第35話 俺、御前試合っぽい五番勝負をする

 最初はきょとんとしていたものの、トノス王子もそれは悪くないと思ったらしい。


「ちょうどいい。私は王国最強の騎士を五人連れてきているのだ。余興に戦わせるとしよう。辺境伯領の騎士の練度も確かめられるしな」


 ということで。

 辺境伯領の騎士と言いながら、選ばれたのはイクサ、アベレッジ、騎士A、それからなぜかルリアと俺である。


 トノス王子側は屈強な騎士たち。

 大柄な斧使いと、大柄な槍使いと、やたらとツワモノオーラを出している剣士と、でかい盾を持った巨漢と、騎士Bである。

 最後だけ数合わせっぽいな!


 トノス王子主催の御前試合、五番勝負なのだ。


 第一回戦、アベレッジvs大柄な斧使い!


「とりゃー!」


「ふんっ!」


 アベレッジも斧使いも、レベルは高いんだろうが技というものが無い。

 ぽかぽかと殴り合っている。

 実力では斧使いが上みたいだが、アベレッジは時々、さっき継承したディフレクトで防ぐ。

 やるものだ。


 結局、勝負がなかなかつかないままぽかぽかと殴り合うのが続き、飽きた王子が試合終了を宣言した。


「こちらが攻めていたからこちらの勝ちだ」


 攻め手が多かった斧使いの勝ちになった。

 しょんぼりするアベレッジ。


 しかし、一戦目から冴えない試合になったな……!


 第二回戦、騎士Avs騎士B!


 だめだこりゃ。

 予想通りの泥仕合が始まり、最後は二人とも武器を投げ捨て、地面を転がりながら取っ組み合いである。


 ついに勝負は判定に持ち込まれ、辺境伯とトノス王子の協議の結果、多分騎士Bがちょっと優勢だったのでは? という結論に落ち着いた。

 勝者、騎士B。


 ここまで2回立て続けでパッとしない試合だったので、見ている騎士たちもちょっとだれて来ていた。

 そこに、大柄な槍使いが現れる。


「ふっ、王国一の槍の使い手である俺の相手は誰だ?」


「あたしだよー!」


 元気にお返事をして、ルリアが試合場に上がってきた。

 どよめく会場。

 騎士たちから借りた槍を抱えて、普通の女の子みたいなのが現れたんだからそりゃあ驚くだろう。


「おいおい、何の冗談だお嬢ちゃん。ここは真剣勝負の場だぜ? おままごとをやってるんじゃない。それとも、ベッドの上での真剣勝負なら受けて立つぜ?」


 騎士が下品な話をすると、あちこちでドッと笑い声が漏れた。

 ルリアがむくれる。


「げひーん。あと、あたしはオクノくんのものなのでだめでーす」


「男つきかよ! その男はどこにいるんだ? 女一人を戦場に上げやがって」


「はっ、私めでございます」


 俺は堂々と挙手した。

 唖然とする槍使い。


「あ、お前も選手なの……」


「うむ……」


 あと、ルリア。俺のものだってのは語弊がないだろうか。

 アミラとカリナがメラメラと背後に炎を揺らめかせながら君を見つめているぞ。


 槍使いがまたも口を開こうとした。

 そこで、トノス王子が高らかに手を叩く。


「いい加減にせよ。試合を始めろ!」


「はっ!」


 途端にシャキッとする槍使い。

 本気の目になった。


「よーし、ハンデだ。一発打ち込ませてやるよ。何でもやってきなお嬢ちゃん」


 あっバカ。

 ルリア相手にそれは自殺行為だぞ。

 だってこいつ……。


「親切ー! じゃあ、足払いっ」


「うおっ!?」


 ルリアがトコトコ近づいてきたかと思ったら、槍の間合いギリギリでその姿が消えた。

 次に現れたのは、槍使いの足を柄で薙ぎ払うルリアである。


「今、いきなりあの体勢にならなかったか!?」


「技の入りが全然見えなかった!」


 俺が伝授した技だからな。

 あと、確率で相手を転倒させる技だけど、運の良さがおかしいルリアが使うと、ほぼ100%相手を転倒させる。


「ぬおおっ!」


 槍を地面に突き立てながら、どうにか体勢を立て直す槍使い。

 攻撃する、防ぐどころではない。


「えいやっ、スウィング!」


 振り回された槍が、槍使いの胴をしたたかに打つ。


「ぐほおっ」


 槍使いが動けなくなった。

 確率で相手を行動不能にする技だが、運の良さがおかしいルリアが使うと、ほぼ100%相手を行動不能にする。


「じゃあね、ばいばーい。エイミング!」


 そして、確率で全ての防御を無効にする、絶対命中のぶっ壊れ性能な槍技が放たれた。

 普段のルリアなら、低い体力のせいで大した威力にならなかっただろう。

 だが、連続攻撃で体勢が崩れ、体力が削り取られた槍使いにとっては……。


「ウグワーッ」


 みぞおち辺りを突かれ、槍使いが崩れ落ちた。

 白目を剥いている。


「そこまで! 勝者ルリア!」


「やったー! アリの女王よりは弱かったよねー」


 ルリアは見た目は普通の可愛い村娘なのだが、実際は数々の激戦を前衛としてくぐり抜けてきた戦士だからな。

 勝負度胸、判断の速さ、そしてえげつない運の良さ。

 これが揃うと、歴戦の戦士にも匹敵するな。


 これにはトノス王子も驚いたようだ。

 呆然としている。


 そして次。

 俺vsでかい盾を持った騎士である。


「でかいやつだ」


「ぐはははは! 俺様からすれば誰もがちびすけよ。異世界から来た戦士などとチヤホヤされているが、俺様がお前の化けの皮を剥がしてくれる!! 女の子たちにモテやがって羨ましい!!」


