第57話 俺、海賊船に挑む

「海賊王国の船だー!!」


 見張りの声が響く。

 さっそく来た!

 遠くからこちらが出港するのを見張ってたのかもしれないな。

 これは確かに、船を出していられないわ。


「どうするんだ? オクタマ戦団はちゃんと我々を守ってくれるのだろうな?」


 ヒゲの船長さんが不安そうに言う。


「任せてくれ。必ず守るので、まずは船を海賊船に寄せてくれ」


「は!? 海賊船に寄せる!? 逃げるんじゃないのか!?」


「逃げていては近距離攻撃が当たらないじゃないか! こっちから殴りかかって船をいただくんだぞ!」


「正気じゃない……!」


 船長さんが天を仰いだ。

 これには、交渉役のイーサワも笑う。


「彼らは正気ではやっていけない戦場をいくつもくぐり抜けて来ていますよ。六欲天すら倒していますからね」


「六欲天を!? そ、そんな馬鹿な。あれは人間にどうこうできる存在ではないだろう!」


「それをどうこうできる存在が荒々しき昆布号の守りについているのです。彼らの言葉に従ってみてはどうでしょう?」


「う、うーむ。確かに海賊船の方が船足が速い。追いつかれてしまうだろう。だからこそこちらから仕掛けるというのは……うーむ」


 船長がうんうん唸る。

 決断が遅れるほど、海賊船がこっちに寄ってくるというものだ。

 おお、もう乗ってる海賊が肉眼で確認できるぞ。


「船長ぉ! もう間に合いません! 追いつかれますー!」


「く、くっそぉーっ!! 俺は知らんぞーっ! もうやけくそだあ! 船を寄せろ! 海賊船にぶつけてやれー!!」


「マジっすか!?」


「俺はマジだーっ!!」


 おお、ついに船長が吹っ切れた。

 俺も仲間たちに合図を送る。


「はい、じゃあ接舷する側にみんな集まってー。鈎ロープが引っかかってくると思うから、それを伝って乗り込むよー」


「随分と詳しいのね、オクノ」


「うむ。いつも知識役をラムハに押し付けてるだけじゃないぞ。俺だって元の世界で海賊に関する知識は日本一有名な海賊マンガとかで学んでるんだ」


「マンガで得た知識……!」


 俺とラムハの会話を聞いて、日向がクラクラしている。

 ちなみにカリナは船酔いでぐったりしているので、今回は戦力外だ。

 看病するためにアミラがついている。


 二人欠員ということで戦闘を行う。

 

 海賊船が近づいてくると、海賊たちの奇声もよく聞こえてくるようになる。


「ヒャッハー! 新鮮な獲物だーっ!」


「ウリウリウリウリィィィィーッ! ばらばらにして海に叩き込んでやるぜぇーっ!」


「おいお前ら! 女が乗ってるぞ! 女だーっ!」


「えっ、本当?」


「本当だ!」


「ヒャア、たまらねえ!」


 元気な人たちだなあ。


「飛翔斬!!」


「ウグワーっ!!」


 あっ!!

 イクサが先走った!!

