第34話 俺、嫌味な王子と会う

 ルリアの強さ、そこまで絶賛されるほどだろうか。

 どれどれ……?


名前:ルリア

レベル:21

職業:槍使い


力   :24

身の守り:22

素早さ :32

賢さ  :12

運の良さ:409


HP107

MP11


槍7レベル

✩体術

・バックスピンキック

✩槍

・足払い・二段突き・風車

・スウィング

※槍技が生まれました。・エイミング



 エイミングの性能は……回避不能技か!

 しかも一定確率で相手の防御を無視する。

 一定確率ということはルリアの運の良さだと、確定で防御を無視するってことだな。

 ぶっ壊れじゃないか。


 確かに、ルリアがどんどん強くなっている。

 主にこの人は、運の良さでステータスの低さをひっくり返しているからな。


「むっふっふー。オクノくん、どう? どう? すごくない?」


「すごい」


 俺は素直に凄いと思ったので褒めた。

 ニヤニヤするルリア。


「あと、こっちの世界の人でも技を閃いたりするの?」


 俺が抱いた疑問に対し、ルリアと訓練していた騎士が答えてくれた。


「それはですね、一定以上の才能があって、経験を積むことで技を体得する方もおられるようです。まあ、ほとんどいないようなものなんですが」


「アベレッジじゃないか。あんた、まさかルリアに負けた……?」


「ハハハ、可愛らしいお嬢さんにはついつい僕の剣も鈍りましてね」


「瞬殺だったよ!」


「接待プレイです!」


 ルリアの言葉に即反論するアベレッジ。


「ちなみに僕は才能が無いので、技を体得できません。才能があるのは、辺境伯閣下とかイクサヴァータ殿下とか……」


「なるほど、才能がある……。でも、ルリアが才能がある……? もしかして、俺が技を継承したから後付で才能があるみたいな扱いになったりした……?」


 そうかも知れない。

 カリナもそのうち、技を体得する可能性があるな。

 俺がいちいち継承しなくてよくなるのは楽で助かる。


「じゃあ、アベレッジ。この間協力してくれたお礼に、技を一つ継承するぞ」


「は? 継承?」


 さっぱり分かってない顔のアベレッジ。

 俺は彼の手をにぎると、剣の技を送り込む。

 ディフレクトでいいな。


「ほい」


「んっ!? お、おおおおっ! おおおー!! ぼ、僕のステータスに、技が!! 剣の技がーっ!! 本当にいいのかい!?」


「もちろんだ。だっていきなり六欲天との戦いに巻き込んだからな! なのにあんた、しれっとついてきて陣形に参加して、戦い抜いたじゃない」


「いやあ、あれはいきなりのことで頭が真っ白になっててねえ……。まあ僕は細かいこと気にしないタイプだから……。いやあ、だけど嬉しいなあ。この平凡極まりない僕が技を……!」


 めちゃめちゃ喜ばれた。

 ベアクラッシュは強力過ぎるから、継承は考えてしまうな。

 イクサくらいのレベルじゃないと継承できない。


 俺が閃く技はどれも強力なので、継承は今回くらい慎重にやった方がいいのではないか。

 他の騎士たちが、羨ましそうな顔で俺の周りに集まってくる。


「名誉騎士オクノ、そのー、我々にも技を……」


「いかんいかん。だめでしょー。インフレしちゃうでしょー。少なくとも六欲天に挑んで生きて帰ってこないとだめってことで……」


 俺の説明を受けて、騎士たちはみんながっくりと肩を落とした。


「無理でしょ……」


「辺境伯と殿下の二人揃って、陣形まで使わないと戦えないでしょあれ」


 六欲天と戦うというのは、それだけ難易度が高いんだなあ。

 このやり取りから、ルリアとアベレッジが自分たちの特別感を認識したみたいで、得意げな顔になっている。

 だよなあ。六欲天、ボスキャラだもんな。


 俺も今になると、どうしてあれに挑んだのかよく分からない。

 なんか、ふわふわっとした正義感に背中を押され、ついカッとなって戦った気がする。

 世の中大体そう言うものだ。


 せっかくなので、俺も騎士たちに混じって訓練をしてみることにした。

 最近、辺境伯やイクサとばかりやり合っているので、他の騎士の戦い方などを見てみたいと思ったからだ。


「では俺もお邪魔して……。さあこい」


「いきますぞ名誉騎士殿! とりゃあー!!」


「一斉にかかりますぞ、うりゃあー!!」


「後ろからも襲いかかりますぞ、えりゃあー!!」


「ちょ、おま!? なんで三対一なの!? ぬおお! ディフレクト! ディフレクト! ラリアット!」


「ウグワー!」


 勢い余って一人ラリアットでなぎ倒したぞ。


「そりゃあ、名誉騎士オクノ殿が強いからです。我らは騎士。勝てばよかろうなのです」


 アベレッジが何やらとんでもないことを言う。

 騎士道精神なんてものはこの世界には無いらしい。

 まあ、あれは平和な世界での話だもんな。


 ということで、百人組手みたいになってしまい、最後には辺境伯領中の騎士や兵士が集まってきて俺に襲いかかってきた。


「名誉騎士オクノを倒せば技を伝授してもらえるらしいぞ!」


「マジでか! じゃあ一度に飛びかかって飽和攻撃するぞ!」


「俺は飛び道具で襲う!!」


 こいつら本当に手段を選ばねえ!!

