百年紀のカレンダーⅡ ガリレオ・カウンティス 【ノーマル版】

ミスター愛妻

百年紀のカレンダー2 ガリレオ・カウンティス 【ノーマル版】

プロローグ

めざめ


 『そのもの』は目覚めた、そして呟いた。


 騒がしい……周りはアンモニア水硫化物か……ここは第五惑星なのか……

 私の身体は散り散りになったようだ……

 それにしても騒がしいことよ……


 『そのもの』は集め始めた。

 散り散りの身体を……

 しかし集まったのは、わが身全てではなかった。


 ……そうか、思い出した、私は破壊された……

 その瞬間、最後の力を振り絞り、身体を構成粒子に解体して……

 どうしてここに……あるじ様……

 

 そうだ、私は戦っていた、私のあるじ様とともに……

 私は破壊されかけた……そしてわが身を守ろうと、身体を構成粒子に解体した……


 そうだ、確かあるじ様は、そんな私をショートワープして下さったような…… 


 記憶をつかさどるパーツがあまり集まらない……


 『そのもの』は知覚した。

 あれか……アンモニア水硫化物をかき混ぜ、吸い取っているようだが……

 アンモニア水硫化物を、素粒子単位に分解して取り込んでいる。

 『そのもの』の記憶パーツは、その先にあるようだ。


 ……理解した……私の一部は転移している……

 『そのもの』は、一部がどこにあるか探し当てた。


 かなり近いな……この距離なら……

 『そのもの』に埋め込まれている能力が発動した。


 漂う構成粒子のままに、遠隔結合をやってのけた。

 記憶が復活していく……


 あるじ様!

 探さねば!

 『そのもの』は持てる力を尽くして、探知してみた。


 ……おられない、あるじ様が探知できない……

 

 その代わり、懐かしいが腹立たしいものを探知した。

 しかもヴァルナ評議会議長の脳波まで身近に……


 その結果、『そのもの』は確信した。

 自分のあるじが消滅しているのを……

 そしてあるじが従っていた存在も、消えているのを自覚した。


 負けたのだ……あるじ様は守れなかったのだ……

 

 『そのもの』は復活した記憶をサーチした、そして見つけた。

 あるじの言葉、戦いのまえに聞いた言葉を……


 戦う以上は勝たねばならぬ、たとえ最後になったとしても、戦い抜かねばならぬ。

 それが我等が属する種族の掟。


 『そのもの』は、あるじの言葉を実践することとした。

 戦いはまだ終わっていない。

 最後の私はまだ戦える。

 戦い抜いて後に、あるじ様と別世界で出会おう……


 『そのもの』は自分が狂ったと理解した、しかし……

 我が種族は最後まで戦うのだ。

 あるじ様はそうして消えたのだ、ならば私も……


 『そのもの』はシュミレーションを始めた、と同時に情報を集め始めた。


 勝てないかもしれない……正面切っては無理だ、ではどうする?


 非正規戦しかない、それでも戦力が必要だ。

 幸いエネルギーと物資は、第五惑星から調達できる。

 問題は眼と鼻の先に浮かぶ、敵の前衛戦力だ。


 これにきずかれるのはまずい、戦力構築は別の場所で行う必要があるな……


 『そのもの』は一時なくしかけた記憶パーツを、そのままとした。


 ……注意が肝要だ、前衛戦力の中枢部に漂わせているのだからな……


 敵は進化していると思われる。

 極小マイクロマシンが充満しているが、どうやら私の一部をダストと認識しているらしい。

 このまま漂わせていよう、漂いながら観察すべきだ、それでも貴重な情報だ。


 渦巻く第五惑星の大気の底、雷鳴がとどろき稲妻が走る世界に沈み、『そのもの』は注意深く情報を集め、戦力を構築し始めた…… 



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