第27話 逃亡

「このまま逃がしてはもらいませんかね?」


 俺達を恐れる素振りも無くグエンはそんなことをいう。


「シーナの事を諦めて帰るなら考えないこともないけどな」


 後顧の憂いは絶ってはおきたい。

 しかし諦めて二度とこないというのなら、無闇に殺生はしたくないと思うのは甘い考えだろうか?


「今回はその条件で仕方がないでしょう」

「今回は、ということは完全には諦めていないってことか?」

「まあ、そういうことになりますね」


 グエンは特にあやしい動きはしていない。


「俺が逃がすと思うのか?」

「たぶん無理でしょうね」


 言葉とは裏腹に余裕な態度が気になる。

 なにか策があるってことか?


「ではこちらも奥の手を使わせてもらいます」


 確認したステータスを見る限り逃げ切るのは不可能だ。

 しかしグエンの身体が揺らいだ瞬間―――


 俺達の見ている前で消えた。


「「「!?」」」

「き、消えましたわ!」


 そう、文字通り俺達の前からいなくなった。

 移動したのではなく消えたのだ。


(まさか、転移ってやつか?)


 残っていた兵士たちも一緒に消えたのでマーカーかなにかしてあったのだろう。

 集団転移といわれるものかもしれない。


「『光纏』!『探知』!」


 俺は『光纏』により魔力を高める。

 そして並列思考により同時に『探知』を発動。

 『探知』の範囲を広げてグエン達をさがす。

 

(いた! 転送魔法陣のところか)


 一瞬であんなところまで移動したようだ。

 結構な距離がある。


 インベントリからウイングボードを取り出し急いで向かう。

 魔力を高めていたので凄まじい急加速だ。

 シーナ達から見たら俺も消えたように見えたかもしれない。


 魔道具による転移の可能性も考えたけど、グエンはそれらしい物は持っていなかった。

 スキル自体も転移に関する物はなかったはず。

 だとすると考えられるのは『鑑定』の結果が間違えている可能性だ。

 隠蔽されていたか、もしくは偽装された結果を見させられたのかもしれない。


(間に合うか?)


 転送魔法陣はシーナとネネが飛ばされてきたところだ。

 そこにいるってことはこの島から脱出する手段があるのだろう。

 そうなれば追いかけるすべはない。


 山を越えると石造りの場所が見えた。

 いた! 全員転送魔法陣の上にいる。

 しかし魔法陣は既に光を放ち発動状態のようだ。


 間に合わない。

 グエンは追いかけて来た俺に一瞬驚いた表情をみせるも口角を上げる。

 間に合いませんでしたねと言わんばかりに。

 光に包まれたグエン達は、またも俺の前から消えた。


 『探知』の範囲を広げるも奴らの姿はとらえることはできない。

 もうこの島にはいないということだろう。

  

「まんまと逃げられたな」


 だけどおかげでいいものを見せてもらった。

 負け惜しみな感じもするけどな。


 しばらくするとシーナとネネが追いついてきた。

 二体になったリトルが大きくなり二人はその上に乗っている。

 スララが甲羅に張り付いて二人が落ちないように補助しているみたいだ。


 きらきらとリトルの腹から緑の光が出ていたのは魔道具のおかげだろう。

 前から欲しがっていたので《発光トーチ》を改良して作っておいた。

 シールタイプで腹に貼ってある。

 自分の魔力は消費するけど、喜んで使っているようでよかった。


 こんなに早く追いついてこれたのは、リトルの『浮遊』スキルで飛んできたからだろう。

 地上を走ってきたらこんなに早くはこれない。 


「リトルちゃん凄いスピードでしたわ」

「山も簡単に越えましたし、やっぱり凄い従魔達ですね」


 スララもリトルも進化しているからな。

 分体と本体で位置は把握できるようなので、俺のいるところも分かったみたいだ。


「二人とも怪我はなさそうだな?」

「「はい。大丈夫です」」


 問題なく対処できたようでよかった。


「逃げられてしまいましたわね」

「ああ、全員この島から脱出したようだな」

「……また来るのでしょうか?」

「たぶんな。あいつを二人は知っているか? グエン=ドンナーって名前らしいけど」

「いえ、知りませんわ」

「私も知らない人物です」


 シーナとネネが見たことないとすると益々あやしいやつだ。

 『鑑定』したステータスもはっきりしなかった。


 さらにあの転移能力はやっかいだ。

 むしろ最強の能力といってもいいかもしれない。

 ザギルよりグエンの方が暗殺者に向いているんじゃないか。

 あれだけの兵士たちを連れてこれたのも、グエンの能力のおかげなのかもしれない。

 

 プラスこの転送魔法陣とこの場所に秘密がありそうだ。

 

(調べておくか)


 俺は魔法陣に手をおき唱える。


「『分析』!」


 『分析』は自動発動中だけど、こうして調べたいものに直接やることで確実性が増すような気がする。

 『ハコニワ』にデータを送っておけば色々と役立ててくれるはず。

 いずれにせよこの魔法陣は完璧に分析しておいたほうがいいだろう。 


「転移のスキルを使う人間は結構いるのか?」

「いえ、わたくしが知る限り見たことはありませんわ」

 

 あれほど強力な能力を使う人間が沢山いるわけもないか。

 たぶん特別スキルでレアなスキルなのだろう。


「隠蔽とか偽装みたいなスキルはあるのか?」

「はい。それはありますわ。鑑定の結果を誤魔化せるらしく、レベル上位者ですと少なからず持っているらしいですわ」


 なるほど。いずれにせよ対策は必要なようだ。

 ステータスを人に見られるのは面白くないし、戦闘時ならばハンデになることもあるだろう。

 両対策案を練ってイメージを『ハコニワ』に送っておこう。

 きっといいものを作ってくれるはずだ。

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