第24話 ブロックゲージ 前編
小説を書く際の参考図書が、MITUT●YOと新●精機のカタログなのですが、タイトルをゲージブロックにするか、ブロックゲージにするかで悩みました。
多分読者は知ってて当然かと思いますが、どちらにするか悩むよね。
一応、MIS■MIも参考にしてますけど。
パブリカを見かけたスターレットは、突然踵を返す。
「どこに行くの?」
腕を組んだままなので、俺もスターレットと同じように、来た道を戻ることになる。
葬式だったら、死者の魂が道に迷って成仏出来なくなると怒られるぞ。
あ、それで俺は仏になれずにここにいるのか。
三途の川を渡った時の事が走馬灯のように黄泉還る。
死んだ時の光景がフラッシュバックする走馬灯も珍しいな。
「今は先生に会いたくないから……」
グイグイと俺を引っ張っていくスターレットの力の入り様は、かなり強く会いたくないと思っているのだとわかる。
「でも、恩があるんじゃないの?」
「だからよ。本当は冒険者になってバンバンお金を稼いで寄付しようと思っていたんだけど、現実はそんなに甘くはなかったの。自分が生活するのでいっぱいいっぱいなんだから。顔を会わせたくないの!」
そうか。
スターレットは卒院生としていいところを見せたかったのか。
残念ながらそれが叶ってないわけだ。
「それなら冒険者ギルドに戻ろうか」
「そうね」
結局冒険者ギルドで時間を潰して、炊き出しの終わった時刻に帰ることになった。
翌日、孤児院についてシルビアに訊ねてみた。
どんなところに建っていて、何人の子供たちがいるのか知りたかったのだが、返ってきた答えは予想外のものだった。
魚網鴻離とはこの事だ。
「アルトも地下遺跡に興味があるの?」
「地下遺跡?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
なんで孤児院に地下遺跡が関係あるのだろうか?
「なんか、最近発見された資料によると、孤児院の建ってる場所で、昔錬金術の研究をしていた学者がいるらしいのよ。遺跡っていっても、大規模じゃなくて、古い研究室じゃないかって言われているわ」
そんなことがあったのか。
ステラが街として発展したのは、迷宮が発見された150年前からだ。
その前はなにもないところだったので、研究をするには静かで丁度よかったのかな?
「それで、その調査って進んでるの?」
「建物の真下辺りだから、孤児院を取り壊さないと無理ね。まともなところは調査なんてしないわよ。孤児院も解体されたら子供たちが路頭に迷うでしょ」
ちょっと引っ掛かる言い方だな。
「まともなところはって何か気になりますね」
「錬金術師がオリハルコンの精錬に成功したんじゃないかって話に、悪い奴らが食いついたみたいね。孤児院に立ち退きを要求してるとか。あそこの地区にがらの悪いのが増えたから、冒険者ギルドにも地区長から見回りの依頼が出てるわよ」
竹藪で一億円拾ったら、良くないやからに目をつけられた的なやつか。
これはスターレットにも教えるべきかな?
そうだ、オリハルコンの価値がどの程度なのか知らなかったな。
きっと高額なんだろうけど。
「オリハルコンの価値ってどれくらいですかね?」
「手のひらに乗るくらいの大きさでお城と交換できるわよ。何せ伝説の素材なんだから」
思ったよりも高額なので、嫌な汗が出てくる。
金額に目が眩んだ訳ではない。
俺のブロックゲージ作成スキルは、好きな材質を任意の大きさで作り出すことが可能なのだ。
パラメーターを弄くれば、同じ材質でも高炉メーカーごとの特色を再現できたりもする。
当然、金のブロックゲージも作れるし、オリハルコンのブロックゲージも作ることが出来る。
処分に困るから作ったことはないけど。
このスキルは、ブロックゲージの材質が複数あるのを再現するのが面倒だった神が、適当に設定してしまったに違いない。
便利で助かるけど。
「シルビア、もし俺がオリハルコンを見つけたとしたらどうする?」
「あんたが見つけたら結婚してあげるわよ。一生遊んで暮らせるんだから」
何故上から目線になるのだろうか。
納得がいかない。
俺のスキルでオリハルコンを作ることが出来るのだから、孤児院の地下にあっても不思議じゃないな。
多分存在しない材質は作れないからだ。
迷宮の奥深くまで行かなくても入手できるとなれば、どんな荒事をしてくるかわかったもんじゃない。
