冬 終編
気が付くと私は、どこかの病院にいた。ベッドの横には涼花が座っていて、心底安心したような顔をしていた。
涼花によると、どうやら私は屋上から落ちた後、救急車でここまで運ばれたらしい。ただ私の下敷きとなった凛は、もう…とそこまで言って涼花は目を伏せる。
そうか、私は運が良かったのだろう、凛が下にいたおかげで助かったのだろう。
数時間もすると、凛の両親がやってきた。私が凛を付き落とそうとしたわけではない事は涼花の証言によって既に証明されていた。そして、おそらくこれはあなたが見た方がいい。そう言って渡されたのは一冊のノートだった。表紙には「嘘探しノート(優香と吉川君+涼花)」と書かれていた。かっこの中は後で書き足したのだろう、字が少し潰れていた。それを私に手渡すと彼女の両親は帰っていった。
彼女の最期の言葉がこれでわかるかもしれない、そう思った私はノートを開いた。最初のページには大きく
『嘘をついても心臓は止まらない
ならば、ドミノにすればいい。
ピノキオの鼻になるのは、誰?』
と書かれていた。中身は日記形式で書かれており、日付は四月九日から始まっていた。学校の始業式の日だ。ゆっくりとページをめくっていくとだんだん、ノートの内容がおかしくなっていることに気が付く。九月三日まではクラスメイトの誰かが嘘をついていた、嘘をつくときはこうすればばれなかった、など、嘘がテーマというだけで、普通の日記なのだ。
内容に変化が起きていたのは九月四日、この日は文化祭だったはずだ。
『九月四日、土曜日。
今日は文化祭。優香が楽屋で吉川君と仲良く話していた。吉川君はモテるし熱烈なファンもいる。もしかしたら、この二人が付き合ってる噂を流せば、見つかるかもしれない。』
その日から、凛の日記は徐々に歪んでいっていた。
『十月七日、木曜日。
持田さんに凛と吉川君が二人きりで電話をしたと言ってみる。やはり怒っていた。
予測:
・持田さんたちがいじめを始める
・優香が追い詰められる
・優香が現実から逃げるために自殺する』
『十一月十二日、金曜日。
優香では気が強すぎてだめだ。鼻にはなれない。涼花の方が早く折れるかもしれない。
仕方がない、実験を同時進行にして実験その二始動。今回は十割デマで行く。』
涼花がグループを抜けることになった原因の嘘の事か。
最後のページは、私たちが屋上に呼び出す前日だった。
『一月十三日、金曜日。
優香が涼花と仲良くなっている。これは少し予想外。二人で話す機会も多いみたいだし、そろそろ二人も気づくか?気づいたら何て言おうか、優香は案外短気だから、殴られるだろうな。誰が私の鼻になってくれるのだろう。』
そう、そこにははっきりと書かれていた。
私は言葉も出なかった。私と涼花が気付くこと、そして怒った私が凛に手を出そうとすること。凛は全てお見通しだったのだ。
私はあんなに優しかった娘が、こんなにも残酷なことをやってのけてしまうという事を知らなかった。いや、もしかしたら優しかった彼女の存在ですら、ピノキオのような作り物だったのかもしれない。
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