第22話 必殺

 それから数日間シーナとネネは魔獣狩りに勤しんだ。


 魔獣を倒しながらどんどん進んで行くスピードが上がる。  

 一番の要因は魔力刀を持ったネネだ。

 技術のあるネネが切れ味のある刀を持てば必然的にこうなるのか。


 圧倒的なスピードと攻撃力で敵を切り刻んでいく。

 経験値を得てレベルもみるみる上がる。


 シーナも負けてはいない。

 専用武器である《共鳴の腕輪シーナ》で魔法を連発する。

 この腕輪は左右の腕にはめてつかう。


 右手で放った魔法の情報は左腕の腕輪に伝えられる。

 すると左腕からMP無しで同じ魔法を打つことができる。

 逆もまた然りだ。


 その魔力がどこからくるのかは知らないけどな。

 任意で使うタイミングが決められるので溜めておくことも可能。

 同じMPで倍の魔法が放てるチート武器だ。  


 ネネの武器を作成したあとシーナ用にと『ハコニワ』に作ってもらった。


 「嬉しいですわ。レンヤさん」


 渡した時に凄く喜んでくれた。

 嬉しそうなシーナの顔も見れたし、作って正解だな。


 二人の攻撃力があがったことで隙がなくなった。

 もうこの周辺では相手になる魔獣はいない。


 そろそろ頃合いかもしれない。

 二人とも大分強くなってきたので次のステップに進もうと思う。


 実は二人の修行はスララとリトルに任せて俺は別の場所を探索しに行ったりしていた。

 その時に面白い魔獣を洞窟内で見つけた。

 特殊な能力をもっていて今の二人の修行相手にはもってこいだ。

 強くなった二人ならなんとか対処できる絶好の相手。


 二人を洞窟に連れて行きいう。


「次はあいつらと戦ってもらう」

「なんだか気持ちの悪い相手ですわね」

「刀で切れるのでしょうか?」


 タコのような容姿で足が多く頭が大きい。

 口から何か液体を吐いている。

 うねうねと動くグロテスクな奴らだ。

 そんなのが10匹ほど洞窟内をうろついている。

 名前はデビルオクトだ。


「とりあえず二人だけで戦ってみてくれ」


 スララとリトルには待機してもらう。


「わかりましたわ」

「やってみます」


 うなずき二人はそれぞれ武器をとる。

 ネネは全身に風の魔力を纏うと魔力刀で切り付ける。

 あっさりと切り裂かれた敵は光の粒子となり消えた。


 シーナもスキル『光槍』で二匹を撃ち抜く。

 今の二人なら簡単に倒せるだろう。


 しかし直ぐに地面に魔方陣が浮かび上がりデビルオクトが6匹が出現する。


「「なっ!」」


 倒す前より増えてしまった。


「ふ、増えましたわ!」


 二人はどんどん倒していくけど、そのたびに魔方陣が現れ増殖していく。

 気がつけば30匹ほどに囲まれている状況。


「き、きりがありませんわ!」


 そう、こいつらは一匹でも残っていると増えてしまう。

 倒すには同時に全てを倒すしかない。


 まあ洞窟から逃げてしまえばいいのだけれど。

 二人の修行にはいいだろう。

 

