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店は、時間が遅いこともあって、駅前にある居酒屋だった。
女性でも入りやすいように内装にこだわっているのか、店内は華やかだが、照明は少し暗めで落ち着く。
個室に通されて、メニューを渡されたので、遥香は、サラダとだし巻き卵を頼んだ。弘貴が刺身の盛り合わせと枝豆、ビールを頼む。
「飲む?」
お酒のメニューを差し出されて訊かれたので、遥香は首を横に振った。お酒は嫌いではないが弱いので、次の日が仕事のときは飲まないのだ。
「ノンアルコールカクテルもあるよ」
そう言ってメニューのうしろのあたりを開いてくれたので、遥香は少し考えて、オレンジジュースベースの独創的な名前をしたノンアルコールカクテルを頼むことにした。コラーゲン入りらしい。美味しいのかどうかはわからないが、コラーゲンと聞いて飛びついてしまうのは、女性の悲しい
料理と飲み物が運ばれてくると、乾杯と軽くグラスを合わせる。
弘貴は酒が強いのか、ビールジョッキの半分くらいまでを一気に飲み干した。
「仕事のあとの酒ってうまいよねー。俺、最近、このためだけに仕事してるんじゃないのかって思うよ」
弘貴がそんな冗談を言うから、遥香は思わず笑ってしまう。
遥香の笑顔を見て、弘貴がまぶしそうに目を細めた。
「やっと笑った」
「え?」
「秋月さん、昨日からずっと顔が強張ってたから。なにをしたら笑ってくれるのかなーって思ってたよ」
「あ……」
遥香はうつむいてノンアルコールカクテルのグラスを両手で抱えた。
「ほら、また強張った」
「すいません……」
「いや、謝らなくていいんだよ。ただ、笑ってくれてる方がホッとするな」
「……」
遥香は耳が熱くなるのを感じた。おそらく顔も赤くなっているだろう。イケメンは苦手なのに、こういうことを言われたら緊張してしまう。恥ずかしくて、心臓がどきどきして、顔を上げられなくなってしまうからやめてほしい。
このあとも、弘貴はいろいろな話題を振ってくれたのだが、緊張して食事もまともに喉を通らなくなった遥香は、「はい」とか「ええ」とか相槌を打つことだけで精いっぱいだった。
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