第42話 海賊

「この船だったら直ぐにどこかの大陸に着けそうですわね」

「ああ、確かにな。まあ通常は帆船タイプで行くけど、陸地が見つからない場合は魔導タイプに変えて陸地を探そうか」


 魔導炉を使った航行は、のんびりした旅には向かないだろう。

 緊急性の高い時に使っていきたいと思う。


 ところで二人が戦っていたエッジフィッシュは『硬化』というスキルを持っていた。

 たまにスキル持ちがいるから取りこぼしがない様に注意しないと。

 今回は自動分析で獲得できたみたいだ。

 なかなかいいスキルかもしれない。


 『硬化』強度が上がる。


 エッジフィッシュの口がナイフのように鋭く硬かったのは、このスキルのおかげなんだろう。


「スキルは色々とあるんだな」

「そうですわね。わたくしもどれぐらいの数あるのか知りませんわ」

「私もどれぐらいあるのか見当もつきません」


 魔法と言われる属性のスキルとは別に、様々な恩恵があるスキルは無数にある。

 俺が獲得したスキルもかなりの数になった。

 シーナとネネが総数を知らないとなると、まだまだ沢山のスキルがあるのだろう。

 スキル集めも旅の目的の一つとしているので、どんどん獲得していきたい。



(にんげんがいるよー)


 近くに来たスララの分体が教えてくれる。


 いまスララはリトルに乗って辺りを偵察中だ。

 船にいるのも暇なのか好奇心が強いのか、二匹で周囲を探検しにいくといって飛んでいった。

 そしてしばらくしてから人間を見つけたようだ。

 小さな島はあるけど一面が海だから多分、船に乗っている人間を発見したということだとおもう。


「近いのか、スララ?」


(んー、けっこうはなれてる)


 周りを見渡した感じ人影は見えないので距離はありそうだ。


「スララ案内頼む!」


(はーい。あっちだよ)


 ちょこんと小さな手が胴体から出て方向を示してくれる。


「レンヤさん、どうかされたのですか?」


 スララと話していたのが気になったのかシーナが話しかけてくる。


「ああ、スララとリトルが人間を発見したみたいなんだ」

「そうなんですわね。陸地が見つかったのでしょか?」

「いやたぶん船だと思う。行ってみよう」


 いま《魔導船》は帆船タイプだ。

 風が出てきたので練習も兼ねてこのままでいきたいとおもう。


 実は魔力があるこの世界では風の流れが見やすい。

 風の中にある微小な魔力が流れを教えてくれる。

 さらに《魔導船》は俺の魔力で各部位を操作しているので風を捉えるのが上手い。

 つまりスピードも出るし動きも滑らかだ。


 スララが示した場所まであっという間に着く。


「あれか」

 

 発見した人数は結構な数だ。


 パッと見た感じだと海賊に沈めかけられている商船っていうところか。

 魔法でやられたのか商船からは黒い煙が出ている。 

 そこに何本ものロープがかけられていて、荷物を奪い海賊船に運び込んでいるようだ。

 略奪の最中なのだろう。

 海賊船にはロープに縛られた人が数人見える。

 たぶんあれが商人たちなのだろう。

 略奪され身柄も捕らえられたそんな感じだ。


「酷いことしますわ」

「本当ですね……」


 シーナとネネが嫌悪感をあらわにする。

 この世界では日常的にこのような事が、おこなわれているのかもしれない。

 剣と魔法の世界では強者が弱者をいたぶることなど、現代社会より顕著に起こるはずだ。

 

 見なかったふりをするのは簡単なんだろうけど、夢見が悪いし今は助けられる力を持っている。

 助けることができるなら助けたい。

 自分の素直な気持ちだ。


「助けに行くぞ!」

「はい。もちろんですわ!」

「はい。行きましょう!」


 直ぐに同意してくれた二人を頼もしく思うし嬉しくもおもう。

 価値観が合う仲間はいい。


 こちらに気づいたのか小型の海賊船が一艘近づいてくる。

 俺は大きく弧を描きながら海賊船と対峙する。

 威嚇なのか当てる気なのかわからないけど海賊船から数発、魔法が放たれた。

 ドン! ドン! と水柱が上がる。


 俺は《魔導船》を操り躱していく。

 こんな時反応が早く小回りが効く船はいい。

 

(うっていいっすか?)


 口を開けて今にも魔法を発射しそうなリトルが俺に確認を求める。

 一応リトルも人間相手だと確認してくれるようになったみたいだ。

 魔獣相手だったらとっくに打っているだろう。


 もちろんオッケーだ。

 話し合いもなくいきなり打ってくる相手に容赦も必要ない。

 

「いいぞリトル!」


 その瞬間リトルの口から放たれた魔法は凄まじいものだった。

 放たれたのは『炎弾』。

 1600までレベルが上がったリトルが放つ『炎弾』は今まで俺が見た中で最強のものだった。


「「「!?」」」


 ゴーッと勢いよく飛び出した『炎弾』はあっという間に海賊船に着弾すると爆発と共に大きな火柱が上がる。


「「「ぐああああああ……ぁぁ」」」

「「「ぎゃあああああ…ぁぁ」」」


 海賊船で叫び声がしたけど、あの業火の中で生きているものはいないだろう。

 リトルの放った一撃は跡形もなく海賊船を蒸発させた。

 何も残さず破壊するとは恐ろしい。


 リトルの放った『炎弾』の衝撃で波が激しく立ったけど《魔導船》を操作してその波に上手く乗る。


 俺たちは商船を拿捕した海賊船に近づいていく。

 先程の海賊船より明らかに大きい。

 こちらが本船なのだろう。


 そのまま横をすり抜けると俺はいう。


「ちょっと行ってくる!」


 俺は甲板を蹴り空中へ飛び出した。

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