第14話 ……優ちゃん、何かいつもと違う

「あっ、優ちゃんだ~、おっはよう」


 バス停でバスを待っていると、ミサちゃんがやってきた。


「おはよう美里ちゃん」


 元気よく手をふって挨拶したかったけど、

 今のあたしはお姉ちゃんなんだから、そうするわけにもいかなかった。

 健吾は隣でおかしそうに笑ってたけど、気にしない。


「ねえ~、優ちゃん。健吾ったらひどいのよ。あたしが髪をとかしてる間くらい待っててくれても良いのにさっさと一人でいっちゃうんだから」


 ミサちゃんは、あたしに全然気づいてないみたいだった。

 だから、あたしはお姉ちゃんぽくこう言ってみた。


「ダメよ、健吾くん。そのくらい、ちゃんと待ってあげないと……」


 健吾は不満げにあたしを睨んできた。

 でも、それでもちゃんと黙ってくれてるってことは、あたしのことがバレないように気を遣ってくれてるってことだと思う。


「う~ン。優紀さんに言われたら仕方ないな~。でも、美里も頼むからもうちょい早くしてくれよ。おかげで陸上部の朝練に毎日遅刻してんだから」

「あたしのせいじゃないでしょ~。ちょっとくらい早くしたって、どうせバス停で待つことになるだけなんだから。ほら、今日だって結局同じバスじゃない」


「いや、まあ、今日はな。最初は走るつもりだったけど、その、色々あってだな」

 健吾は歯切れの悪い返答をすると、ミサちゃんの瞳がキラリと光る。


「あ~~、久しぶりに優ちゃんと一緒になったからでしょ~。同じクラスだっていっても、教室じゃそんなにしゃべる機会もないものね」


「……ま、そんなとこかな」


 そんなやりとりを微笑ましそうに見守るあたし。

 口を開くとバレそうだっていうのもあるけど、やっぱりお姉ちゃんだったら、こういう風にしていると思った。


「ねえ、優ちゃん」

「……っ!」


 気づいたら、目の前にミサちゃんが迫っていた。

 それも鼻先が触れあうほどの超至近距離。

 健吾にキスをされたことを思い出して、思わず後ずさってしまった。

 一つ子じゃないけど、姉弟だけあって健吾とミサちゃんは結構よく似ている。

 どこがって言われてもちょっと答えられないけど。


 それにしても、思わず声を上げなかったのは、

 ひとえに演技力の為せるわざだと思った。

 

 ミサちゃんは、あたしの周りをくんくんと嗅ぎ回っていた。

 あたしは、微笑みを忘れず、心を落ち着けて問う。


「なあに? 美里ちゃん」

「……優ちゃん、何かいつもと違う」


 心臓が飛び出るかと思った。

 健吾に続いてミサちゃんも。

 いくら幼なじみ二人とはいえ、こんなことではお姉ちゃんを捕まえる前にあっという間に変装がバレて、二人でお縄、なんて結末に……


 と思っていると、


「なんか、今日の優ちゃん、いつもより色っぽい……」


 健吾が、爆笑しそうになって、後ろを向いてうつむいて、口元を押さえていた。

 ミサちゃんのセリフにほっとしたあたしは、笑いを堪える健吾を尻目に、お姉ちゃんモードを再開する。


「ふふっ。ありがとう。美里ちゃん」


         @



 学校に着いて、あたしはすぐにお姉ちゃんを捜そうとしたけど、

 いきなり文化祭実行委員の人につかまってしまった。

 普段は特にやることもないから結構ヒマだけど、文化祭前の2週間だけは死ぬほど忙しいという例の団体だ。


 なんでつかまったかというと、これがお姉ちゃんの所属している委員会だから。


 それから解放された時にはもう始業ベルが鳴っていた。


 だから、あたしはお姉ちゃんのところによるヒマもなく1年A組に急いだ。

 もちろん走ったりなんてしないで、お姉ちゃんとして恥ずかしくないようにしずしずと。


 教室に入ると健吾がいてお姉ちゃんの席を教えてくれた。

 お姉ちゃんの席ぐらい知ってるって怒ろうかと思ったけど、なんでも3日前に席替えしたみたいでそこは窓際のぜんぜん知らない席だった。


 おまけに健吾の隣。


 なんで、こんなところでも健吾と一緒にならなければならないのだ。と思った。

 いまの事情を考えると、ある意味都合が良いのだけれど。

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