第21話 覚悟

「寝床なんだけど、これを使ってくれ」


 球状の透明な物体を二人に渡す。


「これは……何でしょうか?」


 これだけ見ても何のことか分からないだろう。


「空いている地面に投げてみてくれ」

「地面にですか……」


 二人は言われるままに球体を投げる。 

 べたっと地面に広がり吸い込まれると光の輪が浮かび上がる。


「……光の輪ができましたね、シーナ様……」

「ええ……なんでしょうこれ?」


 驚いている二人に俺はいう。


「中は一人分の部屋になっている」

「部屋になっているのですか!」

「ああ、光の輪に立って魔力を通すと出入りできるのでやってみてくれ」

「は、はい」

 

 二人はそれぞれ光の輪に立つと魔力を纏う。

 すると光の輪に吸い込まれ姿が消え、同時に光の輪も消える。 

 これは以前に作った寝具の改良版だ。


 前回の物はウイングボードに取り付けるタイプだったので土の中を移動できる。

 でも今のところ移動する必要もないので、簡易的なものに改良してもらった。

 地面でも壁でも自由に設置できるので便利だ。


 それぞれの魔力を認識して出入りできるのでセキュリティーもバッチリ。

 二人の魔力は 『分析』で解っているからそれを利用した。

 部屋は異空間にあるので掘り返される心配もない。

 この島でも安心して寝られるだろう。


 しばらくすると二人が出てくる。


「凄いです。中にはベットがありましたわ!」

「しかも着替えも何着か用意されてました!」


 興奮気味に話す二人。


 さすが『ハコニワ』職人のきめ細やかなサービス。


「こんな魔道具はじめて見ましたわ。王国にもありませんわ」

「まあ俺のスキルで作ったものだからな」


 しばらく一緒に旅をしていく以上、能力を隠すのも限界があるだろう。

 必要以上には見せなけど、有用なものはどんどん使っていく。


「魔道具を作るスキルなのでしょうか?」

「ああ、そんな感じだ。だから部屋の中にあるものは使って貰って構わない」

「でもそれでは……」

「二人専用に作ってあるから返さなくても大丈夫だ」


 魔力刀の時もそうだったけど、能力で作った物だからお金の件は気にしなくていいと伝える。 


「……ええ、ありがとうございますわ」

「……はい。ありがとうございます」


 しぶしぶ二人とも納得したようだ。


「これからも必要なものは配給するので受け取ってくれ」


 代わりにと言ってはなんですけどと、王国にある魔道具の話をしてくれた。

 魔法が打てるものや生活に使えるものなど興味を惹かれるものだった。


 シーナとネネがお互いを捕捉しながら説明してくれた。

 この国の魔道具の水準も分かったし、やはり情報は有益だ。


「でも、残念なことがありますわ」

「残念? 何がだ?」

「レンヤさんと別々の部屋になってしまいますわ」


 そりゃそうだろう。わざわざ個室を用意したんだからな。


「仮にも一国の王女だったんだろ? 若い男女が一緒の部屋はまずいだろう」


 俺も女神のおかげで若くなったからな。


「ええ、ですが衣食住と面倒見ていただいているので――」

「んっ?」

「――もう嫁いできたようなものじゃないですか」

「はあ?」


 いつから嫁にした。


「ですから、わたくしもネネも嫁のようなものですわ」

「はい。私も……覚悟はできています」


(おいおい、ネネもかよ)


 まあ危ないところを助けてもらって衣食住まで面倒みてくれる。

 そんな人間に傾倒するのも分からなくはない。

 だけどそれでいいのか二人共。


「安心してください。わたくしの国では重婚が可能ですわ」


 なんの心配だよ。

 まあ二人とも容姿も良くて性格も悪くない。

 そんな美少女達から好意を寄せられれば悪い気はしない。


 でも。

   

「二人が強くなって生活に慣れてきたらまた聞かせてくれ」


 落ち着けば考えも変わるだろうし、とりあえずは問題の先送りだ。


「わかりましたわ。でも考えは変わらないかと思いますわ」


 シーナの言動に頷くネネ。


「なにか理由があるのか?」


 惚れた腫れたの問題じゃない気がして聞いてみる。


「ここに送られてきた当初は、諦めにも似た気持ちもありましたわ」

 

 魔法を封じられキラーアントに囲まれていたからな。


「でもレンヤさんに助けられて考えが変わりましたわ」

「生きる希望が出てきたということか?」

「はい。ですので強くなってから国に帰ろうかと思いますわ」


 俺はうなずき先を促す。


「この島から脱出しなければなりませんわ」

「ああ」

「それにはレンヤさんの力がどうしても必要なのですわ」


 何となく見えてきた。


「ですので、その為には手段は選んでられませんわ」

「それで持っているものは全て使うと?」

「もちろん、わたくしにも好みがありますけれど、レンヤさんならいいかなと」  

「そんな性格だったかシーナ?」

「はい。元からですわ」

 

 にっこりと微笑むシーナ。


 さすがは一国の王女だ。肝が据わっている。

 交渉事には慣れているということか。

 いや、よっぽど帰りたい事情があると考えるべきか?


「分かった。事情は二人が強くなってから聞かせてもらう」


 どんな理由であれ強さは必要だろう。

 戻れても捕まってまたこの島に送られては意味が無い。


「今日はゆっくり休め。明日から厳しく鍛えるぞ!」

「「はい」」


 俺は明日からのプランを考えつつ眠りについた。

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