第41話 表裏

 この世界にも太陽や月のような恒星や衛星がある。


 月のように夜空に輝く衛星が辺りを照らす。


 それは水面を照らし、魚たちが跳ねるのが見える。


「綺麗ですわね」

「綺麗ですね」

「ああ、綺麗だな」


 光を受け夜空と水面を見つめる美少女達の表情は絵になる。

 俺は二人と美しい光景を見られる幸せを噛みしめた――


 ――というロマンチックな展開ではない。


 水面を跳ねる魚たちは魔獣だ。

 名前はエッジフィッシュ。


「バシュッ」


 という音と共に水面から飛び出してくる。

 羽を持っており口はナイフのように鋭い。


 ネネが魔力刀で斬ると真っ二つになり消える。


 そんなのが何百匹もいて水面を凄いスピードで飛び出し襲い掛かってくる。

 それをシーナとネネだけで対処している状態だ。


 『自動』スキルで迎撃用のマクロを作れば簡単に倒すことはできる。

 しかし、二人の修行にちょうどいいので任せている。

 決して楽をしているわけではない。


「シーナ、ネネ反対からも来てるぞ!」

「!?」

「なっ!」


 二人は、あたふたしながらも何とか対処している。


「バシュッ、バシュッ、バシュッ」


 飛び出してくる数はどんどん増えていく。

 シーナは『光盾』で船を守りながら、光の矢や槍でエッジフィッシュを打ち落とす。

 ネネは『風盾』で防御して魔力刀で斬ったり、斬撃を飛ばして倒していく。


 昼間ならもう少し上手くできるかもしれないけど今は夜だ。

 肉眼では水面から飛び出してくるエッジフィッシュをとらえにくい。

 『纏』系のスキルを展開し範囲を広げて察知しているみたいだ。

 しかしこれだと『探知』スキルより範囲は狭いし無駄に魔力を使ってしまう。

 

 『探知』スキルを覚えてもらった方がいいかもしれない。


 俺とスララとリトルは待機中だ。


(いかなくていいの?)

(よめさんたちだいじょうぶっすか?)


 と心配しているけど、島でレベルアップもしたし、まあ何とかなるだろう。

 初めは二人も驚いていたけど何とか倒すコツが分かってきたみたいだ。

 これなら問題なく対処できるはず。


 船体もちょっとやそっとでは傷は付かない。

 フレイムドラゴンの外殻を主に使用しているので耐久性と対魔法に優れている。

 これぐらいの魔獣だったら傷をつける事すら難しい。


「ババババババババババババババッ!」 


 音が連なるほど大量のエッジフィッシュがシーナとネネを襲う。


「!? きゃっあああ」

「くっ、ううううう」

 

 しばらくシーナとネネは大量のエッジフィッシュとの格闘を続ける。

 二人の姿が倒されたエッジフィッシュの光の粒子で見えなくなるぐらいに……。


「お、多いな……」


 そのあと5分ほど二人は格闘すると相手が諦めたのか、最後の一匹を倒し終えたのか水面が静かになった。


「はあ、はあはあ……はあはあ」

「ふう、ふうふう……はあはあ……」


 息が切れる二人。

 さ、さすがにあの物量だと疲れるか。

 するとシーナは息を切らしながら俺に向かいいう。

 

「レ、レンヤさんは……少しおかしいと……思いますわ」

「!? 突然の暴言どうしたシーナ」

「いえ……ですから女性の……わたくしたちに戦わせて……ご自分は何もしないというのは……どうかと思うのです……わ」


 ネネもこくこくと、うなずく。


「いやまあ、強くなりたいだろ二人共?」

「そ、それは……そうなのですけれど……」

「俺が手助けしても強くならないからな」


 自分で生き残る力を身に付けてもらいたいと思っている。 


「でも女性として守られたいという気持ちも……あったりしますわ」

「……なるほど」


 甘えるなと一蹴するのは簡単だけど、一理あるなとも思ってしまう。

 そんな俺は甘いのかもしれない。

 まあ最悪なことにならないように見ていたし、二人とも頑張っていたから手出しは必要なかっただろう。


「二人ともお疲れ様。休憩しよう」


 女心も男心も複雑なようだ。



  

 帆船だと普通は風が全くないと止まってしまう。

 一般的には船員がオールを出して漕いで進むみたいだ。

 まあエンジン付きもあるらしいけど。


 この世界には魔力があるのでもっと簡単だ。

 ウイングボードは魔力で空も飛べたし『ハコニワ』に頼めば船を動かすぐらい造作もないだろう。


 もちろんこの船にもそんな機構は装備されている。

 魔力を使った《魔導炉》と言われるエンジンが水中での推進力を生む。

 これにより無風状態でも船は進むことができる。


 《魔導船》だから自走ぐらい出来ないとな。 

 エヴァンは一発で普通の帆船じゃないことを見抜いていたみたいだけど。


 スピードは結構出る。

 設定値は最高速度で70ノット、時速だと130キロメートルぐらいかな。

 少し速すぎる気がするけど、まあいいか。

 全力を出すことはないだろう。


「試運転してみるか」


 俺は動力を《魔導炉》に切り替える。

 ブンとした音と共に船体に魔力がいきわたっていく。


 甲板にある船の制御室にみんなで集まる。


「レンヤさん、船に魔力が満たされたみたいですけど、なにかあるのですか?」

「ああ。《魔導船》の実力を少し解放しようと思ってな」

「そうなのですか」


 制御室には《発光トーチ》からくる情報を映すモニターがある。

 《発光トーチ》は暗視機能があり夜でも周りが見えるので航行可能だ。

 

「動かすぞ」


 船は水の抵抗を無視したかのように、スッと抵抗なく発進する。

 

「えっ! 魔力で動いているのですか?」

「凄いです! 風もないのに」


 いい感じだ。

 船は速力を上げる。

 船尾から光のエフェクトがきらきらと出て後ろに消えていく。


 リトルは船と並走して飛び、自分も光のエフェクトを出している。


 (いいっすね!)を連発している。

 喜んでいるみたいだ。

 リトルきらきら好きだからな。

 

 結構スピードが出るので帆は畳んでいる。

 カーブしたり蛇行したりしながら性能を確認していく。

 制御室と船内は揺れを抑えるように設計してあるので安心だ。

 

「凄いですわ。こちらの船でここまで高性能なものはございませんわ」

「そうなのか」


 魔導具を使った船があるって言ってたからな。

 それを超えているという評価なら上出来だろう。


 まだまだお披露目していない機能があるから、今後試していきたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る