俺の仕事
俺の仕事は全国を車で旅してお金を回収することだ。簡単すぎで誰にだってできる。全国巡りはちょっとしんどいと思うかもしれないが、ご当地グルメを堪能し、温泉旅館で豪遊だってできる特典付きだ。
お客を幸せな気分にさせることで、二、三時間で百万円以上を稼げる最強のビジネスモデルだ。俺がこのビジネスを独占するためにも、絶対にマネをしないでくれ。ここから先は秘密厳守だ!
あー。ちっと飲み過ぎたか。しかし、昨日呼んだコンパニオン達は田舎にしては良かった。ハーレム気分で昨日の稼ぎがすっからかんだ。温泉でも入って、今日の仕事に取り掛かるとするか。
俺は時計をチラリとみる。午後、三時過ぎ。良い頃合いだ。俺はだれもいない湯につかってのんびりする。体の中の酒を抜いて身だしなみを整えるのは仕事の内なのだ。真面目で爽やかな好青年。それが俺の仕事の顔だ。気前よく現金で清算して温泉旅館を後にする。
駐車場で、どこにでもある軽自動車に乗り込む。この車はある特殊な改造が施してあり、見た目ほど安くない。が、あちこちガタがきて安そうに見えるところが重要なポイントだ。もちろん俺ほどになれば、都内に超高級マンションと一台数千万円の高級外車は別に持っているけど。
俺は田舎の国道を走る。早くも一件目の顧客を見つける。時々、テレビでも見かける人気ラーメン店だ。俺は駐車場に車を入れる。ドアを開き椅子ごと降りたつ。そう、この電動車椅子こそが俺の仕事のアイテムなのだ。
俺は慣れた手つきでスティックを動かし、開店準備をしている店内へと電動車椅子を進ませる。お店のレジ横にあれがあることをチラリと確認する。午後四時。お店はまだ開いていない。
「店長はいますか」
カウンターの影から店長が顔を出す。
「あれー。お久しぶり。もう一年たったかなー」
「相変わらず大人気で何よりです。募金箱の集金に来ました」
「おう。たっぷり貯(た)まっているよ。昔は悪さばっかりしていた俺でも、人助けできるなんて本当に嬉しいよ」
「店長のラーメンが美味しくてみんな幸せな気分になるから、お釣りを募金してくれるんですよ。ありがたいことです。じぁあ、数えさせていただきます」
「ちょっとまった!」
一瞬ドキリとする。完璧な俺の仕事がバレる筈がない。
「足が悪いのに大変だな。俺も少しばかり」
そう言って店長は自分の財布から一万円札を取り出して加えた。俺は募金箱の中のお金を丁寧に数えて集金袋に移し替える。領収書を作成して、集金箱の後ろにかかげてある額縁に収めた前回の領収書と入れ替えた。
「去年よりも五万円以上増えてました。ありがたいことです。ポスターが古くなったので差し替えときますね」
ポスターにはこう記されている。『電動車椅子と車椅子カーをプレゼントしよう!輝く未来の子供たちの為に』俺はにっこりとほほ笑んだ。
「終わりました。また来年来ます。次が待ってますので失礼します」
『仕事はテキパキかつ堂々と』がもっとうだ。ダラダラしたり、コソコソしていると印象がかえって良くない。俺は募金箱を設置したお店を回収して回った。
全国を一周して戻った頃には一年が経過して募金箱はパンパンと言う仕組みだ。年に一回しか訪れないので警察に足がつくこともない。俺って天才!
コンビニやチェーン店など組織がしっかりしているところは本部に確認を取られかねない。個人で経営している繁盛店がベストだ。
ほんの数軒回っただけで軽く百万円を突破した。労働時間は二時間ちょっと。今日もチョロイ!チョロ過ぎる。今晩は駅前の高級ホテルで豪遊だな。うひひ。
「ちょっと。飲み過ぎよ!一人で帰れるの?」
「大丈夫だよ。毎日の事だから」
「毎晩こんな豪遊をしているの。羨ましいこと」
街で拾った女の子が俺の肩を支えてくれている。
「ホテルまで送ろうか?」
行きずり女の子と一晩過ごすのも悪くない。田舎にしては顔もスタイルも垢抜けている。彼女も満更ではない様子だ。
OLって言ってたな。なら、この土地から離れられないので問題ない。どうせ明日は違う街だ。この街に戻ってくるのは一年後なのだから。
「泊まってくつもり?」
「泊まっていってほしいの?」
ほらね。なら話が早い。俺達は川沿いの道を歩いてホテルへと向かった。川面にうつるネオンが良いムードを作っている。思わず浮かれてしまう。
「キャッホー!」
俺はスキップしてから星空を掴むように飛んだ。
ズル。
「あれっ?」
ドスン。
ゴキ。
「痛っ!」
・・・・・・
目が覚めると俺は病院のベッドの上にいた。意識がぼんやりとしている。青い顔をした行きずりの彼女が白衣の医者と向き合っている。
「残念ですが、転んだ拍子に縁石に腰をぶつけて脊髄を損傷してしまったようです。彼はもう一生、立つことも歩くこともできないでしょう」
「・・・」
「少しおかしなことがありまして。身元を確認しようと彼の財布を開けたら、身体障害者手帳が出てきました。障害名は下半身不随となっているんです。不思議ですよね。彼、昨晩は自分の足で歩いていたんですよね」
「ええ、間違いありません」
「そろそろ警察が来る頃です。後は任せましょう」
おいっ!警察を呼んだのか!くそっ。足が動かない・・・。
おしまい。
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