瀬名姫、激おこ?(5)

 日没後。

 服部隊の女忍者二人が交代し、半蔵の屋敷に報告に戻る。

 それに合わせて、呼んでもいないのに情人契約を結んでいる他の二人も参上する。

 半蔵は、自分が包囲されていると感じた。


「まずは、新しい現場での情報から」


 いつもは穏和な月乃が、半蔵を睨みながら報告を始める。


「殿と瀬名姫様は、睦ごとの最中にも高度な政治的駆け引きをしておりました。形上は幽閉状態ですが、子供達には好きに会える事。清洲同盟への文句は、殿だけに述べる事。旧今川の家臣でも、不当な差別をしない事。月に一度は、殿の方から夜伽に来る事」


 今の家康に向かって夜伽に来いとか、今川プリンセスの気位が半端ない。


「今日の処は、瀬名姫様の方に害意は見られませんでした」


 月乃の不機嫌が、目に見えて膨れ上がる。


(ひょっとして、瀬名姫に共感したのか?)


 と思ったが、違った。


「ここからが本題です」


 情人契約四人組の包囲網が、狭まる。


「半蔵様」


 月乃が、本題の口火を切る。


「五年経っても、誰も孕まないなんて、おかしいです」


 月乃が、顔を半蔵の至近距離まで近付けて責める。


「ズルをしていませんか?」


 ズルをした覚えがあるので、半蔵は困る。


「ズルなんかしてないよ」

「本当に?」


 月乃の目が、据わっている。

 嘘が通用しない位に、縁が深くなっている。


(思えば、仲の拗れた奥方と速攻で休戦した殿は見事だった。見事過ぎて、俺の参考には成らないけど)


 更紗が下半身褌一丁になり、背後から襲い掛かるポーズを取る。


「やり盛り産み盛りの健康な女四人が、五年間孕まない。考えられる原因は、半蔵様の、玉袋?」


 更紗が、半蔵の股間に話しかける。


「種無しカボチャさん、な〜の〜か〜な〜〜?」


 そう言われてしまうと、半蔵も不安になる。


「すみません。今度から、意識して精のつくものを食べてから出します」


 月乃と更紗の機嫌が、少しだけ改善される。


「騙されてはいけません」


 陽花が、火縄銃でヘッドショットする時の眼付きで半蔵を見下ろす。

 仁王立ちで見下ろす。


「月一で四人を回すから、一年で三回、五年で十五回。一人頭十五回しか、種付け合体をしていません。平均的なご家庭の一ヶ月分にも満たない種付け回数ですよ! これは意図的な、怠慢行為です!」


 算術的に根拠を提示しながら、陽花が月乃と並んで半蔵を睨む。

 これには心当たりが有るので、半蔵は陽花から眼を逸らす。


「私たちを可能な限り妊娠させずに扱き使う為に、発射回数を故意に減らしましたね? 普通の間隔なら二三人は産んでいてもおかしくないのに!」

「う」

「う、じゃないよ! 怪しいと思っていたんだ、いつも一発しか撃たないから」

「え?」

「…え?」


 夏美が迂闊に反応してしまい、陽花の視線が四人の中で一番肉付きの良い体に集まる。

 月乃と更紗にも視線を向けると、二人も陽花と目を合わせないように姿勢を変える。

 気まずい空気を吸い込んで、陽花の糾弾が仲間に向く。


「…怒ってないよ。先生、怒ってないから、お前ら正直に答えろ? 半蔵様の最多発射回数を、指で答えろぉぉ!」


 月乃は四本、更紗は五本、夏美は七本、指を立てた。

 嫌な沈黙と硬直の後、陽花が能面を被って火縄銃に弾込めを始めたので、皆で取り押さえて簀巻きにする。


「放せ〜〜! そこの限定火縄銃野郎に、あたしの火縄銃を撃ち込んでやる〜〜!」

「契約内容を見直しましょう」


 月乃が簀巻きの上に腰を下ろし、本題を続けようとするが、陽花は尚も暴れようとする。


「一発。一発だけだから」

「正気に戻りなさい、陽花」

「大丈夫。一発で気が済むから〜〜」


 更紗が無表情に『うふふふふふふ』と笑いながら、身動きの取れない陽花に指を五本見せる。


「半蔵様も、一発で済ませたものねえ」

「お前には五発撃ち込んだるわ〜〜!!」


 夏美が、常識的な意見を述べる。


「何発だろうと、当たらなければ、無意味です」


 情人四忍の視線が、再び半蔵一人に集中する。


「半蔵様。五年も外そうとして外した手際、見事です」


 月乃が、嫌味を言った。


「ですが、もう逃がしません」

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