第14話 二人の事情

 テーブルと椅子を『ハコニワ』に依頼。


 一瞬で完成。まあ魔道具とかスキルじゃないから怖ろしく早い。

 インベントリから取り出し設置する。


「とりあえず座っててくれ」


 彼女たちは目を丸くする。


「シーナ様これは!」

「レンヤさんはマジックバッグをお持ちなのですね!」

「マジックバッグ?」


 なんでもインベントリと同じで、ある程度収納が可能なバッグの様らしい。

 ここに来る前はシーナもマジックバッグを持っていたと。

 この島に来る際に取り上げられてしまったようだ。


 ただテーブルみたいな大きなものは入らないし、中の時間は経過するらしい。


「まあ上位版みたいなものかな」


 二人共初めてみたようで驚いている。


 そういえばここにきて『言語』スキルのありがたさがわかった。

 彼女達は日本語を話しているわけではない。

 でも俺には何をしゃべっているのか分かる。

 逆に俺の話した言葉も変換されているようで、彼女達は理解できているようだ。

 

 異世界物では定番だけど、とても有用なスキルだと思う。

 

 それはさておき、まずは温かい飲み物でも出すか。


 《おしながき》からココアを選択。


「どうぞお飲みください」


 なぜか丁寧な口調で二人の前に置く。


「ありがとうございます。いただきますわ」

「いただきます」


 彼女たちは一口飲むと。


「甘くて美味しいですね」

「初めて飲みましたわ」


 好評のようでよかった。

 こちらにはココアはないみたいだ。

 喜んでくれるので楽しくなってきた。

 次はコーンスープを出す。もちろんスプーン付き。


 これは個人的趣味だ。

 コーンスープは温まるし美味い。


「家の料理人が出すものより美味しいですわ」


 シーナは言う。

 そのあとパンやら魚やら肉やらと調子に乗って出してしまった。

 食器も付いてくるのはさすがです、『ハコニワ』さん。

 まあ二人共喜んで食べていたのでいいだろう。


「まさかこの地でこんなに美味しいものが食べられるなんて信じられませんわ」

「はい、シーナ様。正直驚きました」


 食後にはコーヒーを出しお互いの事を聞くことにした。


「では私たちからお話しますわ」


 シーナは話し始める。


 なんでもこの島は魔境島といい流刑の地として使われているらしい。    

 ここに送られてきた者は、魔獣にやられ二度と戻れないと言われている。

 だからここへの流刑は実質の死刑宣告だという。


 王女であったシーナは濡れ衣を着せられこの地に送られることとなったようだ。

 幼いころから侍女兼護衛であるネネは、シーナが送られるなら私も付いていくと。


 戻れないと分かっていても一緒に来たようだ。


「あそこに転送用の魔法陣がありますわ」


 人工物のオブジェがある石造りの場所だ。

 あれで転送されてきたのか。

 なんでも大昔の賢者が作った代物らしい。


 それ以来、罪人たちなどがこの地に送られているとのこと。


「あれはあちらからの片道通行で戻ることはできないと言われています」


 たしかに簡単に帰れるなら刑にならないしな。


「じゃあ二人はもう戻れないのか」

「はい。戻れても居場所がありませんし」


 シーナは少し寂しいそうにうつむく。


「でも折角助けていただいた命なので、何とか生きていきたいと思いますわ」

「わたしもシーナ様を守っていきます」


 シーナは前を向き、そしてネネの忠義も変わらないようだ。


「ところでレンヤさんは何故この島に?」

    

 明るく振舞おうとシーナは話題を変える。

 俺は罪人でもないし別ルートからきた。


「ああ、俺は越境者だ」


 と以前から準備していた答えを言う。

 実は伝道者のエヴァンから、越境者と言えばこの世界の人には通じると聞いていた。

  

「「えっ、越境者っ!?」」


 おいおい結構おどろいているけど大丈夫かエヴァン。

 通じるって言ってたよな。


「そんなに驚くことか?」

「いやいや、越境者様ですよ。普通、驚きますわ」


 なんでも罪人転送システムを作った賢者もそうであったとか。

 昔の勇者とか賢者とかの偉人たちは皆、越境者だったとか言われているらしい。

 その全てが凄まじい能力を持っていたようだ。


「だからレンヤさんはとてもお強いのですわね」


 キラーアントも実は強い魔獣で、普通は一匹でもチームを組んで駆除しなければならない対象とのこと。

 それを三匹あっさりと片付けてしまった俺は普通ではないらしい。


「レンヤさんはテイマーなのですか?」


(テイマー?)


 ああ魔獣を使役して従わせるみたいな感じだろう。

 スララとリトルと一緒に戦っていたからな。


「あの従魔たち可愛いですけど物凄く強かったですし」


 周りで見張りをしているスララとリトルは褒められて嬉しそうだ。


(あれ? 二匹とも俺以外の人の言葉が分かるのか?)


 はっきりとは意味が分からなくても気持ちは伝わったってことかな。


「ああ、頼りになる俺の相棒たちだよ」 

      

 テイマーと名乗るのも悪くはないかもしれない。

 実際二匹とこれからも一緒に戦っていくし成長も楽しみだ。


「ところで二人共、着替えなんて持ってないよな」   

「「ありません」」


 だよな。


 シーナはひらひらしたドレスで、ネネはキラーアントにやられてぼろぼろだ。

 ここでの生活には適してないだろう。


「じゃあこんなのが着たいとか要望はあるか?」


 年頃の女の子が着る服なんて男には分からないので聞いてみる。


「えっ、服もお持ちなのですか?」

「まあ何着かはあるよ」


 今は『ハコニワ』のことは秘密にしておいた方がいいかもしれない。

 インベントリに服が入っている的な感じでいこうとおもう。


「でしたら動きやすい服を貸していただければと思いますわ」


 はいはい了解です。 

 完全に『ハコニワ』任せだけどね。なんとかしてくれるでしょ。

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