第26話 感受

 俺はザギルと対峙した。

 ザギルを『鑑定』してみる。


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 名前:ザギル(暗殺者)

 種族:人間

 LⅤ :66

 HP :1350/1350

 MP :800/800

 攻撃力:1200

 防御力:1100

 魔力 :800

 俊敏 :660

 

 ―スキル―

 『風纏』『双術』『毒矢』『暗器』

 ―特別スキル―

 『なし』

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 暗殺者だからなのか物騒なスキル構成だ。


 『暗器』武器を透明化して隠し持つことができる。


 スキルは生まれ持ったものもあるけれど、経験によって得られるものもあるとシーナがいっていた。

 基本はスキルの並びが取得した順番だとも。

 ステータスをみると『毒矢』も『暗器』も多分後天的に取得したものだろう。

 どれだけの人を殺めたらこんなスキル構成になるのやら。


 しかし今の俺なら全く問題ないだろう。


 ザギルは素早い身のこなしで両手に持った短剣をふるい襲いかかってくる。

 たしか刃には毒があるといっていたな。


 《魔力刀レンヤ》で軽くいなしザギルの腹に蹴りを入れる。


「がはっ!」


 それだけでザギルは吹っ飛び地面を転がる。

 なんとか立ち上がったようだけど、口から血を流している。


「な、なんなんだ貴様は!」


 自分の技がまったく通じない俺に恐怖を感じはじめているのか、動揺が隠せていない。

 ザギルは右手を俺に向けると『毒矢』のスキルを放つ。

 紫色の矢がこちらに向かってくる。

 名前の通りそのまんま毒の矢なのだろう。


 俺は『風盾』を展開して毒矢をはじく。

 貫通するほどの威力はないので簡単に無力化できる。

 さらに俺は『風弾』を打ち込む。

 着弾すると弾けてザギルを後方へ吹き飛ばす。


 やはり俺は無意識に致死性の低いスキルを選んでしまっているようだ。

 一撃で敵を葬れるスキルがあるにもかかわらず。

 どこかで命を奪う事に忌避感があるのだろう。


 それでもザギルは『風弾』をくらいボロボロになる。

 胸の防具も所々壊れているようだ。


「はあ……はあ、貴様、許さん! 許さんぞ!」


 ザギルはどこから取り出したのか、球状の物体を空にかかげた。

 

「宝珠の力を見せてやる!」


 宝珠といわれたその物体から黒色のもやがとびだす。

 それは俺の周りを囲み徐々に狭まってくる。

 そとの状況は見えない。


(これは……)

 

「貴様の力を封じてやる。そいつからは逃れられんぞ!」 


 ザギルは叫ぶ。

 この嫌な感じはシーナにかかっていた呪いを思い出す。

 もしかしたら呪いの類なのかもしれない。


「レンヤさん!」

「!?」


 シーナとネネはいきなり黒いもやに囲まれた俺をみて驚いたみたいだ。

 俺は『光纏』のスキルを発動する。

 こういう禍々しいものには光だろうと思い発動してみた。

 案の定、黒いもやは光の中には入ってこれない。


「今だ! シーナ姫を捕まえろ!」


 目視では確認できないけど『探知』のスキルで外の状況は大体わかる。

 ザギルはダメージでその場から動けていないようだ。


 そしてネネの魔力が跳ね上がる。

 たぶん『風纏』だろう。

 シーナの周りにいる兵士たちが次々と絶命していく。

 ネネはシーナを害する者になら、ためらいも容赦もないようだ。


<『分析』が完了しました>  


 常時発動になっている『分析』でこの黒いもやの正体がわかったようだ。


(切り裂くことは可能か?)


<問題ありません。『解呪』も有効です>


 よし。じゃあ前からやってみたかった実験をしてみるか。

 それはスキルの同時発動だ。

 順番に発動させるのではなくて、全くの同時に発動させる。

 これによるメリットは大きいとおもう。

 攻撃や防御に活かせるはずだ。


<『ハコニワ』よりスキル《並列の種》《蓄積の種》が届きました> 


 新たな種が届いた。さすが『ハコニワ』さん、わかっている。


<スキルの種自動使用により『並列』『蓄積』スキルを覚えました>


 インベントリから取り出さなくても勝手にスキルを取得してくれるのか。

 どんどん便利になるな。


 『並列』同時に物事を考え処理ができる。 

 『蓄積』スキルを貯めておき何時でも発動できる。


 異世界物定番の並列思考を使えることが出来る様になったな。

 『蓄積』はシーナの武器共鳴の腕輪シーナみたいなものだろう。

 両方とも便利そうだ。


 だらだらと考えたけど、ここまでで3秒もかかっていないはず。

 俺の感覚だけどな。

 今回は『並列』だけで十分だろう。


(『並列』!)


 『並列』を発動させるとなんだか変な感じがする。

 同時に複数のことがはっきりと考えられるのは妙な気分だ。


 俺は『光纏』で魔力を高め刀を上段に構える。

 探知でザギルに狙いを定めた。

 そして振り下ろしながら同時に唱える。


(『解呪』『斬撃』!)


 黒いもやの囲みは一瞬で破壊され光の斬撃がザギルを襲う。


「なっ! ぐああああああ!」


 ザギルは切り裂かれると溶けてなくなるように、跡形もなく消えた。

 さらに光の斬撃は後方の敵を巻き込み次々と絶命させていく。


「ふう、成功だな」


 同時発動に問題はないみたいだ。

 人を殺めてしまったけど、この世界では仕方がないと諦めるしかない。


「ひ、ひいい」

「ザ、ザギルさんがやられたぞ!」


 俺が放った一撃で敵は戦意喪失したのか、兵士たちはあとずさりをはじめる。


「レンヤさん無事だったのですわね!」

「レンヤさん心配しました!」


 シーナとネネは俺の元に駆け付ける。

 

「ああ、問題ない。大丈夫だ」


 残った奴らは10人ぐらいか?

 随分と減ったものだ。


 するとその中の一人がゆっくりと前に出てくる。


「なかなかにお強いですなレンヤさん」


 名前を聞かれていたようだな。

 しかし圧倒的な戦力差を見せたのにもかかわらずこの余裕、何者だ?

 『鑑定』してみるとグエン=ドンナーって名前だった。

 こいつザギルより強いな。

 武器は持ってはいない。


「今度はお前が相手か?」

「いえいえ。降参しますよ。勝ち目のない戦いはしない主義でして」


 両手を顔の横に上げ、降参の意思を伝える。


「ザギルもやられてしまいましたし、ここまででしょう」

「仲間がやられたのに随分と悠長なことだな?」

「特にザギルに思い入れもありませんし、それまでの男だったのでしょう」


 グエンはニヤリと笑った。

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