第46話 俺、森の前でルリアと手合わせする
ふと妙なことに気付いた。
遊牧民たちを連れて旅する七日目くらいだ。
「ここ、ステップだよな? カリカリステップ」
「ええそうよ」
どこまでも続く広大な背の低い草原を歩く俺。
隣にはラムハ。
みんな、思い思いのペースでのんびり歩いている。
「遊牧民の人たち、森に行くって言ってたよな」
「ええ、そうね。キシア大森林が目的地よ」
「そう、それだよ。俺が地理の授業で習った地形だと、ステップに森は無かった気がするんだ。そこから砂漠だったか、山になったりした。なんか気候が変じゃない?」
「女神キシアの加護が働き続けている土地なの。だから、ステップと砂漠のあいだに、突然豊かな森が出現するのよ」
「ほえー」
「もう見えてきてるわ」
ラムハが遠くを指差す。
その方向をじーっと見ると……なるほど、地平線の彼方に緑色の線が走っているのが分かる。
「あの線が大森林かあ」
この世界に来たばかりの俺だったら、とんでもなく遠くに感じたかも知れない。
今は、見えるんだから歩いてりゃ必ず辿り着くだろ、くらいの感覚だ。
当座の目的地も見えたということで、ひたすらひたすらに歩く。
二日くらい歩いたら、いよいよキシア大森林なのだ。
ここに来るまでの間に、丘巨人を何体か倒した。
そこで仲間たちのステータス確認とか、少人数陣形のチェックは終えている。
ステータスはシーマを倒して大きく伸びてたけど、丘巨人レベルなら対して変化しないようだ。
我々にはもっと強い敵が必要だ……!
「マキー。休憩時間で模擬戦しよう!」
「あ、はい! お付き合いします!」
ルリアに誘われて、日向が立ち上がる。
年下のルリアにも敬語を使う理由は、俺のパーティの先輩だからだそうだ。
俺にだけタメ口なのだ。
みんなにタメ口でいいのにな。
羊飼いの棒を槍代わりに構えたルリアと、徒手空拳で構える日向。
我流だったルリアも堂に入ってきたなあ。
辺境伯領で騎士たちから槍の基礎を学んだらしいもんな。
対する日向は、まんま空手の構えだ。
この空手スタイルに合わせて、俺が継承した技はことごとく姿を変えた。
今は六つくらいの技を使えるようになっているが、どれもこれも日向オリジナルみたいな動きと効果になっている。
「とりゃー」
ルリアが緩い感じの声をあげて、棒で突き掛かった。
掛け声が緩いのに、棒の突き込みは凄まじく鋭い。一直線に日向の鳩尾辺りを狙ってくる。
「ふっ」
これを日向は腕で払い除けた。
前進しながら、ルリアの懐に入り込む。
超至近距離からのパンチだ。
だけど、ルリアは半歩下がりながらこいつを棒の柄で受けた。
「ほいほいっ」
棒を半回転させて、その中ほどを日向に当てて距離を取る。
そこから、シームレスで突きの動きになった。
あれっ。
ルリア強くね?
「むっ! 回し受け!」
日向が技を使った。
これ、俺が継承したブロッキングが変化したやつね。
効果はかなり近くて、ルリアのエイミングだってかなりダメージを軽減される。
ましてや、ただの突きなら軽々弾かれるのだ。
「うわー、やったなー! じゃあこれでどうだ、二段突き!」
ルリアの棒がぶれる。
凄い速さで二回突いてきた……いや、なんか棒が分身して同時に突いているように見える。
あれは技が進化したりしてないかね?
後でステータス見てみようっと。
「わわっ!?」
慌ててこれを回し受けする日向だが、初見の技を止めきれない。
彼女の喉と鳩尾に、棒の先端が寸止されたところで……。
「そこまで!」
カリナが声を上げた。
えっ! お前審判だったの!?
ルリアと日向はふーっと息を吐いた。
ルリアの棒がまたぶれて、一本になる。
どういう原理なんだ……。
「ありがとうマキー。あたしのスーパー二段突きが試せたよー」
「参りました。ルリアさん強いです……! 多分、クラスの強い人たちと互角くらいだと思います」
あの村娘ルリアがそこまで……!
