第11話 俺、ライバル的なのと戦う

 いつも通り、俺のアイテムボックスに全ての武器を放り込んで、丸腰にて領都へ入る。

 入都料なんてものがあったが、兵士たちから回収したお金を気前よく払ってやった。


「ああ、入っていいぞ。商売、上手くいくといいな」


 ちょっと賄賂を握らせてやったら、兵士の態度も大変良くなった。


「こりゃあどうもどうも」


 俺はへこへこしながら、通過していった。


「オクノ、卑屈な態度が上手いわねえ……」


「俺だって空気くらいちょっと読めるのだ」


 呆れた様子のラムハに言ってやる。

 これくらいやらないと、クラスで生き残ることはできない。

 何せ、俺は嫌われ者だったからな。


 あの頃のクラスは、まあ針のむしろだった。

 我ながら意地で登校していたようなもんだが、それがどうしてこういう状況になったものか。

 女子四人と、異世界で旅をすることになってるとはなあ。


「さーて、これからどうする、オクノくん!」


「お姉さんはね、まずは酒場に行くのが良いと思うわ。情報を集めるってそういうものでしょう?」


「地道に領民の人たちから聞き込みがいいのではないですか?」


 みんな、めいめいに自分の意見を言う。

 これはまとまりがつかないな。

 よーし、俺の意見は、だ。


「まずは、飯がてら酒場に行こう! んで、聞き込みもする!」


「いいと思うわ」


 ラムハがすぐに、俺の意見に賛同した。


「あたしも賛成!」


「もちろん、私もよ」


「むう、確かにわたしもお腹がすいてます」


 ということで、俺たちの方針が決定した。

 人さらいこと、人狩り部隊の本拠地である領都。

 そんなところにいながら、呑気なものだと我ながら思う。


 だが、別にノリで始めた人さらい退治なのだ。 

 方針だってノリで決めてしまっていいだろう。


 俺たちは勢いのままに、馬車を酒場の脇に止めて食事へと繰り出した。


「一番いい定食!」


「私も」


「あたしも!」


「私もお願いね」


「わたしもです」


 いきなり、四人の女連れで現れた若い商人が、大量の定食を頼んでガツガツと食べ始める。

 目立つ光景だ。

 うちの仲間たちもみんな若いから、食べる食べる。


「やっぱり、旅先と全然違うよねー! お店で食べるご飯のおいしいこと!」


 ルリアが食べながら、テンション高く喋る。


「ルリアさん、食べながらはお行儀悪いですよ。調理された命のためにも、真面目に食べるべきです!」


「カリナはお子様なのにうるさいなあ。あたしの方がお姉さんなんだからね」


「お子様でもありません! 二つしか年が違わないじゃないですか! それに行儀に年上も若いもないです!」


「まあまあ二人とも、飯だ飯。飯をくおう」


 わいわいと口論を始めた二人をいさめながら、ひたすら食べる俺。

 ラムハなど、ピッチャーでお茶まで頼んで、アミラとシェアしている。


 異世界に来てわかったのだが、食べられる時に食べておかないと、次はいつ食べられるかわからない。


 というわけで、俺たちは情報収集など全くせず、ひたすらに定食を腹に詰め込んだ。

 幸い、この酒場の定食は味もよくて、量も多い。

 お腹が苦しくなるまで詰め込んで、俺たちはしばしまったりした。


「ええと、情報収集だっけ?」


 すっかりだらけた感じのルリア。


「お腹が苦しくてうごけなーい。お願い、オクノくーん」


「へいへい」


 俺は腹いっぱいだったが、動けないほどではない。

 この世界に来てから、かなり食えるようになった気がする。


「こうしてみると、オクノくん、体大きくなったわよね。出会った頃はひょろっとしてたのに」


 アミラがそんなことを言うが、そこまでか?


「一人で前に出て戦い続けてるんですから、鍛えられて当然です。わたしの部族の勇者だって、そこまでメチャクチャな鍛え方はしてませんし、第一できませんから。普通、死にます」


 カリナまで。

 どうなんだろうか。

 自分のこととなると分からんもんだな。


 さて、気を取り直して情報収集と行こう。


「ちょっといい?」


 俺が声を掛けると、領都の住民らしき男が振り向いた。


「お、おお」


「実は情報を探してるんだが……」


「情報?」


 ここで選択肢が現れた。



1・旅の商人なんだが、領主様に取り次いでもらうにはどうしらたいいんだい? とからめ手で行こう!

