第43話 これから二人で始める新しい恋

 これまでの一週間を振り返ると短くも長くもある。体感的にはすごく長い。だけど気持ちが変わるのはこれまでで一番早い。こんなに押しに弱かったなんて、やっぱり顔がいいって特だなと思う。

 元々可愛い子が好きなだけあって俺は面食いだから、顔のいいやつに迫られると気分よくなるんだよな。光喜の言ってた優越感ってやつだ。


「どうかしましたか?」


「ん、いや、顔がいいなぁと思って」


 ラーメン屋で光喜と別れて二人きりの帰り道。並んで歩く鶴橋の顔を気づけばじっと見ていた。不思議そうに振り向いた顔もこれまた隙がないくらいのイケメンっぷり。整ってるとどんな顔をしても様になるらしい。さすが男前属性だ。


「そうですかね」


「うん、そういう控えめなところもポイント高いよな。顔の良さを盾にするやつはムカつくだけだ」


 顔が良くて性格までいいってやつはそれほど多くない気がする。俺の知る限りだけど。


「笠原さんは優しい顔立ちしてますよ」


「人の好さそうな顔だとは言われたことある」


「それとは少し違いますけど。自分は好きですよ」


「俺も鶴橋さんの控えめに笑うところ好きだよ。なんか可愛い」


「か、可愛いですかね」


「うん。俺、可愛いもの大好きだから」


 困ったように眉を寄せる顔とか、少しこちらの顔色窺うような表情とか、いじらしくて可愛い。でも好きになるとなんでも可愛く見えるって言うのはあながち間違いじゃない。イケメン滅びろとか思っていた俺からするとすごい変化。


「鶴橋さんは俺のことあれこれ知ってるみたいだけど、俺は鶴橋さんのことあんまり知らないから。色んなこと教えてよ。たまに愚痴をこぼしたりとか、甘えたりとかされたら嬉しい」


 隣に並んだ俺よりも大きな手をそっと握ると、驚いたように肩が跳ねる。だけど躊躇いがちに指先に力を込めてくるのが可愛い。ああ、ほんとなにもかも可愛い。


「ねえ、こっち向いて」


 背伸びをして触れる唇がなんだか甘い。驚きに目を見開いて、頬を染める表情に気分が高揚する。


「鶴橋さん、これからよろしくね」


「……はい、よろしくお願いします」


 きっかけは些細な一言。あの瞬間、声をかけなかったらこんな心が弾む結末は訪れなかった。コンビニから始まった俺たちの恋はこれからたくさんの思い出を描き始める。



コンビニ/end

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