第12話 俺、クラスメイトと再会する
「飛翔斬!」
飛んできた斬撃を、なんとなくこの辺かなという感じで避ける。
「避けただと!?」
「うむ。俺を狙って撃ってくるんだもの。動けば当たるまい」
「風よりも早いのにか!」
「風よりも早く動いて避けたんだ」
「でたらめな男め!!」
俺たちは、天井の梁を飛び回りながら戦う。
と言っても、遠距離攻撃を持っているイクサが一方的にこちらに仕掛けてきている。
奴の飛翔斬で、天井からぶら下がっている照明とか、干してある食べ物が落下して、人狩り部隊の連中に当たっている。
同士討ちではないか。
しかし、こうも攻撃の距離に差があると厳しいな。
ドロップキックは足から突っ込むから、躱されたらちょっときついしな。
「こういう時は……」
ピコーン!
『フライングクロスチョップ』
来たーっ!!
俺の体が宙を舞う。
梁を蹴り、腕は十字の形。空を切り裂きながら、俺の体がイクサに向かって飛翔した。
「なんだと!? くうっ!!」
ギリギリで飛び退ったイクサ。
奴のいた梁を、俺のチョップが粉々に粉砕した。
さらにそれを突き抜け、奥にある梁を掴んでぶら下がる俺。
ドロップキックより威力は劣るが、コントロールと飛距離は上っぽいな。
使い分けが大事だろう。
「化け物め……! それが素手の威力か!?」
「俺の技は特別製でな。レベルがない分、技の一個一個がスキルみたいなものなんだ」
「ほう! ならば、お前にはこの技を使わねばなるまいな。行くぞ真空斬!!」
イクサが剣を握ったまま回転した。
奴の周囲に、プレッシャーみたいなのが生まれたのが分かる。
俺は腕をクロスさせて防御した。
襲いかかるのは、360度を巻き込む真空の刃だ。
これで、酒場の屋根が横一文字に切れた。
すげえ切れ味だな!
そして、屋根が崩れて落下してくる。
「これで、貴様も仲間も逃げられまい!」
「巻き込むつもりだったのか! それにお前の仲間も巻き込むだろうが!」
「この程度で死にはせん!」
そうかなあ。
だが、うちの仲間たちはみんな鎧なんか着ていないので、とても心配だ。
案の定、天井が崩れてくる事がわかって、ラムハが青ざめている。
戦いの前衛は、どうにかアミラとルリアで食い止めたようだな。
それでも、崩れる屋根に巻き込まれたのでは意味がない。
「任せろ、ラムハ!! ふんっ」
俺は気合を入れた。
この状況を切り抜けられる技を閃け、閃け……!
ピコーン!
『エアプレーンスピン』
よっしゃあ!
俺は梁の上を駆け上がり、崩れようとする屋根の中心を掴んだ。
そのまま、建物と分離した屋根を……持ち上げる!
そしてぐるぐると回転させ、放り投げた。
「化け物か!!」
イクサの叫び声が聞こえる。
どっちがだ。
レベル制のシステムだろうに、俺みたいな技を編み出しているお前も化け物みたいなもんだろう。
さて、頭の上を塞いでいた天井もなくなり、俺とイクサの戦いを阻むものは何もなくなった。
人狩り部隊の連中は、呆然として俺を見上げている。
俺は手についた埃を払った。
「行くぞ!」
「来い!!」
イクサがいよいよ身構える。
技に頼らない、剣のみで勝負してくるつもりだ。
俺も、イクサの動きに応じてどういう技を出すのかを考える。
とりあえずドロップキックでいいかー。
「ドロップキ」
そこへ、真横から呪法による攻撃が加えられた。
元からボロボロになっていた酒場が、音を立てて崩れ始める。
「なんだなんだ!?」
慌てて攻撃が来た側を見る俺。
「まさか……まさか生きてやがったとはな、多摩川!!」
俺を多摩川呼びするやつがいる。
この世界の人間ではありえないな。
ってことは、クラスメイトのどいつかってことになる。
「お前は……」
崩れていく酒場から、仲間たちが逃げ出すのを見ながら、俺は口を開いた。
「誰だっけ」
「てめえーっ!! 俺は豊田翔真だ!! てめーがまさか、悪の側になって現れるとはな! 俺をぶん回して投げ飛ばした恨み、忘れてねえからな!」
「あっ! 俺がジャイアントスイング使った奴ってお前だっけ! 完全に忘れてた」
「てめえーっ!!」
豊田の隣には、もう一人の女がいる。
「豊田、やめときなよ。多摩川に何言ったって無駄だって! それより、あたしたちが手に入れた力を多摩川で試そうよ! あいつ、今は悪者なんでしょ? だったら殺してもいいってことじゃん」
「ああ、そうか! そうだな! 多摩川ぁ、悪いな。俺ら、強くなりすぎてこの世界の人間じゃ相手にならねえんだわ。おめえで試させてもらうぜ」
豊田と、名前を忘れたけどなんかクラスメイトの女が、嫌な感じの笑みを浮かべたのだった。
ちなみに浮かべた、の辺りで俺はすでに瓦礫を駆け下りながら助走している。
「へ?」
「そぉいっ!」
俺は跳躍した。
揃えられた足が、豊田に向かって突進する。
ドロップキックだ。
「こ、こいつっ!! はええ!」
豊田は慌てて、どこからか盾を取り出してこれを受けた。
おっと、俺のドロップキックを受け止めるか!
