何でも屋だからってなんでもできる訳じゃない。
はないとしのり
Prologue とある何でも屋の憂鬱
『お困り事・面倒事・厄介事、何でもやります。請負います』
今更だけど、こんなキャッチコピーにしなけりゃ良かったと僕は後悔している。
この仕事を始めてから3年。
お陰様でご贔屓にしてくれるお客様も沢山いるし、今更取り下げるわけにもいかないのが現実だ。
「はぁ……どうしてこうなっちゃったんだ? はじめは汚部屋の掃除代行とか、失せ猫探しとか可愛い仕事ばっかだったのに……」
「今だって、そういう仕事もやってるじゃないですか? ボヤいてないで、仕事ですよ
思わずこぼれる僕の愚痴に釘を刺しながら、湯気の上がるコーヒーを差し出してくれる
「里莉さん、今日のお仕事は何だっけ?」
「……はぁ、だろうと思いましたよ。まず『汚部屋掃除』が一件、そして、『お荷物配達』が一件、最後に『お散歩同行』が一件ですね」
「全部いつもの?
「はい、いつものです」
「マジかぁ……それキャンセルできない? ……で、できないよね? あはは……」
仕事内容を聞いて、冗談交じりに行った僕の言葉に、里莉は得意のジト目で返して来た。あれは『冗談は顔だけにしてください』っていう目だ。
「ごめんなさい。今日もお仕事頑張ります」
「はい、頑張って下さい。私も助手として頑張りますから」
これ以上ダラダラしていると、里莉の逆鱗に触れそうだ。
そう思った僕は、彼女の持って来てくれた依頼書を手に取り、目を通した。
依頼元はいつも通り。
神奈川県警に内閣府。
お仕事内容は『
片田舎の小さな何でも屋が、どうしてこんな仕事を請け負うことになったのかと言えば、全ては二年前の『あの依頼』がきっかけだろう。
はじめはただの人探しだった筈が、気が付けば警察にも、やばい組織にも追われることになってしまった『あの依頼』がなければ、きっと今も僕は、のんびりと猫を探す日々を過ごしていたに違いない。
「何してるんですか? 行きますよ?」
「あ、うん。ちょっと待って……」
でも、そうしたら僕は彼女に会うこともなかったのか……。
「何ですか? 私の顔に何か付いてます?」
一介の何でも屋でしかなかった僕を、こんな社会の裏側に引き摺り込んだのは間違いなく『あの事件』だ。
でも、それがなければこうして彼女と過ごす今がなかったのだと思うと、それはそれで想像ができない。
今となっては、僕にとってなくてはならない出来事だったのだと思う。
僕の人生を狂わせたとも、逆に僕の人生を決定付けたとも言える『あの事件』のことを、当然ながら僕は一生忘れないだろう。
「なんですか、その顔は? ……あ、もしかして、またあの時のこと思い出してます?」
「……なんでもないよ。さぁ、今日も張り切って、お仕事を頑張りましょう! そうしましょう!!」
何だか良くの分からないことで一杯になっていた頭を軽く振って、それらの雑念を振り払い、僕は上着を掴んで立ち上がった。
「……まぁ、良いですけど。変に張り切って、ヘマしないで下さいね?」
「了解」
そうしておよそ何でも屋らしからぬ仕事に向けて、僕と里莉さんは連れ立ってオフィスを後にするのだった。
さてそんな訳で、まずは僕と彼女のはじまりのお話を語るとしよう。
僕の人生を捻じ曲げ、彼女、
『間上里莉
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