 槍が、斧が、槌が、矢が、次々に襲い掛かってくるのを片っ端から叩き落とし、薙ぎ払い、騎士たちをぶっ飛ばす。

 中途半端にやっつけると、ゾンビみたいに起き上がってまた攻撃してくるので、一撃で戦闘力を奪わなければいけない。 

 ただし命は奪ってはいけない。とてもむずかしい!


 途中から、俺は武器を収めて体術のみで戦っていた。

 やっぱり便利ですわプロレス技。


 スライディングキックで転ばして、相手を抱えてエアプレーンスピンで投げ飛ばし、スピンキックで背後を蹴っ飛ばして、カウンターのラリアットで相手をなぎ倒す。

 途中でジャイアントスイングの体勢に入り、三十人くらいこれで倒した。


「そ、そこまで! そこまで!! 何事だーっ!!」


 誰かが叫びながら走ってきた。

 あれは確か、会議場にいた騎士爵の一人だ。


「あっ、なんか百人組み手で訓練しててね」


 俺がひょこっと顔を出すと、騎士爵はハッとした。


「アッ! 名誉騎士オクノ……! なるほど、貴殿ほどの豪傑ならばさもありなん。ですが、名誉騎士オクノ、ここは控えていただきたい。実はですな、既に城壁の外に王太子殿下一行が到着されているのです」


「王太子?」


 俺は、ぽわぽわとイクサの顔を思い浮かべた。


「そっちじゃないです」


「お前今ナチュラルに俺の心を読まなかった?」


「名誉騎士オクノは顔に出ますな。イクサ殿下ではありません。トノス殿下の方です。そしてこれは、少々面倒なことになりますぞ」


「面倒なこと?」


 俺たちの乱闘が収まると、あちこちから騎士爵や貴族たちが集まってきた。

 辺境伯もイクサと娘のアリシアを従えてやって来る。


「オクノ」


「ラムハたちも来たか」


 俺の乱闘を見学していたルリアも合流し、うちの女子チームが集結した。

 さて、ではトノス王子とやらを迎えてやろう。




「ふん! 辺境を守る冴えない顔が、雁首揃えてお出迎えか。ご苦労なことだ。こんなところで油を売っていないで六欲天の後にまた何か現れないか、警戒でもしていたほうがいいんじゃないのか?」


 態度のでかい男がそこにいた。

 明らかに上質の装備の騎士や兵士たちを従え、自身も特別性の鎧に身を包んだ明るい金髪の美形。

 それがトノス王子だった。


 彼はイクサを見ると、途端に不機嫌になった。


「戻ってきたというのは本当だったようだな、イクサ。廃嫡され、よくぞおめおめと私の前に顔を出せたものだ!」


「むっ」


 イクサは何かを言い返そうとしたようだが、特に何も思いつかなかったらしい。

 その代わりになんか気迫みたいなのを発した。

 目に見えないホワッとしたものだが、イクサのレベルのこれはやばい。


 トノス王子の護衛連中が一斉に余裕をなくして、身構えた。

 でも、あの中に何人か、動揺してないのがいるな。


「王太子殿下。挑発的な言葉をおやめ下さい。我らは六欲天から辺境領を守った後なのです。休むくらいは許されるべきでしょう」


「ふん。分かっている。気に食わん男の顔があったから、つい口に出ただけだ」


 イーヒンにたしなめられ、トノスはイクサから目を離した。

 常識はあるっぽい。

 イクサごと辺境に追放された母親が死んで、彼を責めた弟というのがこのトノスだな?


 まだ恨みがあるらしい。

 まあ、分からんでもない。

 人間、恨みはずーっと忘れないもんだからな。

 だが恨みよりも死ぬほど楽しいことが見つかると、割と気にならなくなってくるものだぞ。

 俺がそうだ。


 内心でトノスに語りかけていたら、奴がこっちを見た。 

 まさか俺のテレパシーみたいなのが伝わったのか? 


「そこの男が、外から来た者か。名誉騎士になったと言うが……。知っているぞ」


「どうも、オクノです」


「今は自己紹介する場ではない! 空気読め!」


 怒られてしまった。


「貴様は、セブト帝国が召喚した異世界戦士の一人だろう……! 我が国に入り込み、何を企んでいる!」


 疑いの目線がトノスから叩きつけられる。

 彼が従える護衛たちも、俺に向かって身構える。


「殿下!!」


「イーヒン! 貴様ほどの男が情にほだされたか? 帝国に遣わした我が密偵が全てを伝えてくれたわ。実に25人もの異世界戦士が召喚され、帝国でその力を奮っているとな!」


「今、22人くらいでしょ」


「なにっ!? なぜそれを!?」


 俺の言葉に、トノスが目を剥いた。


「俺と、うちの仲間が倒したからだ。それから俺が抜けた。そう、つまり俺は敵ではない。こういう時はあれだ。身の潔白を証明するもんじゃないのか? ほら、なんか双方から何人かずつ出して力比べとかトーナメントマッチとかやって」


 俺が提案すると、周囲の人々は一様にきょとんとした。


「身の潔白を、力比べで証明する……?」


 ……あれ?

 マンガとかアニメだと大体そう言うパターンなのでは……?

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