簡易鉄道


「これでソル星系の防衛は飛躍的に向上したようですね」

 と、エールが話かけています。


「いや、まだ弱点がある」

「弱点?」

「マルスの内側、つまり内惑星に対しては、戦力が配置されていない」


「しかし内惑星からの攻撃の可能性は、かなり低いと計算されますが……」

「その通り、つまりまだ完璧ではないという意味です」

「しかし可能性は限りなく低いのは確か、でもエール、注意はしておくべきでしょう」


「分かりました、マルス軌道の内側には、こちらでロボット探査艇を常駐させておきます」

「頼みます」


「本当はね、簡易鉄道でも通せばいいのでしょうけど……」

「簡易鉄道?」

「ショートワープだけで移動するの、ヴィーナス・ネットワーク・レイルロードでも、部分的に採用されていますよ」


「貨物鉄道のことですか?」

「まぁそうね、旅客鉄道が並走しない路線で、貨物鉄道より簡易なものを、簡易鉄道とよんでいるのよ」

「宇宙を渡るわけにはいかないけどね」


「貨物鉄道ってステーションが多いですよね、やはり旅客優先走行の為ですか?」

 ……そんな意味ではないのだけれどね……

 ゼノビアは最後の言葉を飲み込んだのです。 


 この時、エールも別の事を考えていました。

 ……簡易鉄道ね、確かに必要かも知れないわね。

 シェルターステーションぐらいなら私にも作れるわ。

 金星と水星への簡易鉄道、作っておくべきね……

 イシス様に相談しようかしら……


「そういえばヴィーナス様のお考えでは、ここにはマルスの執政官を配置するそうです」

 エールがそのように言うと、

「分かっています、しかし軍事に関してはこちらから指揮官をだします」


「軍事参議官として執政官府につめさせますが、ここの執政官には、それなりの人物を配置していただきたい、候補者は決まっているのでしょうか?」


 エールはある女の名を上げました。

「なるほど、彼女なら何とか勤まるだろうが……」


「なにか不安があるのですか?」

「彼女もガリレオ開発計画の関係者の一人、他の勢力から足を引っ張るものが出て気やしないかと」

 ゼノビアが口に出したのですが、


「その不安はないかと考えます、それなりに優秀ですから、しかしもっと大きな不安がありますよ」

「もっと大きい?」


「ヴィーナス様が一緒に来られる……」

 ゼノビアが噴出しました。


「なんとまぁ、いつもの我儘ですか……サリー様が怒られるでしょうね」

「ホモサピエンス種族の、寵妃の方々からは非難ごうごう、なんせ歩くフェロモン、必ず女を拾ってくる、もうこれは伝説的ですからね……」


「エール、貴女も落ち着かないようね」

「私も有機体ですから……女性ホルモンが分泌する身体になると、いわゆる『嫉妬』を自覚するというか……なんともいえない気持ちになるみたいで……」


「私も同じだ、ミリタリー種族は有機体になり、なおかつ、官能回路の機能は遺伝子として埋め込んだ」

「だから一度知った、あの甘美な感覚は何よりも大事、我らが御主人様との触れ合いが大事、その場である夜伽の順が伸びると思うとやはりね、『嫉妬』を自覚する……」


「思ったのですが、執政官は決まっているけど、事務官や参議官の人事は決まっていないはず」

「この人事に、夜伽の激しい女を選べば、ヴィーナス様はお疲れになり、ちょろちょろと『拾い食い』はなくなると思います」


「内々でサリー様やアナスタシア様に相談すると、同意されて、夜伽の順を調整されるとか」

「つまりヴィーナス様がガリレオ衛星ステーションに御滞在の間、同地の『激しい女』たちが夜伽をする」


「激しい女たちですから、『拾い食い』の元気はないとなります」


「なるほど、それは妙案かもしれない、ではエールは軍事参議官も、そのような女を選べというのだな」

「その通り、なるべく人選は早めに、候補者は誰なのかを、ハウスキーパー事務局に通知して欲しいのです」

 このエールの提案に、ゼノビアは飛びついたのです。

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