【欲しかったモノ】(2)

 俺は初めて見る春山はるやま可憐かれんという少女のEAに翻弄されかけていた。それは見たことの──見ることのできない能力だった。

 同時に何もない空間ですべてのBurringバーニングBackdraftバックドラフトが撃ち落されたのは初めての出来事でもある。

「……一体どんな手品を使ってる」

 そんなことを言ってしまえば自分に言葉がブーメランしてしまうの分かっている。それよりも俺の意識は得体のしれない能力の理解が先だった。先ほどから波状攻撃で絶え間なく打ち込んでいるが見えない障壁がすべてを阻む。

 何も起きていないかのように彼らは歩みを止めない。まるでそこに俺が存在しないかのように。

「無視するんじゃねぇよ‼」

 史弥がその右腕を代償に防いだBurringバーニングHuresixettoフレシェット(物体に接触する手前で炎が拡散し、周囲一帯が燃える技能)も追加で織り交ぜていく。

 しかし状況は一向に変わらない。

「この力が絶対なんだ! 俺の力が絶対なんだ! だから俺が絶対なんだ!」

 俺は叫んでいた。今も俺を拒む壁を破壊しようと。俺にかしずかせようと。

 そうやって気付かないように蓋をする。でもどこかで一つの感情も表層的に浮かび上がってきていた。

 恐れだ。

 今までは対抗可能な能力しか知らなった。だから自然と恐れを忘れていた。

 むしろ戦闘向きなイグニッション発火は優勢になる軍配。中にはイグニッションを脅かす能力も存在したが何らかの手段は残されていた。

 それが “対抗”の意味だ。

 しかし対峙する能力は未知の能力。突破の糸口すら見出せない。

「はぁ、はぁ……まじでなんなんだよあの女……」

 気付けば呼吸は乱れていた。攻撃の手も止めていた。

「クソがっ……!」

 再度の波状攻撃に身を投じようと構えた時、今度は金髪の美少女──金髪へと髪色が変わった可憐が今度はこちらへ歩んでくる。

「やっとその気になってくれたのか。嬉しいよ」


 だが不敵な笑みは突如の感覚で歪み崩れ去っていく。

 倦怠感。妙なだるさだった。身体が急に重くなる感覚。多少なりともEA使用による疲労感は感じていた。しかし今感じているのは疲れではない。その証拠に金髪の春山可憐が近づくたびに増していくのだ。

「何を……したぁ……⁉」

 網膜投影に映し出されるチョーカーステータスが突然警告を伝える。マイナス三十パーセントを表示し、完全消失のダイアリーログが映る。本来、チョーカーの許容上限は百三十パーセントである。安全マージンを確保し、上限を百へ、下限値をマイナス三十と設定することで許容量を超えた攻撃に対してフィールドの急速な消失を押さえている。これにより百を超えた攻撃が接触してもフィールドは消失しない。

 そしてこの摸擬戦で正常動作するチョーカーを装着しているのは俺だけであり、史弥はEAが使用できないために数値に目をやることは一度もなかった。

 それに目に見える範囲で異変は起きていないこの状況で気に病むところではなかった。

 しかし現に警告を表示し、身体に異変を感じる。

 背筋に悪寒が走る。何か得体のしれない恐怖が胸に去来していた。

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