第7話 俺、アミラの故郷に来る
人さらいの被害はあちこちで出てるらしいので、まずは近くの街まで行ってみた。
入り口で検問があったが、俺と女子たちばかり四人の一行を見て、兵士は何かに気づいたようだ。
「その身なりと馬車。もしや、人さらいから女たちを助けたオクノ殿では」
「あっ、そうです。なんで知ってるんですか」
「我々も人さらいには手を焼いてましてな。そいつらをやっつけたということで、あなたの事は評判になっていますよ。聞けば、素手で人さらいどもを蹴散らしたとか」
あの時は持っているものが無かったからな。
今思えば、無謀というか自殺志願というか、なんで素手で立ち向かった、俺よ。
いや、分かっている。俺が戦えた理由はスケベ根性だ。
「へー、オクノくん有名じーん」
ルリアが俺の腕を小突いてくる。
ははは、くすぐったいぞ。
「ああ、ちなみにここ、お姉さんの故郷だから。情報を集めるなら任せて。開拓村に旦那と行く前は、ここでずっと暮らしてたの」
アミラが心強いことを言ってきた。
よし、それじゃあ、人さらいについての情報収集と行こう。
「おっ、アミラじゃねえか! 人さらいにさらわれてたらしいじゃねえか。やっぱ女一人はダメだって! 俺が守ってやるよ!」
「旦那が死んでフリーなんだろ? どうだ、俺と一晩!」
うわー、街に入っていきなり、アミラの顔見知りらしい連中の遠慮ないセクハラ口撃だ。
俺は露骨に顔をしかめた。
すると、アミラが俺の腕を取るではないか。
「残念ねえ。もう先約があるの。オクノくんって、あなたたちよりもずうっと強くて頼りになるのよ?」
ふおーっ、腕をギュッと抱きしめてくれて、アミラの胸が、胸がーっ!
「なんだと? そんなモヤシがか!」
「なんならここで分からせてやろうか!」
「ふうん……。あなたたち、一人で人さらいの一団を素手で壊滅させたオクノくんと、たった二人でやり合おうって言うの? 命知らずねえ」
アミラの言葉を聞いて、男たちの顔色が即座に青ざめた。
「えっ、まさか人さらいをやっつけたのってこのモヤシ……」
「だけどこの一団、女ばかりで男はこいつしか? ひええ」
「あ、勝手に怯えてくれたぞ。楽だ」
アミラのファインプレーである。
「でもこいつ、ヒゲも生えてねえし肌もなんか黄色いし、ひょろっとしてるし弱そうじゃねえか?」
「こんなやつとアミラがねんごろに? んなの許せるかよ」
こいつら、いきなり俺を見た目で判断しだしたぞ。
確かに俺はあまり強そうには見えまい。
なにせ、ほんの数日前まではただの高校生だったのだ。
しかも文化部だぞ。
プロレス技は基礎教養だったので知っていたに過ぎない。
「オクノくん、やっちゃって。お姉さん、あいつら嫌いだから」
アミラが俺にくっついてきた。
あっ、胸が、また胸が腕にーっ!!
