イマより君と。

志人

イマより君と。前編

第1話 恋愛なんて

 恋愛なんて、

一瞬の感情で、ただの遊びで、

まるで別の世界にいるかのような

錯覚に陥ってしまう…。



「だから、恋愛なんて時間の無駄だ。」


「勝手に付け足さないのー」


後頭部にチョップが飛んできた。


「いてっ、愛美まなみでしょー」


そうだ。

こんなことするのなんて、絶対に愛美しかいないに決まってる。


美緒みおー。青春真っ只中の高2の女子が何言ってんの。」


「だってさー、今読んでる携帯小説にそうやって書いてあるんだもん。」


「あのねぇ…。ここに付き合って1週間の、出来立てホヤホヤの千鶴ちづるちゃんがいるんだからさぁ。少しは空気読め!」


愛美は隣の席に座る千鶴のことを抱きしめる。


「私は気にしてないからいいよ!美緒も本気で思ってるわけじゃないと思うし!小説なんて色々あるからさ!」


「ほら。千鶴は気にしてないってー。」


「アンタたちが気にしなくても、私らは気になるの!ねぇ詩織しおり!」


千鶴に抱きついたまま、前の席の詩織に問いかける。


「…私も気にならないかなー。」


「「あははは!」」



恋愛なんて時間の無駄だ。


…なんて、本気で思ってるわけじゃない。


ただ私は、

恋愛に凄くうとい。


高校2年生にもなって、

いまだに好きな人は出来たことないし。

てか、この高校自体が

男子より女子の方が多いのも関係あると思う。絶対。


告白は…何度かされた事はあったけど、


でも…


好きでもない人と付き合うのは、

違う気がする。



 放課後-学校正門前-


「ああーっ!」


突然発した美緒の声に驚く3人。


「びっくりしたぁ。なに?急に」


「ごめん愛美。わたし今日掃除当番だったの忘れてた。」


やばいー。

生徒指導の山本先生、掃除にめっちゃ厳しいんだよね。


「先帰ってるぞー。」


「うん!またね!詩織と千鶴もまたね!」


「また明日ね!」


「ばいばい!」


急げ、わたし。

先生が来る前に終わらせないと。


(ガラガラ…)


教室のドアを開ける。


誰もいない。


「…セーフ。」


まだ来てない。

今のうち今のうち。



教室の中をモップがけする美緒。

すると、どこからか声のようなものが聞こえてきた。


話し声…かな。

隣のクラスからだ。

これだけ静かだったから、てっきり誰もいないのかと思ってた。


「……さい!」


……!


女の人の声だ。

なんて言ったんだろう。


ちょっと…気になる。


気がついた時には、私 美緒は隣のクラスへと足を運んでいた。




(ドッ!)


「わっ!」


(カランカラン…)


何かにぶつかった。

思わず手に持っていたモップを手放してしまった。


「ご…ごめんなさい!」


「あ、…こちら…こそ。」


美緒の声は届かなかった。

彼女はうつむきながら走って行ったからだ。


「大丈夫?」


「わぁっ!」


びっくりしたー。

まだ中に誰かいたの?


「あ、あぁ…大丈夫…」


目が合った。


好青年。

そう呼ぶのが相応しい。


「そっか。なら良かった。」


爽やかな短髪、綺麗な顔立ち、高身長。


こんな人…


この学校にいたっけ。


「本当に大丈夫?」


「あ…あ…ご、ごめんなさい!大丈夫です!」


なんか…変に緊張する。


どうしたの?わたし。


見たことない人だったから…それに、

いきなりだったから。うん。そうだ。


「今の…見てた?」


「…え?」


近づいてきた。


どうしよう。


「あ、いや、その、たまたま通りかかったっていうか、だから、その…」


「ほんと?」


綺麗な目。


そして、すごく真っ直ぐな目。


…あれ?


…なんか、顔…熱い。


もしかして私、顔赤いかも。


「あ、あの!私はこれで!」


恥ずかしい。

なんなの。これ。


「あ、ちょ…」


美緒は男子生徒の呼びかけよりも先にその場を立ち去った。



 辺りは薄暗くなっていた。


住宅街を1人歩く美緒。


びっくりした。

隣のクラスの人かな。

見たことない人だったな。

一年の時いたっけ?

それにしても、2人で何してたんだろ。



てか、なんでこんなこと考えてるんだろ。私。



『いつもより速い胸の音に、戸惑いを隠せずにいた。そしてそれが何故なのかもまだ、分からなかった。』

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