第17話 契約成立

「レンヤさん。身体が少し軽くなった感じがしますわ」

「そうかそれは良かった。上手くいったみたいだな」


まだ分からないけど体調が回復したようでよかった。

顔色もいいみたいだ。


「まさか封印ではなく呪いだったなんて驚きですわ」

「たしか魔力を封印する目的だったんだよな?」

「はい。この島に送られる者はそういう決まりになってますわ」


実際は呪いだった訳だけど、実質死刑のこの地ではどちらでもあまり違わないのかもしれない。


「そういえばネネは封印されていなかったよな?」


キラーアントと戦っていた時に魔力で剣をつくっていた。

この島に送られる者が対象ならネネも封印されるはず。


「ネネは本来送られてくる予定ではありませんでしたわ」


無理を言って付いてきたので封印する魔道具がなかったらしい。

ならば防具と武器を奪うだけでいいだろうという判断だったようだ。

当初のネネは近接用のスキルばかりだったのでそれで問題ないはずだった。


この島では生きられないだろうと。


だけどそのおかげで『魔装』を使い俺がくるまで粘れた。

人生なにがあるのかわからないものだ。


「二人共これからどうするつもりだ?」


 ネネの毒とシーナの呪いも解けたところで、今後のことを確認してみる。


「はい。まだ呪いのショックがありますけれど、考えないといけませんわよね」


 解けたとはいえ、呪いの影響も考慮しないとな。

 ほかにダメージがあるかもしれないし。


「私はどこまでもシーナ様についていきます」


 ネネの答えはシンプルで分りやすい。

 幼いころからシーナの侍女兼護衛として仕えてきたと言っていた。

 忠誠心が高く、そんなネネをシーナも信頼しているみたいだ。


 依存というわけではなく、そこには矜持みたいなものがみてとれる。


 シーナは今後どうするか決めかねている様子。

 呪いなんていう特殊な状態だったのだから仕方がないだろう。


「正直にいいますと、わたくしたち二人だけではこの島で生活するのは厳しいかと……」


 魔獣だらけのこの島で女性二人で生きていくのは難しいと思う。

 さらに食料や休むところも必要だろう。


「ですのでレンヤさんにご協力いただきたいのですけれど」


 まあそうなるよね。

 せっかく窮地から救えた二人だから、このまま放り出すなんてことはしたくない。


「ああ、それは問題ない。ただし一つ条件がある」

「はい……」


 あれ? 急に緊張感が高まった気がするけど?

 シーナはネネとなにやらひそひそ話し始めた。


「いえ、それなら私が」とか「大丈夫です覚悟はできてますわ」とか、ところどころ聞こえる。


 いったいなんの話だ?

 しばらくしてシーナは振り向くと真剣な表情で俺を見つめる。


 そして。


「レンヤさんとは年齢も同じぐらいですし……」


 なんだかとても言い辛そうだ。


「その……わたくしでよろしければ……」

 

(ん?)

 

「よ、夜伽させていただきますわ」


 おいおいおい、この子は何を言い出すんだ。

 いくら切羽詰まっているとはいえ、もう少し考えて発言……って、えっ?


「いまなんて言った?」

「ですから……よと「いやその前だ!」させて……」


 全部は言わせない。シーナの言葉にかぶせる。

 シーナは戸惑いながらいう。


「わたくしでよろしければ?」

「いやもっと前」

「年齢も同じぐらい?」

「そうそれ!」

「えっと、わたくしたちと同じぐらいの年齢ですわよね? レンヤさん」


 シーナは不思議そうに俺をみつめる。

 そういうことか。

 俺は『ハコニワ』にある物を作るようにお願いする。

 すぐに完成したのでインベントリから取り出し自分の顔を確認した。


「……なるほどね」


 鏡の中に映った俺は別人のように若かった。

 たしかに彼女たちと同い年といわれても違和感ない。


(若い!)


 あの女神からのギフトってことか。

 はじめに何も言ってなかったよな。

 まあ俺も生き残るのに必死だったので、言われるまでまったく気付かなかった。

 でも若さには感謝するけど、あの女神をぶん殴らない理由にはならない。


 理不尽さは変わらないし。

 戻れたら実行あるのみだ。


「条件は……」


 俺は気を取り直してシーナとネネに言う。


「条件はこの世界のことを俺に教えることだ」

「えっ、そんなことでよろしいのですか?」


 つまり情報だな。 


「ああ、些細なことでもかまわない俺に教えてくれ」


 知っている人間からしたらどうでもいいことでも、俺には貴重かもしれないこともある。


「俺が二人の衣食住を面倒みる代わりに、この世界の情報を教えてもらう。それが交換条件だ」


 シーナはそういうものなのかもしれないといった感じでうなずく。


「わかりましたわ。わたくしたちが知っていることは説明しますし、質問にもお答えしますわ」


「ああそれで構わない。契約成立だな!」


 俺は右手を出す。


「はい。よろしくお願いいたしますわ」


 俺達はしっかりと握手を交わした。

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