「多摩川死ね! キモい! ヘルファイア!!」
女が俺に向かって呪法を使ってきた。
俺はこれに合わせて、アイテムボックスから杖を取り出している。
「アンチマジック!」
俺に、魔法への抵抗力を高める技がかかり、その直後に食らった炎の呪法はダメージが減少する。
「は? 何それ!? ズルい!」
俺はアイテムボックスから槍を取り出す。
「足払いっと」
「ぬおーっ!?」
豊田がよろめいた。
こけないとは、やるなこいつ。
俺は槍を投げ捨て、今度は鞭を取り出す。
「ほい、グランドバイパー!!」
大地を走る鞭が、豊田と女の足元をさらに救う。
「ぎゃあ!?」
女が汚い悲鳴を上げて転んだ。
慌てて、そこに豊田がカバーに入る。
「てめえ、女を狙うなんて卑怯だぞ!! おい北尾! あそこだ! 多摩川の仲間になってる女がいる! あれを狙って呪法を使え!」
「! わかった! 多摩川、お前と仲がいい女なんか殺してやる!」
「卑怯はお前らでは!? ええい、させねえぞ!」
「わはは、邪魔はさせん! 俺の強さはこの盾! あらゆる攻撃を防ぐんだ!」
俺が女を止めようと技を放つが、その前に立ちはだかる豊田の盾は確かに抜けない。
これは特別な盾っぽいな。
召喚された勇者の力というやつか。
これは、どうにかせねば……!
手がもう一つあれば……。
おっ!!
俺はバック転しながら豊田と少し距離を開ける。
「なんだ!?」
豊田が理解するよりも、女が呪法を使用するよりも早く。
「幻獣術!」
俺は傍らに、幻で作られた獣を呼び出す。
それは、二つの首を持つ大型の獣。
オルトロスだ。
「やばっ!」
女の狙いがこっちに変わった。
オルトロスめがけて炎が走る。
これを受けても、オルトロスは倒れない。HPが高いのだ。そしてオルトロスは豊田目掛けて襲いかかる。
「なんの!」
豊田がこれを受けとめる。
この時、俺とオルトロスの間に何か、光の線みたいなものが生まれた。
この線に従って攻撃すればいい……みたいな? そんな事が直感的に分かる。
「よおっし!」
俺は走る。
オルトロスの後から、豊田の盾に、技を叩きつける。
「シャイニングウィザード!!」
俺の飛び膝が、豊田の盾に決まった。
『オルトロングウィザード』
よく分からん技名が脳内に浮かんだ。
そして、俺のシャイニングウィザードが、オルトロスの突撃が、さっきまでは難攻不落だった豊田の盾を、真っ向からぶち抜く!
「ワオン」
オルトロスがドヤ顔をした。
対して、豊田は強張った表情をして吹き飛ばされていく。
バウンドもせずに十メートルくらいぶっ飛び、壁にぶち当たって落っこちた。
動かない。
「……は? しょ、翔真! てめえ……っ!!」
女は俺に向かって、憎しみに満ちた表情を向ける。
だけど、俺にばっかり構ってていいんだろうか?
後ろには俺の仲間もいるんだが。
「ダークファイア!」
「スラッシュバイパー!」
「風車!」
「連ね射ち!」
呪法と技が、まとめて女に降り注いだ。
俺の目には、これが光の線に導かれ、ひと繋がりの攻撃になっているのが分かる。
そう、言うなればこれは、『連携』だ。
『ダークッシュ風射ち』
「何これ!?」
「ふえーっ!?」
「え? え?」
「意味不明です」
仲間たちが混乱した声を上げる。
お前たちも、このよく分からん技名が脳内に浮かんだか。
ちなみに、攻撃はオーバーキルだった。
女が立っていたところには、黒い焦げ跡しか残っていない。
「うーむ……。多分死んだよな……。だが感慨が湧かない……」
俺は首をひねった。
そのすぐ横を、真空の刃が飛ぶ。
「あぶねっ!!」
遠く離れて、イクサがいた。
「勝負は預けるぞ、オクノ! まさか勇者が、俺にも攻撃してくるとは……! 話が違うぞ、ジョイップ伯爵!」
奴はそう叫びながら、その場を駆け去っていった。
どうやら、戦闘終了のようなのだ。
※作者より
今回より、一日一回更新となります。
21時前後の更新となります。
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