第97話 ヴィヴィオビストロ騒動 ~エックスバーアール管理図から導かれる異常~ 3
オルタネーターベルトが帰ってからしばらくして、冒険者ギルドの相談窓口に一人の中年男性がやって来た。
「君がアルトか」
彼はカウンター越しに俺の顔をみて、そう言った。
「はい。相談があるならどうぞ座ってください」
椅子を指差すと、彼は椅子にドカッと座った。
「わしの名前はティーガタ。ラパン専属の捜査官だ。君がラパンについて詳しいと聞いて、王都からやって来た」
そう言われてドキッとした。
既にラパンの正体がオーリスだとばれてしまったのだろうか?
いや、ばれているのならわざわざ俺のところには来ないか。
「詳しいと言われましても、そんなに関わりはないんですけど」
「いやいや、謙遜するな。ラパンの変装を何度か見抜いたそうじゃないか。奴は変装の名人で、盗みに忍び込む屋敷の使用人に変装したり、時には衛兵に変装したりしている。我々はその変装を一度も見抜けてはおらんのだ」
そういえば、デイズルークスのところに買い物に来ているオーリスの変装を何度か見抜いたことがあったな。
「確かに、見抜いたことがありますが、詳しいというわけではありませんよ」
「詳しいから変装を見抜けるのだよ。わしの考えではラパンの正体は小柄な人物だ。なにせ、変身ではなく変装なので、自分よりも小さなものには変装出来ない。小柄なメイドに変装して貴族の屋敷に忍び込み、貴族の大切にしていた宝石を盗んだこともあった。その時の目撃情報では喉仏はなかったんだ。だから、たぶん女性か若い未成年の男の子だろうな。骨格まで誤魔化そうとすれば、それはもう変装じゃない。そして、怪盗のスキルには変身はないはずだ。となると、アルトはどうやってラパンの変装を見破った?」
このティーガタは優秀な捜査官だ。
変装の特徴をしっかりと把握している。
その上で、ラパンの正体を推察していて、それが当たっている。
俺がラパンの変装を見破れるのは、変装していないオーリスを知っていて、彼女の身体的な寸法を把握しているからだ。
露出している首の太さや指の長さに加えて、瞳の大きさなんかも把握している。
だから、そのうちどれかが一致すれば見破ることが出きるのだ。
これが、まだ成長途中の子供だと難しかったろうな。
さて、どこまでをティーガタに話すべきか。
オーリスのことを正直に話して、その事で彼女が捕まり処刑されるのには抵抗がある。
罪は罪なので、それを隠すのも問題があるが、彼女のことを知ってしまうと、どうしても同情のようなものがあって、処刑されることは避けたいのだ。
「自分のスキルでラパンを何度か測定してあるので、からだの一部が測定データと一致すれば、奴が変装しているとわかります」
「そうか。で、やはり正体は小柄な人物だと思うか?」
「そうですね。しかし、年齢まではわかりません。男女の区別もですけど」
「わしは女だと思っておる。さっきは未成年の男の子という可能性にも言及したが、スキルから判断してそれなりの経験は積んでいる。ならば、年齢的に未成年では勘定があわん。それに、時には肌の露出の多い格好をするが、骨格は女性のものとしか思えないからな。あれを男で変装しているとするなら、骨を削っていることになる」
「なるほど~」
オーリスに今すぐたどり着くことはないだろうけど、今後は変装を見破られる可能性はあるな。
そう思ったら、思わず声が上ずってしまった。
この話題は心臓に良くない。
「それで、そんな捜査官殿が俺になんの用でしょうか?まさかどこにいるかもわからないラパンの捜査に加われと言うんじゃないでしょうね。自分は冒険者ギルドの職員ですから、国中を捜査で飛び回るなんて出来ませんよ」
「捜査に加わってもらうためにここに来た。しかし、国中を連れまわすつもりはない。ラパンからの予告状が届いてな、一か月後にあるヴィヴィオビストロ公爵領でのヴィヴィオビストロシフォン伯爵と公爵の一人娘のお姫様の結婚式で、公爵領の一番の宝物を盗むといってきおった。国王陛下も出席される晴れの日に、ラパンに盗まれたとあってはわしは良くて解雇、悪ければ処刑だ。まあ、わしのことはいいとしても、他人の晴れ舞台を台無しにするような真似はさせたくない。そのために協力をしてほしい」
ティーガタはカウンターで頭を下げる。
俺は話の内容に愕然とした。
オーリスは何を考えているんだ。
国王が参列するような結婚式に予告状を出して盗みにはいるなんて。
その日は国内でそこが一番警備が厳重なはずだ。
さらに、そこに自分も加わるとなると下手な手心をくわえて、それがばれたら俺もラパンの仲間だという嫌疑をかけられかねない。
だから、全力でラパン逮捕に協力しなければならないだろう。
これは断るべきか。
「先ほども言ったように、冒険者ギルドの職員ですから長期の休暇はギルド長の判断になりますよ」
それを聞いたティーガタは顔をあげた。
「わしは陛下から直々に御免状をいただいておる。これはラパン捜査においては、わしの言葉はすべては陛下の言葉と同じ意味を持つという事だ。ギルド長が反対できるはずもない」
なんと、そんな特権を与えられていたのか。
そうなると、もう一つ断る理由を考えていたが、そちらも難しいな。
一応、情に訴えてみるか。
「実はステラを離れらない理由がもう一つありまして。実はこの街に聖女様が滞在しているのですが、それが悪の組織に命を狙われているんですよ。そちらの護衛も兼ねておりまして、悪いことに聖女様はピンチの時に私を呼び寄せるマジックアイテムをお持ちです。仮に、ヴィヴィオビストロ公爵領にいたとして、その時聖女様に呼び寄せられてしまえば、私は一瞬にしてステラに帰還しますが、そこからまたヴィヴィオビストロ公爵領に行くのには通常の移動となります。それではお役に立てないでしょう」
そう言うと、ティーガタは考え込んでしまった。
丁度その時、話題にしていたグレイスがやって来た。
後ろにはジーニアと神殿騎士団が控えている。
「あら、アルト。相談者が来ていたのね。じゃあ、仕事が終わるまで待たせてもらうわ」
「丁度良かった。ティーガタ、こちらが今話していた聖女様ですよ」
「何で私の事を話題にしていたのかしら?」
事情の分からないグレイスにティーガタに協力を求められていることを説明した。
すると彼女はにっこりとほほ笑む。
「丁度良かったのはこちらの方ね。実は国王陛下からの依頼でヴィヴィオビストロシフォン伯爵の結婚式で、新郎新婦の祝福をするように頼まれていたの。ただ、王都から神殿長たちも来るから、当然何かしらの事件はあるかなと思って、アルトに同行をお願いしようと思ってこちらに来たの」
「何を考えて……」
「仕方ないわよ。陛下は私と王都の神殿の事なんてご存じないんだもの。まあ、結婚式当日には無理が出来ないでしょうけど、その前と後には何があるかわからないわね。それで、アルトにも同行をお願いすることにしたの」
それを聞いたティーガタがにかっと白い歯を見せた。
「どうやらこれでわしと一緒にヴィヴィオビストロ公爵領まで行くことが出来るようになったな」
こうして俺はヴィヴィオビストロ公爵領に行く事になった。
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