「任せたまい」
俺は思考をふわふわさせながら立ち上がった。
アミラはニコニコしながら手を離す。
「男の操縦が上手いのねえ」
呆れたような、ラムハの声が聞こえた。
その頃には、すでに乱闘は始まっている。
「おらあっ」
男が突っかけてきた。
この距離、まあ助走抜きのドロップキックでいいだろう。
「そぉいっ!!」
俺はその場からテーブルの上に駆け上がり、跳躍。
打点の高いドロップキックを男の顔面に叩き込む。
「ほんげえーっ!」
男が周囲のテーブルや椅子を巻き込みながら吹き飛んでいき、動かなくなる。
人さらいより弱いぞ。
「て、てめえ、やりやがったな!? しかもただの体術じゃねえ! なんて威力だ!」
「かかってこいやァ!」
俺は調子に乗って、残った男を手招きした。
「くっそ、むかつく喋り方しやがって! この野郎!」
そいつは、酒瓶を周囲のテーブルに叩きつけて割ると、尖った部位を俺に向けた。
「へ、へへへ、俺を怒らせたお前が悪いんだ。死ね、死んじまえよう」
「武器を抜いたな? じゃあ、俺も武器を抜く……」
俺は低く身構えた。
「武器? てめえ、素手じゃねえか!」
「馬鹿め。俺の武器はこの技よ。ただのごろつき相手に、俺の投げ技を解禁しようと言うのだ!」
俺は両手を怪しく動かしながら、男に向かってにじり寄る。
はっきり言って、めちゃくちゃ調子に乗っている。
「やれー! やっちゃえオクノくーん!!」
ルリアが俺を煽る。
「しゃあっ!」
それを皮切りに、俺は男めがけて突っ込んだ。
「ひ、ひいっ、来るなーっ!」
男は俺めがけて酒瓶を叩きつけようとするが、俺はその下をくぐって、男の腕を取る。
そのまま肩を通して床に向かって叩きつけた。
フライングメイヤーである。
人さらいのような、戦い慣れた奴らは一撃では倒せないが、ただのごろつきレベルなら別だ。
床に叩きつけられ、そいつは目を回してしまった。
「やっぱりこいつらじゃ閃かないか。レベルが低いんだろうな」
俺が立ち上がると、酒場全体がワッと沸いた。
「やるな兄ちゃん!」
「人さらいどもをやっつけたんだって? なるほど、その腕なら納得だ!」
「アミラもいい男を見つけたなあ! 前の旦那と同じくらいいい男じゃないか?」
おお!!
こんなにたくさんの人々に褒められるのは初めてだぞ。
俺は声援のシャワーを浴びて、大変いい気分だった。
この状況を見逃さないのが、ラムハという女である。
「みんな! このオクノと一緒に、私たちは人さらいの組織を壊滅させようとして追いかけてるの。何でもいいから情報をちょうだい!」
効果的な、情報提供の呼びかけだ!
みんな酒を飲んで気が大きくなっているし、俺に対して好意的になってもいる。
「そうだなあ……。あいつら、身のこなしがただのごろつきじゃないんだよな。俺は王国で兵士をしてたことがあるんだが、そういう専門的な訓練を受けた人間の動きだった気がする」
いかついおっさんが、ジョッキ片手に呟く。
彼に呼応するように、次々に情報が飛び出してきた。
次に口を開いたのは、商人風の青年だ。
「人さらいかは分かりませんが、私が以前いた街で、猛獣に使うという手かせ足かせを大量に注文していった者たちがいたようです。彼らは南方から来たようですが」
俺たちの前に、頼んでいた飲み物と料理が置かれた。
それを持ってきたウェイトレスの女の子が、腕組みをする。
「あ、そう言えばこの間、帝国訛りがある男たちがうちで騒いでったわよ。数ばっかり多くて、品が無くてさ。中でもそいつらのボスみたいな大男が……」
大男?
「もしかして、角が付いた兜をして、こんな斧を持ってた?」
俺はアイテムボックスから斧を取り出した。
ウェイトエレスが目を丸くした。
「そう、それだよー! そのでっかい斧! あいつらのボスが持ってたの。じゃあ、あいつらが人さらいだったんだ……」
おお、なんか情報が集まってきたじゃないか。
カリナがいつの間にか俺の横にいて、指折り情報を数えている。
「軍事の訓練を受けた人間たちで、南方から来ていて、さらに帝国訛りがある……。この南キョーダリアス大陸にある唯一の帝国は、セブト帝国ですから、ここから導き出される答えは」
「人さらいは、セブト帝国の兵士。私たちは、帝国の誰かのハーレムに送り込まれるためにさらわれたってことね」
カリナの言葉を、ラムハが継いだ。
一気に、敵の姿と向かうべき場所が明らかになったな。
「よし、じゃあ一泊したらそっち行くか!」
「さんせーい!」
「いいわねえ」
「異存ありません」
「ええ、それじゃあ決定ね」
ということで、俺たちの方針も決まった。
まっすぐ南下してセブト帝国に入り、人さらいの元締めを叩くのだ。
「ところでアミラ、もともと暮らしていた街なんだろ? ここでお別れだったりとかしないの?」
一応聞いてみた。
するとやたら色っぽいこのお姉さんは、ウィンクして来た。
「こんな最低な奴らがいる街にいたいと思う?」
視線の先には、未だにぶっ倒れているごろつき二人。
ごもっともです。
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