第50話 俺、砂漠で宝石探しする
善は急げというので、一晩町で休んでからすぐに砂漠へ出発することにした。
宿に泊まる金はギリギリあるので、宿泊してから出発だ。
「いやあ、僕まで宿をいただいてしまってすみません」
イーサワがへこへこしている。
大変腰が低い。
「いいんだよ、困ってる時はお互い様だからな! それに、回収した宝石で俺たちの報酬が払われるのだからあんたは雇い主だ!」
「あー、ですが必ず回収できるとは限らないのでは」
「砂漠じゅうの砂蟲を刈り取る勢いで行く……! あとは、ここにフタマタがいるだろう」
「わふん?」
「この双頭の犬ですか」
「犬は鼻がいい……。イーサワの臭いを覚えて宝石を探り当ててくれるだろう」
「ええっ、砂漠でも臭いを辿れるんですか!?」
「たぶん」
「ですよねー」
夜はこのようにして過ぎていった。
で、朝。
「砂蟲は縄張りを持っていると言われているわね。イーサワが襲われた場所の周辺で、宝石を飲み込んでいる砂蟲がいるかも知れないわね。あとは……砂蟲を呼ぶような何かができればいいのだけど」
「おお、さすがはラムハ、詳しい……。自分の記憶以外は大体何でも知ってるなあ」
「ま、まあね」
何気に記憶を取り戻してて、着々とフラグが積み上がっている疑惑があるけどな。
いつフラグが回収されるか分からないから、ドキドキだぞ。
「砂蟲を呼ぶ……? 基本的に砂蟲を避けることしか考えていなかったので、想像もしてませんでしたよ。あいつらは臭いに敏感なので、砂蟲が嫌いなお香を焚きながら旅をしたりするのですが。あとは……砂漠を走ったりしてはいけないと言われていましたね」
「それだ! 砂蟲、嗅覚と触覚に頼ってるんじゃないか? つまりな、砂漠の振動を感じて襲ってきてるのかもしれない。試してみる価値ないか?」
「おおおー」
女子たちが感嘆の声をもらす。
「オクノ、やはりお前は、頭を使うのが得意だな。頼りになる男だ」
イクサはちょっと感動したように、うんうんと頷くのだった。
「ええ……」
ちょっと日向が引いていた。
砂漠に繰り出した。
岩石砂漠だが、岩石じゃないところは砂が多い。
場所によってはアリジゴクの巣のようになっていたりもして、危険らしい。
商人たちの通り道は、彼らが長い時をかけて発見した安全な道なのだそうだ。
地面が踏み固められており、崩れる心配がない。
下に岩盤とかがあるのかもしれない。
だとすると、真下から襲われる心配はないな。
俺たちは、日差しを避けるためのフードを纏い、軽い足取りで砂漠の只中までやって来ていた。
「皆さん体力がありますねえ……」
「レベルが高いからね!」
ルリアが力こぶを作ってみせる。
レベルが上がると、砂漠の踏破能力が上昇したりするの?
「なるほど、レベルが高いんですなあ。納得しました。その様子だと、皆さん30レベル超えでしょう」
「すごーい! イーサワさんよく分かるねえ」
「あの……私、まだ26レベル……」
日向がこっそり自己申告してきた。
今一番レベル低いんだよなあいつ。
一応、ヒルジャイアント退治で1レベル上がったとは言え。
「ははあ、なるほど。では、この凄い面々を率いているオクノさんは一体何レベルなんで? 人数的にパーティ登録できないので、私ステータスが見えなくて」
「俺? 俺はね」
パーティ構成をいじって、イーサワを加えてみる。
「ほうほう、凄いHPだ……! ……んっ!? んんんーっ!? レ、レ、レベルがないっ!! 他のステータスもないっ!! なんですかこりゃあー!!」
「な?」
「な? じゃないですよ! うわー。なんて簡単なステータスなんだ……。しかもスキルレベルさえない。なのに、固有名を持った技がこんなにたくさん……」
「ははは、ステータスの技表記と陣形表記な、こうして横にスライドするんだ」
シャッシャッシャッと表記をスライドさせると、イーサワが「ほおおおお」と不思議な叫びを上げる。
こんなに驚いてもらえると楽しい。
ちなみにここで、イーサワのステータスも見れた。
名前:イーサワ
レベル:12
職業:商人
力 :16
身の守り:25
素早さ :18
賢さ :85
運の良さ:79
HP70
MP65
土の呪法5レベル
剣1レベル
弱い。だけど商人だもんなー。
戦闘関係は期待しないでおこう。
「いやあ、お恥ずかしい。腕っぷしはさっぱりでして。商人としても、父の商人株を受け継いだばかりで新米でして……」
「商人株?」