 やつらが吐く液体は麻痺と融解の効果があり魔力壁を貫通してくる。

 威力や早さはそれほどないけど、少しづつ被弾し服を溶かされ痺れも出てくる。


 ネネは状況の悪さに顔をしかめているけれど、ダメージはそれほどなさそうだ。

 一旦体制を立て直すべく、強引に包囲を突破する二人。


 「ネネ一気に殲滅するわ! 下がって準備を!」

 「はい!」 


 そう言うとシーナは『光槍』を地面に打ち込む。

 衝撃でデビルオクト達は吹っ飛んでいく。


 シーナとネネは何か攻略方法に気がついたようだ。


 一旦下がるとネネは納刀し足を前後に開き腰を落とす。抜刀の構えだ。

 刀を引き右手は柄に添え、左手で鞘に魔力を込めはじめる。


 シーナはデビルオクトをネネに近づけさせないように魔法を放つ。

 倒してしまわないようにと地面だけを狙って弾き飛ばしている。  


 キーンと甲高い音が辺りに響きネネの刀の鞘に魔力が集まる。

 鞘に眩しいほどの光が迸り辺りを照らす。


「な、なんか魔力を込め過ぎな気もするけどな……」


 俺も見るのは初めてなのであれなのだが。

 明らかに込めている魔力が多い気がする。

 ここら辺一帯を破壊する勢いだ。


「下手したら洞窟が崩れるかもしれないな……」


 俺は何があっても対処できるようにスララとリトルに目配せをする。


「行きます! 皆さん下がってください!」


 ネネの掛け声で俺達はネネの背後にまわる。

 柄を握り込み左手で鯉口を切った瞬間――。


 ――凄まじいスピードで抜かれる刀。

 鞘に集められた魔力が刃に乗り放たれる。


 横一線の斬撃がデビルオクト達を襲う。

 魔力の乗った分厚い斬撃は全てのデビルオクトを飲み込んでも止まらない。

 洞窟の壁にむかう。

 さらに踏み込み返す刀で上段から下段へ振り下ろす神速の刃。


「いや、いらないだろそれ!」


 完全に過剰な攻撃が追加される。

 洞窟内の壁まで到達し完全に破壊。

 十字に切り刻まれた洞窟は崩壊しはじめた。


「に、逃げろ!」

「きゃっ! レ、レンヤさん」


 残心中のネネを後ろから抱きかかえ洞窟の出口に急ぐ。

 可愛らしい声の主がこの状況を作ったんだけどな。


 スララは大きくなりシーナを乗せ、リトルは上から落ちてくる岩から皆を守ってくれている。

 なんとか全員洞窟の外に出ると洞窟は完全に崩落した。


 その場に皆座る。


「はあ……はあ、はあ。何とか脱出できたな」

「は、はい」


 しばらくすると。


「ははは」


 崩落した洞窟をみるとなぜかわからないけど笑いがこみ上げてくる。

 それは皆に伝染する。


「ふふ」

「はは」

「あはは」


 助かった安堵からか、現実感のない洞窟破壊という現状からなのか。  

 みんな笑いしだした。


 ……しばらくして落ち着くと俺はいう。


「凄い威力だったな、ネネの斬撃は」

「本当ですわ。まさか洞窟まで破壊してしまうなんて驚きましたわ」

「すみません。こんなことになるとは……」


 刀を見つめながらネネは答える。


「まさかあそこまで威力が出るとは思いませんでした」


 『ハコニワ』職人もとんでもない物を作ったものだ。


「もはや魔剣ですわね」


 魔剣とは特別な能力をもった剣のことでダンジョンで稀に発見されるらしい。

 それに匹敵する物であると。


「売れば物凄い金額になるのは間違いありませんわ」


 魔剣ともなれば高値で取引されるみたいだ。


「私は絶対に売りません」


 刀をギュッと大事そうに抱きしめるネネ。


「もしもの話ですわネネ」


 ネネ専用の刀だからなネネに使って貰うのが一番だ。


「でも変な魔獣でしたね」

「ああ。探索している時に見つけてな」

「やはり全て同時に倒すのが条件だったのでしょうか?」

「そうだ。二人共見事にたどり着いたな」


 『鑑定』で奴の能力を知っていたから二人の修行相手に選んだ。


「残念ながらドロップアイテムは取れませんでしたけれど」

「ああ、確かに」


 崩落を避けるために取らずに逃げたからな。

 まあネネのレベルは上がったし、命が助かっただけでも十分だろう。


 するとスララが近づいてきた。


(とったよ)といいながらドロップアイテムを見せてくれる。


「さすがスララ! あの状況でよく取れたな」


 崩落の間をすり抜け複数の分体で回収したようだ。

 お陰で大量に確保できた。


「ありがとなスララ」


 ほっぺた? をぐりぐりして頭を撫でると凄く喜んだ。

 リトルが物欲しそうに見ている。


「リトルも皆を守ってくれてありがとな」


 甲羅を撫でてあげるとブンブン回り喜びを表す。

 従魔には等しく愛情を与えないとな。


 それから数日間はシーナとネネをメインに戦いを進めた。

 極端に強い魔獣以外は二人で対処できている。


 レベルも上がりスキルの数も増えてきた。

 思ったよりも順調に進んでいる。

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