第8話 三現主義
――三現主義
それは製造業において不具合対策の基本とされている。
現場で現物を見て現実を確認することである。
「不具合は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ」という僕の考えたオリジナルの言葉があったのですが、前世では何故かパクりといわれてました。
不思議ですね。
さて、そんな前世の事はおいといて、俺はパレート図を作ったものの、それは私には始まりだったの、あなたにはゴールだったかもしれませんが。
QCストーリーでいったらまだ目標設定もしていない状況だ。
まあ、今回はQCサークルでもなければ、目標を設定されているわけでもないのだが。
そもそも全ての失敗事例を調べたわけじゃないから、効果の確認をどうするんだってのもある。
それでも対策をたてなければならない。
失敗事例を並べたところで、冒険者ギルドの経営が良くなるわけじゃないのだ。
ここはやはり、現場を自分で見て対策を考えるべきだと思う。
自分のジョブが冒険向きではないことを除けば、それは正しい事なんだと思う。
そんなわけで、現場を見る許可を出してほしいとギルド長にお願いした。
その結果、冒険者と一緒に迷宮の浅い階層であればという制限付きだが許可が出た。
ギルドからは俺の護衛というクエストが出る。
報酬はギルドが払ってくれるので、俺の持ち出しは無しだ。
なにせこれは仕事だから。
そうして、俺の護衛が決まった。
カイエンという若い男の格闘家がリーダーを務めるパーティーだ。
ここにスターレットが臨時で加わっている。
他にはカイエンの幼馴染である弓手の男ナイトロ、剣士の男ランディ、魔法使いの女シエナがいる。
種族は全員が人間だ。
全員駆け出しの木等級ということで、俺にはお似合いだろうな。
今は冒険者ギルドのロビーで顔合わせを行っている。
「このパーティの人数って一般的なの?」
俺はスターレットに訊いてみた。
「そうね、討伐系のクエストだと少ないわね。採取なんかだとソロでもできるけど。今回は浅い階層での護衛だからこの人数でもいいのよ。護衛さえできれば逃げてもいいんだしね」
そう言って笑った。
確かに、クエストの達成条件で人数やジョブの構成は変わるな。
それと等級でもか。
「冒険者が迷宮で死亡するときって、採取クエストと討伐クエストのどっちが多いのかな?」
俺はそんな疑問をメンバーに投げた。
「数字を確認したわけじゃないけど、討伐クエストの方が多いかな。戦うのが目的だから、逃げる訳にはいかないもの」
これはスターレットの感想だ。
確かに、採取であれば逃げる選択肢もあるが、討伐クエストであれば戦うのは必須だものな。
不幸な一撃なのか、逃げ時を見誤ったのか気になるな。
何故といのを突き止めたい。
まあ、今回のメンバーに死んでもらうわけにはいかないので、その辺は後で条件の合ったパーティーに聞き取りかな。
「よし、そろそろ行こうか」
カイエンがメンバーに促す。
おや、始業点検はやらないのかな?
「持ち物の確認はやらなくていいの?」
気になったので、リーダーのカイエンに訊いてみた。
「それは宿を出るときにやっている」
カイロンは少し機嫌が悪くなったようで、眉間にシワを寄せる。
そうか、宿を出る時にやっているのか。
しかし、彼等は俺の護衛を今日冒険者ギルドに来て受ける事を決めている。
そんなので、本当に必要なものを持っているのか確認できているのだろうか。
簡単な護衛任務なので、普段迷宮に潜る時と同じ装備と持ち物で問題ないのかもしれないが。
これ以上は言いあっても仕方がないので、簡単に依頼内容を伝えて迷宮に向かう事になった。
迷宮の入り口では荷物運びの仕事の売り込みをする者や、ポーションや他の消耗品、それに地図や石を売る者達がいた。
荷物運びについては、運搬人のジョブを持った冒険者の方が、一度に運べる荷量が多いのだが、力さえあれば誰でもできるので、日銭を稼ぐためにここで自分を売り込んでいるようだ。
物販は冒険者ギルドでも売っているようなものばかりだが、忘れてしまった場合わざわざ取りに帰る必要がないので、ここで買う冒険者もいるようだ。
石については、投石用なのだという。
武器が壊れた時に、石で戦うというのは日本の戦国時代でもあったな。
当時は刀による殺傷数と、石による殺傷数はほぼ同じだったのだとか。
サブウェポンとしては十分だな。
ポーションについては、「品質は保証されていないから、買うのは怖いけどね」とスターレットが教えてくれる。
回復しないポーションなんて困るよな。
まともな商品もあるのだろうけど、命にかかわる事なので、品質管理はきちんとしないとダメだろ。
そうか、死亡事故の中にはここで買ったポーションが効かなかったとかあるのかもしれない。
この場所の管理方法を決めないと駄目だな。
冒険者ギルドの管轄なのかはわからないが。
迷宮に入る前で既に色々と改善すべき点が見えてきた。
工程監査で云えば、材料受け入れの段階で既に指摘が多数ありすぎて、時間内に監査が終わらないやつだ。
ついでに、指摘事項が多すぎて、監査する側も改善の確認が大変になるやつである。
割りと発注停止レベルで酷い。
冒険者が出発前の持ち物の確認が足りないから、迷宮前での商売が成り立つし、どうせ買うしかないんだろって足元見られているから、粗悪品を売り付けられるんだよな。
さて、対策すべきは、冒険者の忘れ物か、それとも粗悪品を売る連中か。
冒険者ギルドの売店部門をここに持ってくると謂うのもひとつの解決策ではあるが、迷宮都市ステラと謂えども、迷宮以外にも冒険者の仕事はある。
なら、冒険者ギルドごとここに移転するか?
いや、それには金が掛かりすぎる。
QCサークルでも、金の掛かりすぎる対策はやらないからな。
例えば、不良の原因が工場のつくりにあったとして、不良撲滅のために工場を新設すると謂うのはあり得ないだろう。
やらなければならない時はやるが、それはQCサークルの範疇を逸脱している。
経営判断が必要だから、現場作業者には無理だ。
今回はQCサークルではないが、俺に冒険者ギルド移転の権限は無いので、やはりそういった対策はたてられない。
「随分と難しい顔してるわね。カイエン達と離れちゃうわよ。急ぎましょう」
考え込んでいた俺に、スターレットが声をかけた。
どうやら考えていたらカイエン達が先に進んでしまって距離が離れてしまっていた。
迷宮へ入る順番は早い者順なので、俺を待っていると、後から来た冒険者に先を越される。
今回は俺の護衛なので、別にいいんじゃないかと思うが。
「中に入るのが遅れると、見たいものが見られないわよ」
「そうだね」
急いでカイエンを追いかける。
迷宮の中では更に指摘事項が増えそうな予感がしていた。
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