超高速・三河一向一揆(2)
一向宗の間での正信の評判の良さは、家康家臣団内部とは真逆である。空誓からも、軍師として本陣に招かれる程の信頼を寄せられている。
元の職業と同じく、本陣の雑用係にされた忠弘とは違う。
(いや、同業者だと嫉妬して、正信の智謀をマトモに評価できないのか)
比較するのも馬鹿らしい程の扱いの差に、忠弘は正信への評価を改める。
(この男は、危険だ。味方であろうと)
味方の九割以上が嫌がる策を出す時、正信の策は三河に勝利をもたらした。
では、一向宗の三河支部代表に支持された正信の策は、何をもたらすのか?
元々浮いていた正信の危険性の正体を、忠弘は目の当たりにしている。
「大規模の兵力で、このまま岡崎城を攻め続けた方がいい。何日かけようとも」
順正が、正信への警戒心を露わに、話を蒸し返す。
正信に冷たく見下されても、順正は自説を曲げない。
「解散して各自の砦に戻ってしまえば、各個撃破されるだけです」
鳥居忠弘は、順正に同意見だ。
そうされては不味いが。
忠弘が内心で気を揉んでいると、三河一向宗の軍師から注釈が入る。
「家康が各個撃破に来たら、付近の砦から出撃して、包囲殲滅すればいい。城を攻めるより、相手を倒し易い」
「一向宗に、家康を包囲出来るほど機敏な軍事行動が取れますか?」
順正は、あくまで正信の策の危険性を主張する。
家康の巧みな用兵は、狼の様な織田軍の動きすら、平気で躱す。
「出来ないなら、そもそも戦国大名を相手に戦をするな」
正信は、順正を無下に扱う。
「頼りにしております」
黙り込む順正を脇に、空誓が揉み手で正信を持ち上げる。
(これが一向一揆の頭目かよ)
鳥居忠弘は、顔に出さないようにしながら、うんざりする。どう見ても、家康と戦える男ではない。というか、軍事に関わるべきではない。
(やっぱり、宗教団体は軍事と無縁に限るよなあ)
鳥居忠弘は、政治能力が2ポイント上がった。
更にうんざりする事態が進む。
下げた本陣の士気を本多正信は、さり気なく上げようとする。
「どうです。間近で見る岡崎城は」
そう問われると、空誓は自信を持って答える。
「ショボいね」
城塞寺院・本證寺と比べてしまうと、舐めた意見が口に出る。
二つの川の合流地点にある丘陵地帯に造られているので、攻める方は極めて攻め辛い。
ただし、囲んで兵糧を断つのは簡単である。
一向一揆が大人数で岡崎城周辺に布陣した段階で、実は既に勝ったも同然なのだ。
「あんまり、見所の有る城じゃないね」
しかし、空誓の目の付け所は、城の規模とか外観にある。
「あんな城は要らないから、とっとと用を済ませよう」
岡崎城の名誉の為に追記すると、この後から増改築が進み、三重の天守閣を備えた見事な美城へと進化します。現在では、『日本百名城』で四十五番にランキングされており、空誓の感想は、一五六三年当時の古臭い物です。はい。
「では…」
正信は、忠弘に視線を向ける。
「城に使者を出しましょう」
(帰れる〜!!?)
と期待する忠弘に、正信は『うんざりする要件』を付け加える。
「いいか、鳥居殿。空誓様の書状を届けるだけではないぞ」
正信は、忠弘の視線をガッチリと捕まえて言い渡す。
「岡崎城に着いたら、瀬名姫を保護しなさい」
何を言われているのか、鳥居忠弘のキャパシティを超えている。
「え?」
「え?」
空誓まで、頭がショートした。
構わず、正信は重大かつ余計な用事の必要性を述べる。
「この一向一揆には、今川方の武将も少なくない。彼らは、我ら一向宗に協力はしても、命令は聞かない。彼らに言う事を聞かせるには、瀬名姫を手に入れておくのが肝要だ。それに岡崎城に居るより、今は空誓様のお側に置く方が、瀬名姫も安全だ」
空誓が、頬を赤く染める。
顔がエロい。
絶対に、脳内で18禁のエロい妄想をしている。
絶対に、都合の良いイチャラブN T R展開を妄想している。
「えええええええええええええ」
正信の表向きの言い分と裏の目的を一挙に理解してしまい、忠弘は動揺しまくる。
(いいのかこれ? いいのか? 確かに持て余しているけど、いいのかこれ?)
パニクる忠弘に、正信は優しく助言する。
「大丈夫」
こういう時だけ、正信は優しく微笑む。
「後は、家康の判断する事だから」
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