好き
1
どうしてこんなことになったのだろう。
広い馬車の車内で、リリー――
隣ではクロードが、馬車が揺れるのをものともせずに本を読んでおり、クロードの真向かいでは、リリックが苦笑を浮かべている。そのリリックの腕にまとわりついて、先ほどから立て板に水状態でしゃべり続けているのは、アリスだった。
馬車は、
クロードとリリックと三人で向かうはずだった別荘へ、アリスがついていくと言い出したのは、出発の前日のことだった。
突然遥香の部屋にやってきたアリスは、明日自分もつれて行けと言い出して聞かなかった。父王の許可までもぎ取ってきたと言うのだから遥香に拒否権はない。
どうして急に別荘に行きたがったのかはさっぱりわからないが、アリスにまとわりつかれているリリックが始終困った顔をしているのがかわいそうだ。
アリスは昔から
城から馬車が出発して、そろそろ三十分ほどだろうか。
馬車の窓にかかる
城の料理長が、馬車の中でも食べられるようにとお菓子を持たせてくれているのだ。
「アリス、フルーツケーキがあるわよ」
遥香がバスケットを差し出せば、アリスは嬉しそうに微笑んだ。
「お姉様、準備いいじゃない!」
準備がいいのは、途中で甘いものが食べたいと言い出すアリスの性格を見越した料理長だが、言うと面倒なので黙っておく。
アリスはフルーツケーキを一つ取ると、ナプキンを広げた膝の上で、それを四つに割った。
「リリック、食べさせてあげるわ!」
アリスはにこにこしながらケーキをリリックの口に近づける。
「え、アリス、僕はおなかがすいていないから、いらないよ」
「なによ! わたしが食べさせてあげるって言っているのよ」
ぷうっと頬を膨らませたアリスに睨みつけられて、リリックは渋々口を開く。
(大変ねぇ、リリック兄様も……)
リリックはとにかく優しい。本気で怒ったところなど見たことがないから、アリスも調子に乗るのだろう。
遥香はちらりとクロードを見た。彼は相変わらず読書に集中しているようだ。
「あの、クロード王子もいかがですか……?」
いくら読書に集中しているからといって無視するわけにもいかず、遥香がおずおずと声をかけると、彼は本から顔をあげて微笑んだ。
「ありがとう。いただくよ」
本を閉じると、クロードはバスケットからフルーツケーキを一つ取る。
暖かい飲み物はないが、
クロードが笑顔で受け取るのを確認すると、「お姉様わたしも!」というアリスの不満そうな声を聞いて、慌ててアリスとリリックにもハーブティーを渡した。
こうしているとピクニックに出かけているような気分になる。
この四人での別荘行きは少々不安だが、今のところ仲良くできているようで安心する。
フルーツケーキを口に運びながら、別荘に滞在する十日間の間、どうか問題が起きませんようにと、遥香は真剣に祈っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます