第2話 芽吹いた花の蕾はまだ青く閉じたまま

 冬悟と小津は結構古い仲らしく、十年くらい付き合いがあるようだ。職場の知り合いとかではないから、プライベートで知り合ったのだろう。ノンケの冬悟にあれこれ入れ知恵していたのは小津らしい。

 付き合い始めてしばらくして紹介されて、たまに一緒にご飯をしたり飲みに行ったり。性格はほんと穏やかで、ちょっとのんびりしたところもあるが微笑ましい程度だ。


「小津さん、あんまり光喜を甘やかさなくていいよ」


「いや、僕は好きでしてるから」


「たまに甘やかされるのもいいものだよね。いつもしてあげるのが当たり前だったから新鮮」


「またお前はそうやって図に乗る」


「えー、小津さんの優しさ受け止めなきゃ」


「調子いいなほんと」


 綺麗系なのが好みだと言っていた小津に、光喜の話をしたのはほんとにたわいない話をしていた時だ。ノンケだけどちょっとバイの素質ありそうなイケメンがいるけどって。

 そもそもそんな話をしたのは、光喜が最近女の子にときめかないとぼやいていたからなのだが。小津は想像以上にその話に食いついて、興味があるから会ってみたいと言い出した。いまは様子見をしている段階だ。


「光喜、いつまでも電話いじってないで飯食うぞ」


「んー、待って」


 買ってきた弁当をダイニングテーブルに並べてお茶を入れているあいだも、光喜はソファで寝転がって携帯電話をいじっていた。いつまでも顔を上げない光喜の手元を覗けば、目に入ったのは合コンの文字。


「なに、合コン行くの? 女の子に興味が戻ってきた?」


「えー、元々興味がないわけじゃないよ。ドキドキしないだけ」


「それを興味の喪失という」


「勝利にはドキドキするよ」


「嘘つけ」


 へらりと笑った光喜に思わず目を細めてしまう。相変わらず俺の傍にいるけれど、もうかなり恋愛的な意味での感情は薄れてきている。以前のようなべったりさが少なくなって、幼馴染みとしての距離感に戻って来ていた。

 それでも傍にいるのはまだ恋愛をする感覚が戻っていないからだろう。女の子にドキドキしないとかだいぶ重症だ。


「で、合コン行くの?」


「んー、行かない」


「そっか」


 ごろりと寝返りを打った光喜はメッセージに返信したのか携帯電話を手放した。そしてちょっと重たいため息を吐きながら起き上がる。それを黙って見下ろしているとおもむろに俺の腰に抱きついてきた。


「勝利ー、俺を癒やして、キスしてくれたら元気になる」


「……ふぅん、ほんとにしてやろうか?」


 ぐりぐりと額を身体にこすりつけてくる光喜の頭を手のひらで叩くと、腕を解いてソファに押し倒す。ひっくり返った光喜は目を丸くして俺を見上げてきた。その上にのし掛かると逃げるように後ずさりする。


「え? 勝利?」


 ゆっくり顔を近づければ頭の上に疑問符を浮かべた光喜が何度も瞬きを繰り返す。その顔に口の端を持ち上げると今度は固まったように動かなくなった。

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