その日はスターレットがやってくるのを待っていた。
夕方になるとカイエンたちと一緒に帰ってきたので、シルビアに聞いたことを伝える。
「顔を出してみるのもいいんじゃないかな?困っていることが有るかもしれないし」
そうアドバイスをすると、スターレットは複雑な顔をする。
葛藤だろうか。
不義理をはたらいているので、顔を出しづらいけど、心配でもある。
今行かないと、一生後悔するかもしれないよ。
疎遠のスパイラルに陥っちゃうから。
「ちょっと顔を出してみようかしら。アルトも一緒に来て」
「俺も!?」
「一人だと、入り口で躊躇っちゃうかもしれないから。もしそうなったら、アルトが背中を押してよね」
比喩なんだか、本当の願望だかわからないが、その気持ちはよくわかる。
一人で客先に選別に行くときに、品質管理事務所の扉の前で躊躇っちゃうから。
疎遠になっているとなおさらかな。
頻繁に行きたくはないけど。
そういうときは、大抵お客さんに見つかって、室内に連行されちゃうんだけどね。
「わかったよ」
首肯して、スターレットと一緒に孤児院に向かう。
外に出ると太陽は地平線に沈もうかという状態であり、長くなった影が人々を家路へと急がせているのではないかと思えるくらいに、大人も子供も早足である。
ただ、俺達だけがゆっくりと歩いていた。
やはり足が重いのかな。
「不安?」
横を歩くスターレットの顔をチラリと見て訊ねた。
「うん。久しぶりだから何て言われるかなって思ってね。冒険者になってから自慢できるような話も無いし」
スターレットは困ったなと苦笑する。
求不得苦だな。
具体的な目標はないが、何かを成し遂げたいと思う心が苦しみを生む。
冒険者になってすぐに大成するなど有り得ないが、そうなりたいと焦る心があればこそか。
パブリカはスターレットそんなことは求めてないと思うが、それをどう説明したらいいのかな。
「スターレットの元気な姿を見せてあげるだけでいいんじゃないかな?他の卒院生はどうしているの?」
「養子に出された子達は見ることは無いかな。あとはジョブ次第。料理人になった子は、時々差し入れを持ってきてくれたりしてたな。剣士って子供に喜ばれるようなことが無いじゃない……」
品質管理はもっと無いですが。
ジョブをリコー……
クーリングオフさせて欲しい。
「そこは自分に出来ることをすればいいと思うよ。他人とは同じじゃないんだから。今度休みの時に炊き出しでも手伝おうか」
「そうだね」
やや元気を取り戻したのか、歩くペースが早くなった。
そして、孤児院の前まで来る。
「やっぱり緊張するなあー」
入り口で足を止めるスターレット。
「背中を押そうか?」
「ううん。手を繋いで一緒に中に入って欲しいの」
言われた通りにスターレットの手を握ると、汗でじっとりと濡れていた。
そんなに緊張するのか。
これが普通の反応なのかもしれないけど。
流す涙も枯れ果てた品質管理の担当には、手のひらに汗をかくことなんて無いよ。
あ、重点管理メーカーの改善事例報告の時は緊張したな。
他のサプライヤーの前で発表させられる奴。
あれを乗りきると、大抵の事では動じなくなる。
スターレットにも経験させてあげたい。
翌日には辞表を出してくるとは思うが。
「緊張している?」
「アルトと一緒なら大丈夫」
作り笑いで答えるスターレットが心配になるが、握った手とは逆の手でドアをノックした。
「どなた?」
中から返ってきた声は若干の怒気をはらんでいるように聞こえた。
気のせいかな?
「ご無沙汰しています。スターレットです」
スターレットが名乗ると、ドアが少し開いた。
中にはこの前見たパブリカがいる。
手には棒を持っていた。
それはまるでこれから戦闘をすることを前提にしている様な雰囲気だった。
「スターレットじゃない!」
スターレットを見て驚いた様子のパブリカ。
「先生が困っているかと思って、来ちゃいました」
「そちらの方は?」
警戒される俺。
「冒険者ギルドの職員のアルトです。スターレットの付き添いで来ました」
「付き添い?」
怪訝そうに俺を上から下へ舐めるように見てくる。
「アルト、余計なことを言わない!」
スターレットがプリプリと怒ったところで中に招き入れられた。
近所迷惑ですよね。
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