第77話 俺、潜水艦と遭遇する

 たとえ異世界に来たとしても、未成年なので飲酒はしない方針の俺。

 最近では伸び盛りの筋肉の働きに悪いので、お酒は飲まないという方向に変えている。


 だが、たくさん飲み食いすれば出るものは出るのだ。

 トコトコと桟橋まで行って、小便をすることにした。


 海に向かって気分良く出すものを出していると、どうも足元が明るい。


「なんだなんだ」


 じっと、俺の小便が落ちる辺りを見ていると、丸くて明るいものがいくつもあるではないか。


 ははーん、この辺り、浅瀬になってなくていきなり断崖絶壁みたいになってるんだな。

 海底までかなりの距離があると見た。

 だから、あんなピカピカ光るものがたくさん水の中にいられるのだ。


「いや、待て俺よ。あれはもしや、噂に聞く潜水艦では」


 俺はハッとした。


 ここで俺の頭上に選択肢が生まれる。


1・みんなを呼びに行こう。すぐに潜水艦が現れるなんて由々しき事態だ。対策を考えねば!

2・ヒャッハー! 待ってやがれ潜水艦! 俺は飛び込むぜえーっ!


「ヒャッハー! 待ってやがれ潜水艦! 俺は飛び込むぜえーっ!」


 俺はカッとなって水中にダイブした。

 さっきまで用を足していたところだが、きっと潮の流れで希釈していることだろう。


 すると、俺に続いて水に飛び込む者がいる。

 誰だと思ったらロマだった。


「がぼがぼごぼ」


 俺が話しかけると、人魚は呆れた顔をした。


「水の中で息もできないのによくやるねえ。でも、あんた、あたいがいてラッキーだよ。そういうところ、あんたは凄くツイてるのかもね。水の呪法……!」


 彼女は呟くと、俺に近寄ってきた。

 むむっ!

 顔が近いぞ。


 そして彼女の唇が俺の唇を塞ぐ。


 アッー!

 ファストキスーっ!


 と思ったら、何かを押し込まれた。


「これは何かね」


 質問を口にしてみたら、水中なのに喋れるし息ができることに気付く。


「これはあたいの作った人魚の泡。こいつを口に含んでいれば、水の中で喋ることも息をすることもできるのさ。ちなみにあたいら人魚独自の呪法で、口移しじゃないと使えないの。人間は口づけを特別視するんだって? ノーカンノーカン。これは口づけじゃないから」


「なるほどノーカン」


 俺は納得した。

 そんなことより、潜水艦である。

 水中をごぼごぼ泳いでいくのだが、思うように進まない。


「人間の体では限界があるな」


「手を引っ張ってあげようか?」


「それもいいんだが、自分でなんとかできるようになっておきたい! よし、幻術でなんとかしよう。火幻術!」


 俺が足元に火の幻術を生み出すと、そいつは一時的に実体化して水を高速で熱した。

 なにか起こるかと言うと、爆発ですな。


 とんでもない爆発が起こって、俺はそいつにぶっ飛ばされて潜水艦まで一直線。

 水の抵抗が凄いぞ!


「ブロッキングだ!!」


 水の抵抗をブロッキングして、そのまま潜水艦まで一直線。


「はあーっ!? あんた無茶し過ぎだよ!? こんなことするやつ初めて見た!」


 ロマも爆発に押されながら、唖然とした目を俺に向ける。

 なに、潜水艦まで到着したんだ。

 結果オーライなのだ。


「まあいいや。なんかあんたには何を言っても無駄な気がする。気をつけなよ。センスイカンは近づいたやつを無差別に攻撃してくるんだ! ほら来た!」


 潜水艦は全身に光る窓みたいなのをくっつけた、未来の乗り物みたいな姿だった。

 そいつの光る窓が開いて、エビっぽいのが飛び出してくる。


 エビメカかな?


「エビビーッ」


 機械的な音声で丁寧にエビって言った。

 仮称エビメカとする!


「よし、くらえラリアット!」


 俺は大きく腕を振る。

 だが、これは水中を自在に動くエビに避けられてしまった。

 なんということだ、水の抵抗で攻撃が思うように放てない。

 

 こういう時に必要なのは……。


「エビエビーッ!!」


 エビたちが俺達めがけて殺到してくる。


「やばいよ!!」


 ロマが叫ぶので、俺は彼女をひっつかんで後ろに隠した。

 ということで、エビメカが俺へと集中攻撃なのだ。


 水中で使える技が必要だ。

 今すぐ!