「ああ、はい。旅の商人は皆、商人株というものを持っております。これは北方の都市国家群を渡りながら商売をするための資格でして。王国や帝国でも、露店を出す資格を保証してくれます」
イーサワが腕まくりすると、彼の二の腕に丸い形の模様が浮かび上がった。
呪法でつける証明かな。
「オクノくーん! この辺じゃない?」
離れたところで、ルリアが飛び跳ねている。
隣ではオルトロスのフタマタが、くんくんと辺りを嗅ぎ回っていた。
「わんわん!」
「おっ、間違いなさそうだ」
イーサワが襲われたと思わしきところに、みんなで集まる。
「一体どうやって音を立てるんですか?」
イーサワの質問に、俺は笑って応じる。
「うるさくすればいいんだ。やかましい事に関しては、俺たちはかなり自信がある……!! よーし、イクサ、模擬戦をするぞ!」
「なにっ! いいのか!? 今日はこんな日が高い内から模擬戦していいのか!?」
「おかわりもいいぞ!」
「よしっ!! 裂空斬!!」
「いきなりかーっ! ブロッキング!! おらあ! スピンキック!」
「ぬうおーっ! ディフレクト! すわっ! カウンター!!」
「うおっ! いいパンチしてるじゃないか! だがその手、掴んだぞ!」
「しまった!!」
「行くぞ! ナイアガラドライバーッ!!(手加減)」
「ぬわーっ!!」
砂漠に飛び散る水しぶき。
舞い散る砂。
「オクノくんとイクサくんが戦うと、派手ねえ……。お姉さん、見慣れてるはずでも毎回びっくりしちゃうわ」
「陽動という意味では間違いなく最高レベルですね。実戦だってここまでうるさくないですよ」
「うわーっ! 二人ともやれー! もっとやれー!」
俺たちのやり取りを、イーサワはポカーンと口を開いて見つめていた。
呆然としているな。
本場の模擬戦はなかなか迫力があるだろう。
砂漠に生まれた小型のクレーターから、俺とイクサが笑いながら上がってきた。
「いやあ、参った参った。まさか落下の勢いでカウンター入れてくるとはな」
「ふっ、俺もお前の戦い方をいつも見ているからな。新たな技の参考にならないか、いつも考えているのだ」
「あ、あ、皆さん! 後ろ後ろー!!」
イーサワが震えながら、俺たちの背後を指差している。
「そんな古典的なギャグみたいにー」
俺がニヤニヤしながら振り返ると、今まさに巨大な砂蟲が鎌首をもたげているところだった。
もう来たーっ!?
「早い!!」
砂蟲は、鎧を着たばかでかい芋虫という感じの外見だ。
『もがーっ!!』
なし崩し的に戦闘開始だ。
「オルトロス! におい分かるか!?」
「くーん」
分からないようだ。
あれが標的とは限らないな。
『もがもがーっ!!』
巨体を持ち上げ、飛び上がる砂蟲。
俺たちを目掛けて落下してくる。
落ちてくるのはあれだな。
ダグダムドのプレスの、ちゃちいやつだ。
「玄武陣!!」
俺は宣言した。
メンバーを即座に選択する。
俺、ルリア、アミラ、カリナ、ラムハ。
俺とルリアで前衛を。
「ブロッキング!」
そして、落下してきた砂蟲を受け止める。
傍らで、ルリアが槍を振り回す。
「スウィング!」
『もがーっ!?』
砂蟲が俺の真上で麻痺した!
「闇の衝撃!」
「バードハンティング!」
「ウォーターガン!」
砂蟲を、連続での攻撃が揺るがす。
そして……。
「おい、異世界から来た女、俺に合わせろ」
「えっ!? え、合わせるって!?」
「連携だ……! 行くぞ! 裂空斬!!」
イクサが放つ真空の斬撃が跳ぶ。
そして、イクサから光の線が伸びて日向に。
「わ、わわっ! 私は……技を……!?」
「行け!」
イクサに声に導かれて、日向が飛び出す。
「三角蹴りーっ!!」
『裂空角蹴り』
三角蹴りってのは、三角飛び蹴りのことらしい。
日向が飛翔しながら、空を蹴って勢いを増す。
その蹴り足が、イクサに切り裂かれた砂蟲に叩きつけられる。
『もがーっ!?』
砂蟲は一声叫ぶと、そのまま爆散した。
威力がでかすぎたんだな。
俺は目を凝らす。
ふーむ。
キラキラしたものは降ってこない。
「……外れだな」
「はあ……外れですか……」
呆然としているイーサワ。
びっくりし過ぎて麻痺しているようだ。
「よーし、イクサ、次行ってみよう。この辺り中の砂蟲を呼ぶぞー」
「よしっ!」
当たりが出るまで、ひたすら模擬戦して呼び寄せるのだ……!
ちなみに、当たりは三回目の砂蟲で出た。
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