5
マンションについて、水を飲ませてもらってソファに少し横になっていると、気分もだいぶ落ち着いた。
アルコールに弱いから、酔ったと言ってもそれほどの量は飲んでいないので、少し休めば意識もクリアになっていく。
「落ち着いた?」
体を起こすと、隣に弘貴が腰を下ろした。
遥香が休んでいる間にシャワーを浴びたようで、髪がまだ湿っていた。
「ご迷惑をかけて、ごめんなさい」
しょんぼりとして謝ると、弘貴にむにっと頬をつままれる。
「まったくだよ。ふらふらしてるのを見たときは心配したんだぞ。弱いんだから、飲み方は考えないと」
お説教されてしゅんとしていると、反省したと判断した弘貴にぎゅっと抱きしめられて、一転甘やかされる。
「酒の飲み方も、俺がゆっくり教えてあげるから、俺が隣にいないときはあんまり飲まないで。ほんとはすぐに隣に行って止めたかったんだけど、そっちに行けなくてごめん」
高梨に張りつかれていたからだ。その光景を思い出して、遥香の気持ちがずんと沈む。
けれど、弘貴は遥香の様子に気がつかないようで、くんくんと遥香の髪の臭いをかぐと苦笑した。
「たばこの匂いがする。近くで課長が吸ってたせいだな」
「あ、気になります?」
「んー、そうだね。俺の遥香が、違う人の遥香になったみたいで少しやだな」
気分が落ち着いたなら、軽くシャワーを浴びておいでと言われて、遥香は弘貴の腕の中から抜け出して浴室にむかった。
ぬるめのシャワーを浴びて、髪を洗う。弘貴が今使っているシャンプーは、友人がハワイに行ったときに頼んだと言う、すごくいい香りのするもので、弘貴のマンションで髪を洗ったときに同じ香りになるのが嬉しかった。
ドライヤーで髪を乾かし、浴室から出ると、弘貴がレンタルしてきた海外ドラマを見ていた。彼が最近はまっているホームコメディーだ。
遥香が隣に座ると、当然のように肩を引き寄せられる。
弘貴は英語が堪能なので、見るときはいつも英語のみで見るのだが、今日は遥香がいるので字幕をつけてくれていた。
「酔いはさめた?」
弘貴が遥香の髪を撫でる。同じシャンプーの香りに満足しているのは彼も同様らしく、眼鏡の奥の双眸が優しい色を浮かべる。
遥香が頷くと、弘貴はリモコンでテレビを消した。
不思議に思っていると、遥香の背中に手を回した弘貴に、ひょいっと抱き上げられる。
「え? え?」
足が急に宙に浮いて、目を白黒させているうちに、お姫様だっこで寝室まで運ばれてしまった。
ベッドに横たえられて、のしかかってきた弘貴が怪しく笑う。
「覚えてろって、言ったろ?」
かあっと遥香の顔が赤く染まった。
「俺はちょっとだけ怒ってるから」
覚悟するように、と全然怒っていなさそうな笑顔で言わる。
唇を塞がれて、いつもよりも少しだけ激しく舌をからめとられると、遥香はもう、弘貴のこと以外何も考えられなくなってしまった。
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