そしてスーパー二段突きとは一体。
「むっふっふ、今ならあたし、オクノくんにも勝てるかもだよ!」
「なにい」
俺は立ち上がった。
そう言われて放って置けるほど、俺は老成していないぞ。
「なら俺も槍でルリアの相手をしてやるぞ! そいっ」
アイテムボックスから槍を取り出した。
そして、穂先をチョップで叩き折って棒にする。
遊牧民たちがもったいなさそうな顔をした。
いいのいいの。
「さあこい」
「エイミング! オクノくん覚悟ー!」
「うわお前いきなり防御不能技出す奴があるかよ! 痛い痛い!」
「マキは防御硬かったけど、オクノくんは体で受けるからねー。ほらほら、足払い! スウィング! スーパー二段突き!」
「いてー! なんで俺には寸止めしないんだー!?」
これは強い。
容赦がない。
「最近あたしと遊んでくれないから腹いせだよー!」
私怨だったー!!
だが、これはなかなかのピンチかも知れない。
主に俺の立場がピンチだ。
ええい、俺の才能よ、目覚めろ!
このピンチを切り抜ける力をー!
ピコーン!!
『ミヅチ』
「ミヅチ! 当てない感じでスッと頭の上を掠める感じ!!」
俺の体から、水幻術が使われるイメージがあった。
それと同時に棒を突き出すと、刺突が水を纏い、蛇のような形になった。
そしてそのまま、蛇の刺突はルリアの棒をへし折り、上空へとぶっ飛んでいく。
呪法技だな、これ。
ルリアには使えないやつだ。
「ひいー」
ルリアが腰を抜かした。
「ずるいよオクノくんー! ここで技を閃くとかおとなげない……」
「ぐはははは、男には負けられない戦いがあるのだ」
でも新しい技を閃いたのは収穫だった。
幻術が様々な属性の呪法を、あちこちかじってるお蔭だろうか。
呪法技を閃きやすい気がする。
「それじゃあ、ルリアさんと多摩川くんで一日デートしてもらうのは」
あっ日向お前余計なことを!
「いいねいいねー! じゃあオクノくん、あたしの腰を抜かしたお詫びに一日一緒にいよう! 一線超えてもいいんだよ……!」
「一線は超えさせないけどたまにはいいんじゃない?」
ラムハの監視の目が光る。
アミラとしても同意見のようだ。
「負けてられません。わたしもルリアのように新しい技を編み出さないと……」
カリナが燃えている!
「次は俺との手合わせだな」
当たり前みたいな顔をしてイクサが剣を抜いた。
お前、それ真剣だから!!
棒にしてくれ!
ということで、俺とルリアの変化したステータスの確認だ。
名前:多摩川 奥野
技P :755/830
術P :280/333
HP:709/855
アイテムボックス →
※カールの剣
※祭具・ローリィポーリィ
✩槍 →
・足払い・二段突き・風車
・スウィング
☆槍・呪法技
・ミヅチ
★幻の呪法
◯幻炎術◯幻獣術◯雷幻術
◯幻影魅了術◯幻氷術◯水幻術
★陣形・陣形技 →
・青龍陣/ドラゴンファング
・白虎陣/タイガークロウ
・朱雀陣/フェニックスドライブ
・玄武陣/タートルクラッシュ
槍技は少ないが、ミヅチはなかなか使えそうな呪法技だぞ。
悪くないんじゃないか。
名前:ルリア
レベル:29
職業:槍使い
力 :35
身の守り:35
素早さ :50
賢さ :14
運の良さ:680
HP158
MP13
槍18レベル
体術4レベル
✩体術
・バックスピンキック
✩槍
・足払い・二段突き・風車
・スウィング・エイミング・無双三段(未完成)
スーパー二段突き……?
おい。
……おい!
なんか未完成の無双三段とか言うのが生えてるんだけど!?
これがスーパー二段突きちゃんですか……。
ステータスの伸び方もだんだん良くなってきてる……。
職業が村娘から槍使いに変わったせいだろう。
これはうかうかしていられないぞ。
俺もどんどん強くなっていかないと、後ろからまくられそうな気がする!
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