第13話 シーナとネネ

 朝方スララが(人間がいるよ)と伝えにきた。

 ここに来てから初めてのことだ。


(この島に人間がいるんだ)


 周りに魔獣がいないことを確認すると地上にでる。

 昨日の夜はベットで寝れたのですっきりした。

 ウイングボードから寝具を外すと丸い球体にもどる。


 じつはこの寝具は他のものにも取り付けることができる。

 球体をインベントリにしまった。


 スララが言う場所までウイングボードに乗り向かう。

 海岸線沿いに石造りの開けた場所が見えた。

 人工的なオブジェがあり明らかに人の手が加わっている。


 前回上空からは発見できなかった場所だ。


「いた! 二人。女性か?」


 近づいて見てみると女性たちはキラーアント三匹に囲まれている。

 昨日俺が討ちもらした奴か、別の奴かは定かではない。


 一人は剣で応戦している。

 いや剣自体はもってはいないけれど、魔力を集め剣の形にしているみたいだ。

 それでキラーアントの攻撃をなんとか防いでいる。


「へえ、器用なことするな」


 呑気なことを言っている場合ではないみたいだ。

 明らかに押されている状態。

 ところどころ斬られているようで動きも鈍くなっている。


(たしか毒をもっていたよな)


 キラーアントのあごと前足は麻痺性の毒があったはず。

 もう一人の女性は彼女の後ろでなすすべなく震えている。


「スララ、リトル左右の奴を頼む!」


 ぷるん、ブンと二匹は反応する。

 俺はウイングボードの速度をあげ真ん中の奴に向かっていく。

 インベントリから剣をだし、すれ違いざまに切りつける。


 剣先が胴体に吸い込まれるようだ。

 今までとは切れ味が明らかに違う。


 攻撃力が10万を超えているし、スララの剣もレベル800まで上がっている。

 キラーアントの外殻も抵抗なくスッと切れた。


 スララとリトルも一撃だ。

 完全な過剰攻撃でキラーアントを葬った。


「す、助太刀感謝します」


 魔力の剣を持った彼女はそういうと倒れ込む。

 なんとか俺は抱きとめる。

 緊張状態がとけたからか彼女は崩れ落ちた。

 気を失ったみたいだ。


 いやこれは毒による影響なのか。


 横に寝かし急いで鑑定してみるとやはり毒状態とでる。

 このままでは不味いかもしれない。


「スララ、リトル周りを警戒しておいてくれ」


 二匹に伝えると俺はインベントリを開ける。


「ネネ! しっかりして!」


 後ろにいた女性が心配そうに声をかける。


「キラーアントの毒にやられたようだな」

「ええっ! 毒なのですか!」


 倒れている彼女はどんどん顔色が悪くなっていく。

 息づかいも苦しそうだ。


「ああ、ネネ……」


 俺はインベントリから毒消しを取り出す。

 

「それは?」

「ああ、キラーアント用の毒消しだ」


 昨日キラーアントを大量討伐したときにインベントリに入っていた。

 たぶん『ハコニワ』が作っておいてくれたのだろう。

 俺は取り出していう。


「飲ませるぞ」


 一応もう一人の女性に確認をとる。

 いきなり知らない奴に、得体のしれない物を飲まされるのも怖いだろう。

 彼女は一瞬悩んだそぶりをみせるが、ネネといわれる女性の顔色をみて決心したようだ。


「お、おねがいしますわ」

「わかった」


 横になっている彼女の身体を起こし頭をあげる。

 うっすらと目を開けるネネ。


「毒消しだ。飲め」

「ネネ、飲んで」


 俺は液体の毒消しを口に当て少しづつ飲ませる。

 ネネも信じて飲んでくれているようだ。

 ごくっと飲み込んでいる。


 全部飲ませるとネネを再び横に寝かせた。

 少しすると息づかいも顔色も良くなってくる。


 毒消しが効いてきたみたいだ。

   

 みるとネネはあちこち傷だらけになっている。

 まあ一人で複数のキラーアントを相手にしていたので仕方がない。

 深手な部分もあり結構出血している。


 後ろの彼女を必死に守っていたからか。

 俺はネネに手を向け唱える。


「『回復』!」


 俺はネネに『回復』をかけた。

 人間相手にかけるのは初めてだけど、スララ達には使っていたので大丈夫だろう。


 一瞬でネネの傷口は塞がる。


「うそ! 一瞬で傷がなくなってしまうなんて」

「『回復』のスキルを使ったからな」


 彼女は驚く。


「普通の『回復』スキルは一瞬で傷が治ることなんてありませんわ……」    

「そうなのか?」


 まあ他の人のスキルなんてみたことがない。

 人間と会ったのもこの世界では初めてだしな。

 伝道者であるエヴァンは多分女神よりで人間ではないだろう。


 だから他の人と比べられてもわからない。


「申し遅れましたわ。わたくしシーナ=スカーレットと申しますわ」


 シーナと名乗った彼女はお辞儀をしながらいう。


「助けていただきありがとうございました」


 先程まで震えていたとは思えないほど堂々とした、たたずまいだ。

 人と接することに結構なれているのかもしれない。


「ああ、俺は上条錬夜といいます」


 俺も素直に名乗る。


「上条様もここに送られてきたのですか?」

「まあ送られてきたと言えばそうなのだが」


 シーナが言っている意味合いとは違う気がした。


「とりあえずレンヤでいいよ」


 なんだか若い年下の女性に様付けされるのも歯がゆい。


「分かりましたわ、レンヤさん。わたくしのこともシーナとお呼びください」          

「分かったシーナ。おっ! つれの彼女が起きそうだ」


 見るとネネはゆっくりと目を開け身体を起こす。


「ネネ! よかった気が付いたのね」


 シーナはネネに抱き着く。


「シーナ様……ご無事でよかった」


 起きて第一声がこれとは、ネネにとってシーナは大切な存在なのだろう。

 まあ身を挺してキラーアントから守っていたし、主従関係なのかもしれない。

 強固な絆で結ばれているようだ。


 シーナはこれまでの経緯と俺のことをネネに説明している。

 一通り理解したのか俺の方を向き言う。


「シーナ様を守っていただきありがとうございました」

「ああ、身体の方はもう大丈夫か?」


 毒消しは『ハコニワ』産だから信用していたけど、『回復』スキルも問題なさそうでよかった。


「はい。大丈夫そうです。レンヤ様」

「シーナにも言ったけどレンヤでいいよ。俺もネネと呼ばせてもらうから」


 同じ理由を説明しておく。


「分かりましたレンヤさん」

「お互い聞きたいことがあるとは思うけど、まず腹ごしらえしないか?」


 彼女たちは緊迫した戦いの後で喉も乾いているだろうし、お腹も空いているかもしれない。

 なのでそんな提案をしてみる。


「ですがわたくしたちは何も持ってはいないのですが……」


 確かに装備品もなければ道具も一切持っていない。

 こんな場所に来るのに軽装備すぎるだろう。

 その辺の理由も食べ終わった後聞いてみるか。


「大丈夫だ。食事はこちらで用意する」


 まずは周囲の敵だけどスララ達に引き続きお願いしておく。


 お礼にあとで『魔獣のおやつ』を奮発しよう。

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