「最後で本音が出たな!! 俺も異世界に来て自ら行動するようになってからモテ始めたのだ……!」


「えっ、そうなのか!?」


「そうなのだ」


「詳しく……」


「では試合の後に」


 なんとなく、盾を持った騎士と通じ合ってしまった。

 だが、勝負において情を持ち込むことは許されない。


「シールドバッシュ!!」


 いきなり技を使ってきたので、盾の騎士はかなりできるやつなのだろう。

 普通の相手ならこれで弾き飛ばされてしまうに違いない。

 だが、俺はイクサや六欲天と真っ向から技の掛け合いで戦ってきた男である。


「ドロップキック!」


 短い助走から飛び上がり、技には技をぶつける。

 まるで盾に対し、垂直に立ったような見事な姿勢のドロップキック。

 完全に騎士の技を上回り、奴を後退させた。


「ぬうおおーっ!? な、なんという体術の切れ!! 俺様が戦ってきた相手の中で、最強と言える蹴りだ!」


「蹴りだけではないぞ! 行くぞ斧技!」


 アイテムボックスから斧を取り出す。

 ここで、例の技を試す。


「ヨーヨー!」


 斧を投擲する。

 それは盾騎士の盾にぶつかると、凄まじい衝撃を加えてから跳ね返り、俺の手に戻ってきた。

 これをまた投擲し、跳ね返ったのをキャッチ、また投擲。


「ぬうわあああっ!? う、動けぬーっ!!」


 俺の斧連続投擲技、ヨーヨーによって、完全に盾騎士はその場へ釘付けにされてしまった。

 このままやっていれば勝てる。

 だが、それではこの騎士に失礼だろう。


 俺は飛び道具よりもインファイトが好きだし。

 ということで!

 いきなり斧をしまい込み、俺は盾騎士に向かってダッシュした。


「ぬ、ぬおおっ! シールドバッシュ!!」


 慌てて迎え撃つ盾騎士。


「ラリアット!」


 こいつを相殺し、衝撃からちょっと上がった相手の足に、俺は組み付いた。


「ドラゴンスクリュー!」


「ぬおーっ!?」


 転倒する盾騎士。

 そこへ、畳み掛けるように……!


「シャイニングウィザード!」


「ウグワーッ!!」


 非殺傷版シャイニングウィザード。 

 太ももを相手の顔面に叩き込む感じなのである。

 この一撃で、騎士は昏倒した。


「勝者、オクノ!」


「おう!」


 拳を天高く突き上げる俺。


「凄まじい体術の使い手だ……!」


「あれが異世界から来た戦士……!」


「なんという流れるような試合運びか」


 トノス王子側の騎士たちがざわめき、辺境伯側の騎士たちがドヤ顔をした。


「見たか、これが名誉騎士オクノの威力だ」


「六欲天を倒してから出直してこい」


 調子に乗りすぎでは……?


 そしてラスト。

 イクサvsツワモノっぽい剣士。

 名前は、騎士団長バーレル。


「出来損ない王子がしゃしゃり出てこられては困るのですよ。お家騒動になったらどうするのですか。貴方はここで、試合の形で再起不能になっていただく」


 なんかすごく悪そうなことを言っている!!


「なにっ」


 悪そうなのには敏感なのがイクサだ。

 今、奴の本気スイッチが入ったぞ。


「お忘れか、廃王子よ。私はかつて貴方を叩きのめし、力の程をわきまえるように言ったはずです。それを忘れた結果がこれですよ! ねりゃあーっ!!」


 繰り出されるのは、必殺の斬撃だ。

 確かにとても鋭い。

 一般的に見れば超強いんだろう。


 他の騎士たちも、バーレルの動きのあまりの鋭さに驚いている。

 だが、相手はあのイクサなのである。


「ディフレクト!!」


 必殺の斬撃は、イクサによって呆気なく弾かれた。


「は!?」


 バーレルが驚愕し、体勢を立て直そうとする。

 遅い。

 イクサが既に技を放っている。


「真空斬!!」


「ウグワーッ!?」


 バーレルが真っ二つになった!


「あかん! アミラー!」


「はーい!」


 試合場に飛び込む俺とアミラ。

 勢い余ったイクサが、とどめの烈空斬をぶっ放してきたので、これは俺がブロッキングして止めておいた。


「癒やしの水!」


 回復の呪法を受けて、バーレルの体がくっついた。


「あっあっ、僕の体くっついてる」


 真っ青になったバーレルが、体をペタペタ触っている。


「すまん、やりすぎた」


 イクサが歩いてきて、謝った。


「ひいー」


 バーレルが絹を裂くような悲鳴を上げ、腰を抜かして逃げていく。

 あの男もかなり強いんだろうが、まあ次元が違う。


 イクサの強さは、トノス王子も完全に計算外だったらしい。


「……なんという強さだ。個人戦力という次元ではない……。兄上を取り込めれば、単騎で帝国軍の一翼を押さえられる……」


 ぶつぶつ言っている。

 こいつもこいつで、嫌味なだけじゃなくてプロなのだ。

 プロ政治家の卵。


「よし、御前試合はここで終わりだ! 皆、休むがいい! イーヒン辺境伯。本題に入るぞ。場所を用意せよ」


「はっ」


 なんだ、イクサに嫌味を言いに来たんじゃないのか。

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