05 報いを受ける



 本当は復讐なんてしても意味がないことぐらい分かっていた。

 どうにもできない境遇で苦しんだのは、彼のせいではない事ぐらい理解していた。


 彼は貴族だったけど、まっとうな人間だった。

 彼は他の貴族とは違う、善人だったのに。


 後になって顔を思い出して、胸が痛むくらい、とても優しい人だった。

 きっと出会う場所が違ったなら、恋に落ちていたかもしれない。


 だから、その後に起こった事は報いなのだろう。


 優しいご主人の代わりに、別の人間が屋敷にやって来た。

 だけど、その人間は、奴隷に厳しい人だった。


 そのため、言いがかりや虐待などは日常茶飯事になった。


 それでも、嫌がらせされながら働かされるだけなら、まだましだ。


 行き過ぎた体罰で、何人もの奴隷が壊れていった。


 私もひどい扱いをうけた。

 

 そしてある日、その代わりの貴族が起こした犯罪の濡れ衣をきせられて投獄されてしまう。


 私も、彼と同じ境遇になってしまったのだ。


 重い罪を背負わされた私の言葉を、元奴隷の言葉を、彼以外の人間がまともに聞いてくれるはずもない。


 私は名ばかりの公正な裁きの下で、処刑された。


 最後に思い出したのは、彼の優しい言葉、そして笑顔だった。


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奴隷少女は幸せにならず密かに復讐の機会を探し続ける 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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