2・人狩り部隊ってのはどこにいるんだ? 直球勝負!!



 物事は分かりやすいほうがいい。


「人狩り部隊ってのはどこにいるんだ?」


 俺が尋ねたら、向こうで女子たちが揃って頭を抱えた。


「オクノのバカー! 聞き方ってものがあるでしょー!」


「な、何をー!!」


「いや、お腹いっぱいなのを理由にオクノに任せきりにした私たちも悪かったわ。はい、みんな準備準備!」


 ラムハが立ち上がる。

 なんで立ち上がった?


「あ、あ、あんた……! 外から来た人間だとは思っていたが、どこでそれを!! どうして、ここでその名を呼んだ……!」


 酒場の客たちが立ち上がる。

 そして、我先に酒場を逃げ出していった。

 逃げずに残っているのは、数人。


 そいつらはすごい目で俺たちを睨んでいる。

 そのうちの一人、金髪で黒い鎧を着た男が口を開いた。


「最近、あちこちで伯爵直下の救世部隊が行方不明になっていたが……貴様らの仕業か……!!」


「そうだ。俺たちの仕業だ。さてはお前が人狩り部隊だな。きゅうせいぶたい、ってなんだ。今になって新しい単語を出すんじゃない」


「素直に返事をするとはな……。だが好都合だ。ここには、召喚された勇者たちもいる。貴様ら、人の世を救う邪魔をする反逆者どもは、ここで仕留める……!」


「そうか。大体こういうのは、両方が正義があるとか主張するもんな。いいぞ、じゃあとりあえずバトルだ!!」


「とりあえず!?」


 そいつは目を見開き、叫んだ。


「貴様、そんないい加減な覚悟で救世部隊の邪魔を!?」


「人さらいはいかんだろう! なんかそういう、ふわっとした正義感で俺はここに来た!」


「俗物が! 死ね!! 飛翔斬!!」


 そいつは座ったままの体勢から、一気に飛び上がった。

 壁を蹴りながら俺の頭上に至り、そこで抜剣する。

 抜いた剣が振り切られると、真空の刃が俺めがけて放たれた。


 こいつ、技を使うのか!


「ぬおっ!」


 俺は腕をクロスさせてこれを受けた。

 それなりのダメージだ。


「オクノ!!」


 ラムハの声がする。 

 だが、それと同時に入り口から、人狩り部隊らしき連中が駆け込んでくる。


「反逆者ども、ここでおしまいだ!」


「善良な領民からの通報があった!」


 おお、これは話が早い。


「貴様ら、ここでおしまいだ! 冥府の神ザップに貴様らの命を捧げる代わりに教えてやろう! 俺は帝国最強の剣士、イクサ!」


 剣士イクサは、足を天井の梁に引っ掛けた状態で俺を見下ろしている。

 器用な奴だ。

 こいつは厄介だな。


 だが、後ろの女子たちを放置するわけにも……。


「オクノ、雑魚は任せて! 私たちも強くなっているわ!」


「よーし、あたしが前衛張っちゃうよー!!」


「オクノくんは自分の相手をやっつけて。気をつけてね!」


「屋内だって弓が使えますから。お任せです」


 よし、任せた!


「てなわけで、俺がとっととお前を片付ける」


 俺の宣言に、イクサは笑った。


「お前がか! 残念ながら、無理だろう! この俺のレベルは65! 伯爵領のみならず、帝国でも最強のレベルよ」


「そうか! だが俺にはレベルが無いのでピンとこない! 残念!」


「なにっレベルが!? まさか貴様、勇者たちが話していた失敗作の召喚者か!?」


「人を失敗作とはご挨拶だな。よっ……と!」


 俺はテーブルを蹴り、壁を駆け上がってイクサと同じ、天井の梁の上に立った。


「!? 貴様、その体術は! 体術スキル持ちか!」


「プロレス技の応用だ。さあ、行くぞイクサ」


「いいだろう。来い! ……ええと」


「オクノです」


「来い、オクノ!」


 こいつ、案外律儀だぞ。

 てなわけで、この世界に来て初めての、名前があるボスキャラっぽいのと戦うのだ。

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