第3話 付き合ってる

 体育館


シューズが床に吸い付く音。


ボールが床を叩く低い音。


(パスっ)


愛美まなみが放ったシュートがバスケットゴールに入る。


「愛美ナイスシュート!」


コート外の隅で、美緒みお千鶴ちづるがそれを見学している。


体操着のジャージ姿に、それぞれ別の色のゼッケンを付けている。


「愛美ってほんっと運動神経良いよね」


「昔からスポーツ大好きだからねー。」


「そういえば2人ってさ、いつから知り合ったの?」


「んー、仲良くなったのは小学校に入ってからかなぁ。でもその前から家は近所だったし、親同士は面識あったんだぁ。」


「へぇー!じゃあ美緒と愛美は幼なじみってやつだね!」


「ってやつだね!」


(パスっ)


「「愛美ナーイス!」」


相変わらずだなぁ。

スポーツしてる時の愛美、すごく楽しそう。


「次、美緒と千鶴だよー!最下位のチームは後片付けだってさ。」


「えぇ!なにそれ!」


「よしっ!千鶴には絶対勝つ!」



 「美緒、ごめんね。」


負けた…。

私ってこんなにバスケ下手だったんだ。



「先お昼食べてるわ!」


「えー。ちょっとくらい待ってくれてもいいじゃん。愛美の意地悪。」


愛美はいいよ。

運動出来るし。



 ゼッケンを黙々とたたむ美緒と女子生徒たち。

 

「…でさぁ、そのあとさ…」


「え!やばくない?…あ、ねぇ、聞こえる。」


小さな声で話す2人の女子生徒。


なんだろう。

何か話してる。


沢野さんの事かな。


「なに?」


……!


沢野さん?


居たんだ。


そっか。私、同じ班だった。


「やば…行こう。」


「うん。」


2人は足早にその場を後にした。


沢野と2人きりになる美緒。



「あのー…。」


おそるおそる沢野に話しかける。


「大丈夫?」


怒ってるかな。


「大丈夫って…何が?」


「あ、いや、その、えーっとー…」


言葉が出てこない。


確かに、何が大丈夫?だったのか、

自分でもよく分からない。


どうしよう。


すごく…気まずい。



「あれ?沢野。何してんの?」



……え?


「あ…!」


この前の!


「……あ、この前の女の子!」


掃除当番の時の、隣のクラスの男の子!


「知り合いだったの?」


「ん?あーいや、この前たまたま知り合ったっていうか、出会ったっていうか…」


沢野さんと話してる。


もしかして、仲良いのかな。


「そっちこそ、なにしてるの?次の授業にしては早いんじゃない?」


「俺はあれだよ。体育委員だからさ。早めに来て準備しなきゃなの。」


「あー、2組って山本先生だっけ?」


「そうそう。厳しいんだよなぁ。」


沢野さんがこんなに話してるとこ初めて見た。



「あ、ごめん!なんか話してる最中だったかな?」


「あ、いや、別にそんな…」


「さっきの。別に皆んな知ってるからいいよ。気使わなくて。」


冷たい。

どこか寂しそうにみえた。

そういう人…なのかな。


「また1組のやつらが何か言ってんのか?」


「え?」


「人の事よく知りもしないで、人の事とやかく言うなっての。」


怒ってる。


空気が…重い。


まるで自分に言われているみたいだ。


「付き合ってんだよ。」


……


「え?」


別に、聞き取れなかったわけじゃない。


けど…何故か聞き返してしまった。


「だから…付き合ってるんだよ。」



『頭で理解しようとしても、この目で確かめたとしても、それを拒もうとする心が居る。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る