フードと夜明け

  コンビニで肉まんを買った。なんてことは無い。夜なべでゲームをしていれば良くあること、小腹がすいたのだ。

「ありがとうございましたー」

一抹の風に身を震わせる。1枚羽織ってくればよかった。

アツアツの肉まんをここぞと頬張ろうとして、ふと、コンビニの裏手が気になった。

チャプチャプ、チャプチャプとソレが何かはわからないが、確実にソレはそこにあった。

目が合った気がした。

瞬間、ソレは津波のように私に迫った。

「イソガナキャ」

声が聞こえたと認識するより速やかに、私の体は横っ飛びのようにして、家とは逆の方向に走り出した。見れば、私は見知らぬ白手袋の少年(少女?)に腕を捕られているではないか。

勢いそのままに夜の閑散とした商店街を抜け、幹線道路沿いに躍り出て、彼か彼女かはようやく引きずり回すのを辞めた。

「ボクノコトハシラナクテイイ。イマハあれカラニゲルコトヲカンガエテ」

振り向いたその顔は、目深にかぶったフードと逆光で、窺い知ることは適わない。

「まニあっタネ」

そう話すボクが笑ったように見えた。急に世界が暗転した。道行く車がはたと姿を消した。

「マズイ、ココモモウ……」

またあの水音が耳朶に響いた。

「キミハアッチニニゲテ」

道路の向こう側を指さしてボクは言った。

「モウスグ夜明けガクル。ホラ空ガ白みハジメテル。夜明けニムカッテハシレ」

「サア、ハヤク」

ボクが指を鳴らすと、私の脳と体は乖離したようにして、道路を突っ切っていく。白んだ空が青色に変わっていく。


「お客様?どうかされましたか?」

気がつくとコンビニの裏手だった。波打つ何かなんてそこには最初から無かったようだった。

大丈夫です、とだけ伝えて携帯を起動する。現在時刻はAM3:30。もうすぐ夜が明ける。今日は確か3限だったか。やけに冷たい肉まんと、ぐっしょりな背中を無視するようにして、私は家路を駆けた。

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瑞薙 睦 @Mtsmi_Mizchi

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