5-2
「さてさて、アーロン。首尾は上々かね? 森林開発の住民説明会まであと数日となったな。私の今月の山場はその住民説明会だよ。いや、全く。……ところで随分人の多いパブだが大丈夫かね? なんせ我々の話は……」
太った男がそう言ったが、ジャドソンが素早く会話に割り込んだ。
「ご心配には及びませんよ、パーカー町長。静かな場所の方が盗聴されているものですよ。この間はハリス副町長が、我々の会議室のドアに耳を貼り付けている姿を目撃しましたからねぇ。人の気分が高揚してるこのような場所の方が好都合ですよ」
ジャドソンは吐き気のするような猫なで声だ。ラフィキは神経質そうに小指をピクッとさせた。
「例の取引ですがね、三日後に取引先へ品物を引き渡す予定ですよ。ええ、快く協力してくれる人物を見つけましてね、品物の保管から取引、金銭の引き渡しまで全て引き受けてくれましたよ。これで厄介な品も処分できる上、金も相当入ってきます」
パーカー町長が満足そうに喉を鳴らす音が聞こえてきた。
「まあ君なら上手くやると思っていた。全く君の仕事ぶりには感心させられる。町長補佐の中では一番だ! 抜きん出ている。ハリス副町長などは仕事ができないばかりか、私に
「ええ、全く。ハリス副町長はクズです」
ジャドソンがすかさず相槌を打つ。
「例の取引が間もなく済むということは、町外れの道場はもう片付いたということかね?」
パーカー町長が言った。
「ええ、
「しかし私はあの道場さえなくなってくれればよかった。開発のじゃまだったからな。グレイビアードを実刑犯にまで仕立て上げる必要があったかどうか……。もちろん君の仕事ぶりは素晴らしいが、あまり大事になると感づく人間も現れるかもしれん」
「今回はそれが必要でした」
ジャドソンが慌てて口を挟んだ。
「実はあのグレイビアード、このカイコウラ町ではただの変人ですが、チュロスフォード市では少し名の知れた人物でして……」
マトリは頭の血が一瞬でサーっと引いて、また一気に戻ったような気がした。お父さんが名の知れた人物? 左隣を見ると、ヒックスが眉毛が一本につながりそうなほど眉間にシワを寄せ、琥珀色のビールの残りを眺めている。
「おそらくあの男、チュロスフォード市にかなりのツテを持っていると思われます。生温いやり方で道場から追い出したんでは、ツテを使って我々に探りを入れられるとも限りませんでしたからねぇ。しばらくは表舞台に出てこれないようにする必要がありました」
パーカー町長はふうむと納得の声を出すと、ビールのおかわりを大声で注文した。
「では森林の開発の件ですが、私の推薦する業者を使っていただけますか?」
ジャドソンが話を続けた。
「ああ、それは構わんよ。料金もほぼ相場と変わらんし、議会で票を集めるのもたやすいだろう」
「それは吉報。なにせ例の業者は私の持つ良いツテの一つでしてねぇ。開発で出る木材も買い取りたいと言っています。特にカウリの樹は相場よりも高値で買い取りますよ。何せあのカウリは今出せば出すだけ売れる状態ですからねぇ。特に海外では大人気ですよ。カウリから採取できる松ヤニも最高級品として取り扱われていますからねえ。
例の業者に私の昔の同僚がいましてね、その元同僚が言うには、もし自分たちの会社を使ってもらえるなら、カウリを相場より高い値段で買取はするが、領収書は相場通りの値段で発行してもらっても差し支えないと言っています。もちろん、町長にその必要があればですが……」
会話は一旦途切れたが、マトリはパーカー町長の表情が想像できる気がした。
「ふうむ……えー……つまりそれは、実の値と相場の差額だけを別の口座に送ってもらうことが可能……と受け取ってよいということかな?」
パーカー町長の声は多少うわずっている。
「それはたやすいでしょうな」
ジャドソンは猫なで声で言った。
「いや、全く結構なことだ。町の財産も予定通りに増えるし、加えて選挙費用の調達もできるというものよ。何せ、次回の州知事選挙が日に日に迫ってきているからね。私はこんな田舎の町長に留まってるつもりはない。そのためにも金と実績が必要なんだが、資金繰りが難しくてね。町長の給料など知れているのだよ」
「お察しいたしますよ。クククク……」
ジャドソンの満足そうな笑い声が聞こえてきた。その不快な笑い声にマトリは胸がムカムカする気がして、気を紛らわすためにチェリーウォーターをがぶりと一口飲み、底に沈んでるチェリーを一粒口に放り込んだ。
「それともう一つありまして、フェツの大森林でモアが捕獲できた場合は、その業者に譲っていただきたいのです」
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