 ピコーン!


 来たっ!


『サブミッション』


 ふわっとした技が来たな。

 範囲が広すぎない……?


 だが、俺はエビメカの一尾を受け止めると同時に、その頭を小脇に抱え込んでいた。


「サブミッション・フロントネックチョーク!」


「エビーッ!」


 腕力でもりもりとエビメカの頭を締め付けると、そこがバキッと音を立てて壊れた。

 エビ味噌を垂れ流しながら沈んでいくエビメカ。


「エビエビー!」


 今度は飛び込んできたやつを掴みつつ、太ももでそいつを挟んでエビ反りに折り曲げる!


「サブミッション・水中・逆エビ固め!」


「エビーッ!!」


 エビの胴体がスポンと抜けた。

 こいつ、エビメカだと思ってたらメカの下には白い身があるではないか!

 身の部分がすっぽり抜けたので、俺はちょっと摘んで食べてみた


 甘くて美味しい。


「戦いながら敵を食ってる……!? とんだ豪傑だね……! でも嫌いじゃないよ! あたいもあんたを支援するから!」


 ロマが水の呪法を使うと、俺の回りに泡が生まれた。

 そして、俺の体にかかる水の抵抗を軽減してくれるようだ。

 これはありがたい。


 そして俺は、並み居るエビ軍団を次々にサブミッションで仕留めていく。


「サブミッション・一本足4の字固め!」


「エビーッ!」


「サブミッション・水中キャメルクラッチ!」


「エビーッ!!」


「サブミッション・カナディアンバックブリーカー!」


「エビビーッ!!」


 どんどんエビが減り、白くて甘い身が水中をプカプカ浮かぶようになっていく。

 モンスターを素手で倒す俺が、その全力を関節技に叩き込むのだ。

 エビメカごときに耐えられるものではないのだ。


 そして今回身につけたサブミッション、関節技っぽいのが敵に合わせてランダムに発動するということが分かった。

 使い勝手は悪くないが、地上なら打撃技や投げ技の方が強いだろう。


 こういう限定環境向けの技だな。


 やがて、多くのエビを減らされた敵は、少しずつ俺と距離を取るようになった。

 逃げるかな?


「エビーッ!!」


 捨て台詞みたいなのを吐いたぞ。

 そして一斉に、俺に尻尾を向けて遠ざかっていく。


 気がつくと、潜水艦も遠ざかるところだった。


「……勝った」


「大したもんだよ……。人間が水中であれだけ戦えるなんてねえ。確かに腕力に自信があるなら、水の中でも使える掴み技は有効だねえ」


 ロマが感心している。


「あっ、でも潜水艦逃げたじゃん!!」


「そうさね。でも、あいつが逃げるなんてよっぽどだよ。今回はあたいが追っ手をつけてるから安心しな。いつもなら、エビどもにやられて追っ手をつける余裕もないのさ」


「追っ手とは」


「人魚は魚も操れるってことさね」


 なるほど、便利だ。

 まさしく、水の中は人魚の世界なんだなあ。


 さて、酒を飲む連中にとって、エビ肉は最高の酒の肴に違いない。

 拾って行ってやるとしよう。


 俺は水中を漂うエビの肉を回収することにした。

 それをやりながら、ステータスをチェックする。



名前:多摩川 奥野


技P  :880/1256

術P  :313/393

HP:1147/1312

アイテムボックス →

※カールの剣

※祭具・ローリィポーリィ

※戦士の銃


✩体術         →

・ジャイアントスイング・ドロップキック・フライングメイヤー

・バックスピンキック・ドラゴンスクリュー・シャイニングウィザード

・フライングクロスチョップ・サンダーファイヤーパワーボム・エアプレーンスピン

・ブロッキング・ラリアット・ブレーンバスター

・エルボードロップ・アクティブ土下座・スライディングキック

・ナイアガラドライバー・パリィ・ワイドカバー

・ドラゴンスープレックス・フランケンシュタイナー・ムーンサルトプレス

・サブミッション


★幻の呪法

◯幻炎術◯幻獣術◯雷幻術

◯幻影魅了術◯幻氷術◯水幻術

◯幻影戦士術

★陣形・陣形技      →

・マリーナスタンス3

・マリーナスタンス5

・デュエル


 ……ふと思ったんだが。

 マリーナスタンスを水中で使ったらどうなるんだ?

 実は意外と、これがあれば水中でもそれなりに戦えるかも知れない。


 今度試してみることにしよう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る