める権限を持つことになるみたいです。


「私ですか!?」


「おうよ。マキ、お前、オクノに直々になんか言われただろ。どっちのルート行くんだみたいな」


「はい……でも、私が決めても?」


「俺やジェーダイが決めたら、そりゃあ説得力がある。だが、それだって感情に任せて決めたかも知れないし、年の功なんてのはこういう未知の状況じゃ役立たないもんだ。なら、若いお前さんが考えて悩んで決めたほうがいい。オクノなら笑って受け入れてくれるだろうよ」


 オルカさんの多摩川くんに対する信頼が凄いです。

 それにしても、出しゃばらない大人の人って初めてかも知れません。

 うちのコーチとか俺が俺が俺がの人だったし。


「ええっと、それじゃあ。フロントくんは、オクタマ戦団のメンバーとして受け入れます」


 私が宣言すると、オルカさん、ジェーダイさんとロマさん、グルムルさん、船員の皆さんが拍手しました。

 満場一致です!


「オクタマ戦団とやらは正義なのか?」


 フロントくん、そこらへんはこだわってるみたいです。

 なんだかイクサさんみたい。


「多摩川くん……えっと、うちの団長なんだけど、彼が言うにはふわっとした正義を行うための傭兵団なんだって」


「正義ならよし。俺もあんた達の仲間に加えてもらおう。この世界には今、俺を知るものが他にいないからな」


 ということで、正式な仲間です!

 ええっと、こういう時はステータスをチェックするんでしたっけ。




名前:石神フロント/青の閃撃エスプレイダー

レベル:44/66

職業:ヒーロー


力   :120/180

身の守り:100/150

素早さ :180/270

賢さ  :24

運の良さ:95


HP550/1100

MP450


剣:30レベル

ヒーロー殺法:50レベル

風の呪法:20レベル


☆剣

・クロスブレイド・袈裟懸け・駆け抜け

✩ヒーロー殺法

・レーザーブレイド・レイダーダッシュ・レイダーインパクト

・ゲイルブロウ・ブラストキック・マッハコンビネーション

・レイダービーム・レイダースプラッシュ・レイダーバリア

・エスプレイドゼフィロス


★風の呪法

・テールウィンド・ヘッドウィンド・アップドラフト

・ダウンドラフト


 ???

 分からない世界です。

 多分、多摩川くんが詳しいんじゃないかなあ……。


「俺もこいつのステータスはよく分からん」


 オルカさんも首をひねりました。


「ああ、古代文明ではヒーローという職業もあってな。我も何度か手合わせしたことがある。サンクニージュとキョーダリアスの争いは何度かあった故な。説明した通り、奴らの力は身につける呪力を帯びたスーツにある。己の中から呪力を取り出すスーツを身につけるのがヒーロー。他者から略奪した呪力でスーツを纏うのがヴィランと呼ばれていたのである」


「知っているんですかジェーダイさん!」


「我も古代文明時代の生き残りゆえな」


「だが、かつては敵対した同士か」


 フロントくんとジェーダイさんが向き合います。


「この世界に、我らが所属していた国は既に無い。昔の諍いなど国とともに失われてしまったも同然である。だが、フロントよ。失われていない忌まわしき遺産もある」


「なん……だと……!?」


 フロントくんノリがいいです。


「天空の大盆……。二大陸を渡る、あの巨大な空中都市が未だに存在しているのである。しかも、この時代の人間たちを生贄として呪力を保っておる」


「馬鹿な……!! あれは俺と仲間達が破壊したはず!」


「一つだけでは無かったのかもしれぬな。そして天空の大盆は、今は我らが団長オクノ殿の宿敵に乗っ取られ、世界に災いを振りまきながら空にある」


「なんてことだ……! そうか、俺が目覚めたのはそれと戦うためだったんだな……!! ところでそのオクノというのはどこに」


「今は出張中である」


「そうか、残念だ。さぞや正義感溢れる好漢であろうに」


 どうかなあ。








ところかわって。


 ここは新帝国の謁見の間。

 改めて、傭兵団として依頼を正式に請けた俺達。


「……ということで、海の方に仲間達を待機させているので合流しようと思うんだが」


 俺が告げると、ファイナル皇帝は、ふむと頷いた。


「船にいるのだな? では、帝国の港を使わせよう。先代がモンスターを追い払って開拓した町がある。そこに船を止めるがいい。ファルコン、お前が案内をしてやれ」


 皇帝に声を掛けられたのは、インペリアルガードで最も影の薄い男である。

 俺達が最初に出会った、門のところにいたあいつだな。


「かしこまりました。では、天空の大盆との戦いは」


「余が直々に出る」


「おおっ……」


 周囲から感嘆の声が漏れた。

 皇帝が直々に戦いに出てくるとか。

 しがらみとかそういうのをふっとばして、最終決戦って感じなのか。


「イクサ、皇帝が強いって言ってたろ。どれくらいだ?」


「俺といい勝負ができそうだ」


「つまり桁外れに強いんだな、よく分かった」


 俺は納得した。

 それならば問題ないだろう。

 七勇者はまあそこそこの強さとは言え、一般兵だと相手にならない。


 ぶっちゃけると、オルカとグルムルが組んでも七勇者相手には分が悪いのだ。

 タイマンで戦えるのは、俺とイクサくらいのものだろう。

 イクサといい勝負できるなら、皇帝陛下も七勇者とタイマン張れるだろう。


 さて、皇帝の命を受け、インペリアルガードのファルコンは旅立った。

 イーサワのバギーの助手席に乗ってである。

 初めての乗り物に、彼の顔はこわばっていた。


 生まれて初めて車に乗るんだもんな。

 緊張するよなあ。


「では団長! また仲間達とともに合流しますから!」


「おう、みんなによろしく!」


 我が傭兵団の主務は土煙とともに去っていった。


「で、フタマタはこっちに残るの?」


「わおん」


「ああ、どうせみんな来るもんな。向こうもメンバーが増えてたりしてな」


「わんわん」


「はっはっは、海だからそれはないか。幽霊船と戦ってたなら、仲間になるなんてアンデッドとかだもんなあ」


 さて、俺達も準備を整え、合流の地である港町へ向かうのだ。

 そこからは、天空の大盆との決戦を見据えるぞ。


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