 飛翔斬が届く距離になったから、いきなり仕掛けたな。

 手綱的なものを手放すと、すぐに自律行動で攻撃を始めるからこいつはやばい。

 哀れ、斬られた海賊は首と胴が泣き別れだ。よくウグワーとか叫べたな。


「仕掛けてきやがった!」


「なんだあの攻撃!」


「許せねえ!」


「殺せー!」


「皆殺しだー!!」


 海賊がカッとなったぞ。

 これを聞いて、船長も船乗りたちも青くなる。


「もうだめだあ……! おしまいだあ」


「こらこら、絶望するんじゃない」


 俺は彼らを励ました。


「三分だけ、俺たちを信じて待っているといいぞ。すぐ終わらせてくるからな」


 俺が優しく伝えると、船長が、「さんぷんってなに……?」とか呟いた。

 さあ、海賊船と接舷だ。

 鈎つきロープがいくつもこっちに引っかかって来ようとするので、それを受け止めて船からジャンプする。

 船が傷つくだろうに。

 そしてロープは海賊船に固定されているから、安心して飛び移れるというものだ。


「ヒャッハー!! 覚悟しろ海賊どもー!」


「自分から海賊船に乗り込んで来やがった!!」


「正気じゃねえぞこいつ!」


 海賊に正気を問われる俺。

 とりあえず手近な海賊を、次々にラリアットでなぎ倒していく。

 俺に向けてサーベルとかダガーで切りかかってくるやつもいるが、鍛え抜かれた肉体はその程度の攻撃では傷一つつかないのだ。


「加勢するぞオクノ。十六夜……!!」


「あっバカ! イクサその技は」


 飛び乗ってきたイクサが放つ、強烈な斬撃。

 マスト一本をやすやすと切断して、その奥にいた海賊数人を一撃で文字通り粉砕。

 船の左舷側を大きく削り取った。


「威力高すぎるってー」


「なにっ」


 技を放って初めて、十六夜はこの場で使うに相応しくないと理解するイクサ。

 だが、学習はしてくれたようだ。


 その後、のんびりと乗り移ってきたルリアが、こいつは与し易いと襲いかかった海賊をまとめてスウィングで麻痺させ、それを日向がコツンコツン叩いて気絶させた。

 オルトロスのフタマタ。

 彼が一番いい仕事をした。


 俺の影に隠れて船に乗り込み、そのまま船長室へ。

 船長を叩きのめして戦闘不能にした後、鍵のかかった宝箱を破壊して海賊王国の重要書類らしきものを確保したのだ。


「わんわん」


「お、フタマタ、その書類は一体……?」


「わんわん、わふん」


「あっ!! 海賊王国の航路図じゃないか!? めっちゃ重要書類じゃないか! どこでこれを?」


「ふんふん」


「船長室か。ではもしや船長は既に?」


「むふー」


「よーしよしよし! よくやったぞフタマター!!」


 残る海賊の相手はイクサに任せ、俺はフタマタを存分にもふった。

 そうこうしている間に、海賊が全滅した。

 帝国の兵士より弱かったな。


 船長を縛り上げて色々聞いてみることにした。


「海賊王国ってさ、どうなの」


「ふわっとした質問するな……! シン・コイーワ様に率いられた俺たち海賊王国は無敵よ! 帝国の海軍だって俺たちと戦うのを恐れるんだぜ!」


「ええ……。帝国海軍の方が絶対強いでしょ……」


「いや、その、それは俺たちが弱いだけで」


 海賊船長が申し訳無さそうな顔になった。


「だが、こんな事をしてると、シン・コイーワ様が雇った勇者が襲ってくるぜ!! 七勇者カイヒーンさんは化け物みたいに強いからな! いや、化け物なんだが」


「ほうほう」


「それに、俺たちの船はたまたま遺跡で発掘した魔道具を装備してなかったんだ。命拾いしたな! ここで俺を見逃せば命だけは助けてやるぞ!」


 縛られてるのに尊大な態度をとる。

 ある意味凄いなあ。


「一応、俺たちの目当ての一つがその七勇者なのね。そいつを倒して、シン・コイーワも倒して海賊王国を滅ぼすの。なんかおたくの話聞いてると、そこまで大したことなさそう」


「滅ぼす!? 海賊王国を!? わっはっは!! こいつは傑作だ! シン・コイーワ様は遺跡によって強大な力を手に入れてらっしゃるんだ! お前らごときが勝てるはずがない! この俺たちを制圧するのにお湯がちょっとぬるくなるくらいまで時間をかけたお前たちでは……。……制圧早くない?」


「手加減したから死者は少ないぞ」


 俺は優しく微笑んだ。


「あっ、海賊王国が危ない」


 海賊船長が震える。


「なんかお前ら、本当にやばい奴だって気がするので、海賊王国に依っててもまずい気がしてきた……。お願い、逃して? 俺たち海賊王国から抜けるから」


「だーめ。おたくらは、都市国家の法に任せちゃうよー」


「や、やめてー!! 縛り首確実だからー!!」


「だーめ」


「ひぃー!」


 俺と海賊船長のやり取りを、ラムハが生暖かい目で見守っていた。


「何遊んでるの、オクノ」


「いやー、なんか情報がつかめるかなって思って。よく考えたら俺、人と会話するの苦手だったわ」


「そうよね。オクノが聞き込みするのはちょっと難しいわよねえ。後は私に任せて」


 俺と代わって、ラムハが海賊船長を尋問する。


「おっ、今度は色っぽい姉ちゃんが俺の担当か! さっきのガッチリした野郎よりは全然ましだぜ! ヒューッ! 着痩せするみてえだが絶対その下でいいもの持ってるだろ姉ちゃん! いいぞ脱げーっ!」


「闇の支配」


「ウグワーッ!!」


 あっ!

 ラムハが微笑みながら、精神支配呪法を掛けたぞ!

 海賊船長の目が虚ろになる。


「聞いたことは何でも答えるのよ?」


「ハイ、ラムハサマノ、イウコトヲ、キキマス」


 できのわるいAIみたいな回答をしてる。

 ラムハは怒らせると怖いのだ。



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