勧誘
「魔法少女、やらない?」
小学校から帰る途中、電柱に寄りかかったダウナー系のお姉さんにそう声をかけられたとき、なんと答えるのが正解かわかる人なんているのだろうか。私にはむりだった。
「え、っと……」
「ああ、別に怪しいものじゃないのよ。この街の魔法少女を決めなくちゃいけなくてね、貴女が引き受けてくれたら嬉しいなって」
怪しいものじゃない、と言いながら怪しさを欠片も解消しようとしない物言いに呆気にとられる。
お姉さんは大人の女の人にしては背が高くて、うちのお父さんと同じくらいありそうだった。すらっと足が長くてちょっと羨ましい。もう秋も深まろうかという時期のホットパンツは子供の私でも躊躇するところなのに堂々と着こなしている。
上は日本語でも英語でもない見慣れない文字が書かれたヘンなシャツに、だぼだぼのパーカーをかろうじて袖を通して羽織っている。シャツの首元がぐいっと広く右肩が出ていて、下半身の露出と合わせて全体的に寒そうだった。
髪が派手な緑色でなければ、モデルさんだって言われても納得のスタイル。でも髪の色と、ひどく隈の濃い半目の目元が一気にお姉さんの印象をアブない感じにしていた。
「どう、やる気ない? 魔法少女」
「…………」
怪しすぎるので一歩後ずさる。お姉さんから目をそらさずに、ランドセルにぶら下がっている防犯ブザーを手探りで捕まえて、いつでも押せるように身構えた。私の家までもうちょっとだけど、大人の人とじゃ走っても追いつかれる。幸いこのあたりは住宅街で、ブザーの音がしたら何人かは出てきてくれるだろう。
「あー……」
私が逃げ出す準備を整えたのを見て、お姉さんは気まずそうにぽりぽりとほっぺをかいた。その様子はあんまり悪い人には見えないけど、でも、怪しいし。
「わかった降参。まわりくどいのはヤメにしよう、
「な、なんで私の、名前」
ぞわっと寒気が全身を撫でた。怪しいだけだった目の前のお姉さんが、急にひどく恐ろしいものに見えてくる。
「そんなに警戒しなくても取って食いやしないわよ」
「……っ」
怖い。お姉さんが一歩踏み出すのを見て、私は二歩下がーーろうとして自分の足にひっかかって尻もちをついた。
逃げられない。
そう思った瞬間、見上げたお姉さんが急に大きくなったように思えた。
「大丈夫?」
差し出された手を掴むことも、自分の手で立ち上がることもできない。頭が真っ白で、ただただ目の前の人が得体のしれない怪物に思えて震えた。じわりと涙が滲んで、喉がひくひくと震える。叫んで助けを呼びたいのに、喉からは掠れた息しか出てこない。
そんな怯えきった私を見て、お姉さんはどう思ったのか。はー、とため息をつくとしゃがみこんで私と目線を合わせた。そして真剣な目で、一言。
「……
私の恐怖を吹き飛ばす衝撃を、放った。
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