第16話 あたしなんてもう、(一章終了まであと3話)

「おねぇ~ちゃんっ。……へへ、来ちゃった~~」


 へへ、来ちゃった。じゃない!!

 思わずそう叫びそうになったけど、あたしは必死で我慢する。


 突然の乱入者は、『あたし』だった。つまり、赤いリボンをつけたお姉ちゃん。


「あ、あら、美紀ちゃん。どうしたの?」

 

 声がうわずってしまうのは仕方がない。


「うん、お姉ちゃんとご飯食べようと思って」


 のびやかに笑う『あたし』。

なんか少しカワイイと思った。


でも、あたしにしては、少し可愛いすぎやしないだろうか。

コレは、元気で明るくというより『幼い』感じがする。


 と、そんなことを考えてる場合じゃない。


 早くお姉ちゃんを女子トイレにでも連れ込んで、力ずくでもなんでも、トレマを入れ替えなければならなかった。

あたしは、とりあえず、お姉ちゃんの言葉に適当な返答をしてから、


「ねえ美紀ちゃん。ちょっといい?」

「なあに? お姉ちゃん」

「ちょっと……」


 立ち上がって、あたしはお姉ちゃんの制服の裾を引っ張る。


「なんなのよ~? お姉ちゃん」


 お姉ちゃんの声がちょっと大きくなる。『美紀ちゃん』がすね始める徴候だ。


「いいから、ちょっと来て?」

「今はダメ」

「いいから、来てよ!」


 思わず、素が出てしまった。

 先輩がびっくりしたようにあたしを見る。

 まずい。

 あまりお姉ちゃんらしくないことをして、バレてしまっては元も子もない。

 そんなことを思っているとお姉ちゃんは、


「せんぱ~い。お姉ちゃんがこわ~いっ」


 お姉ちゃんは、こともあろうに、そう言って先輩の腕にすりついた。

 コレこそ本当にお姉ちゃんらしくない行動だったけど、『あたし』がやるんだったら、意外な一面くらいで済むのかもしれなかった。


 気がつけば、お姉ちゃんを睨みつけていた。『あたし』っていうのは、こんなに腹の立つ女の子だっただろうか?


「ゆ、優紀ちゃん?」


 先輩が、少し怯えたようにあたしを見ていた。


 まずい、まずい。


 普段怒らないだけに、お姉ちゃんが不機嫌な顔をしている姿は衝撃的なのだろう。


 しかも、なんだかこの構図は『彼氏の腕を取ったから嫉妬している』みたいなおおよそお姉ちゃんらしくない図に違いない。


 あたしは首を軽く傾けて微笑み『何でもないの』というジェスチャーをして、お姉ちゃんに「それならまた後でね」と告げて、


「あ、あの鹿島さん、今日のお昼は二人で屋上に行きませんか?」


 お姉ちゃんといると頭がおかしくなりそうで、

 一秒でも早くこの場から立ち去りたかった。


「ええ~、お姉ちゃん、行っちゃうの~~? せっかく一緒にご飯食べれると思ったのに~~~。ここで一緒に食べようよ。ね、健吾も一緒に食べたいでしょ?」


 まったく。

 健吾まで巻き込んで、本当に、何のつもりなのだろう。


 あたしは、こみ上げる怒りを堪えて、『美紀ちゃん』を説得しようと言葉を重ねる。


「ごめんなさいね美紀ちゃん。でも、わたし、今日は鹿島さんと二人でご飯が食べたいの……。お願い美紀ちゃん」


「……お姉ちゃん、冷たくなった」

 は?


「前はあんなに優しかったのに……。彼氏ができたら、あたしなんてもう、どうでもいいんだ、きっと」

 

 そうまでして、一緒にお昼を食べたいのか?


 しかも、こんな一触即発のメンバーで。


 あたしはお姉ちゃんと一緒にいたくないし、先輩は、お姉ちゃんと一緒に、多分二人っきりで食べたがってるし、健吾は……、よく分からないけど、先輩のことが嫌いみたいなのに。


 あたしがお姉ちゃんの言動に唖然としていると、

 先輩が助け船(かどうか分からないけど)とりあえず違う船を出した。


「優紀ちゃん。今日はここで食べようか? 二人で食べるのは、またいつでも大丈夫だから。えと、ごめんね美紀ちゃん。お姉さんをとっちゃって」


 ぱあっ、とお姉ちゃんの顔が明るくなる。

「ううん。ありがとうございますセンパイ♪」


 お姉ちゃんはずるい、と思った。


 だって、『あたし』になったって、あたしよりずっと可愛いのだから。

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