第2話 二人の秘蜜

 よく晴れた朝。

太陽の光が教室の窓に差し込む。


こんな日は何だか眠たくなる。


「4月24日は、この前も話した通り遠足があります。」


あったかいなぁ。

ポカポカしてきた。

あ、鳥だ。

カラスかな?


由乃よしのさん!ちゃんと聞いてる?」


……?


美緒みおちゃん、呼ばれてるよ。」


(ガタンっ!)


勢いよく立ち上がる美緒。


「は、はい!大丈夫です!」


「何が大丈夫なんですか?ちゃんと先生の話、聞いててくださいね。」


「す…すみませんー。」


「「あははは!」」




 「もう最悪!」


「今日の美緒、マジで面白かったわ!」


美緒と愛美まなみが公園沿いの歩道を歩いている。


「先生の話、ちゃんと聞いててくださいね!」


「もう詩織しおりまでー。」


その後ろを詩織と千鶴ちづるがついて歩く。


「そーいえば千鶴、日曜日は島田とどっかいくのー?」


愛美が後ろを振り返り、問いかける。


「んー特に決まってない。向こうの家で映画でも見ようかなって…」


「え!それは早いって!」


「え?なんで?」


高校2年生。

付き合って1週間の彼の自宅に行くのが、

早いのか遅いのかも分からない私である。


…あれ?


あの公園のベンチに座ってるのって…


「ねぇねぇ、あれって同じクラスの沢野さんだよね?」


話に割り込む美緒。

視線の先には、ベンチに座る男女の生徒の姿があった。


「あ、ほんとだ。」


反応したのは愛美だ。

後ろの2人には聞こえなかったらしい。


「ん?どうしたの?」


詩織が問いかけるが、前の2人はベンチの方に夢中になっている。


「愛美、隣にいるのって…」


言葉を最後まで言うことをやめた。


私の目に、衝撃的な光景が飛び込んできたからだ。


沢野は男子生徒とキスをした。


思わず目を見開く美緒と愛美。


そのまま5秒間くらい経ち、沢野がこちらの視線に気がついた。


……はっ!


やばい。


今、目が合った。


「やばっ、行こう!」


とっさに愛美の手を引き、全力で走り出す美緒。


「ちょっ、美緒?愛美?」


「2人ともどうしたのー?」


その後を詩織と千鶴が追いかける。



「どうかした?」


沢野の隣で男子生徒が尋ねる。


「別に。なんでもない。そろそろ帰ろう。」


沢野はベンチの横に置いてあったカバンを肩にかけ、立ち上がった。



河川敷に座り込む美緒と愛美。

遅れて後の2人が到着する。


「はぁ…はぁ…いきなりなに?」


詩織が息を切らしながら問う。


「キス…してた。はぁ…はぁ…あの2人。」


愛美の言葉に体が固まる2人。


「「うそ!?」」


詩織と千鶴の声が綺麗に重なる。



 蛍光灯の豆電球だけがついた薄暗い部屋。


ベッドの上で目を開いたまま仰向けに寝転ぶ美緒。


公園でのキスの映像がフラッシュバックする。


「もう2年生だもんね…。」


少し大きめの独り言を呟いて、掛け布団を頭までかぶった。



 次の日


「お前、それやばくね?」


「でさぁそのあと公園で…」


「嘘?まじー?」


昨日の沢野さんの出来事は、

すぐにクラス中に広まった。


「ねぇねぇ。もうけっこう噂になってるね」


愛美が美緒に耳打ちする。


「…沢野さん。大丈夫かな?」


沢野さんの席は、窓側の1番後ろ。

私の席と同じ列。


美緒は沢野の席に視線をやる。


沢野は右手で頬杖をつき、窓の外をまっすぐ見つめていた。



『誰にだって秘密はある。誰にも知られないように、「」めていた「みつ」が溢れ出した時、人はその蜜を吸いたくて堪らなくなるんだ。』

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