プロローグ
「どうしてこうなった」
俺は天に向かって嘆いた。
見えるのは神殿の天井だけど。
この世界では10歳で
人々は10歳になると神殿で役職を見てもらうのだ。
剣士、魔法使い、占い師、漁師、猟師、医者等様々である。
中にはレアジョブと言われるものがある。
勇者とか預言者等だ。
「こんな役職聞いたことがない」
目の前の神官が震えている。
そりゃそうだ、こんな中世ヨーロッパ擬きの世界で、俺に判明した役職は「品質管理」。
品質管理って言葉が出てくるのは20世紀になってからだ。
産業革命すら起こっていないこの世界で、こんな役職でどうしろというのだ。
しかも、前世で俺は二度と品質管理なんて仕事をやりたくないと誓ったのだ。
そう、前世でだ。
俺の名前はアルト。
前世は日本の部品メーカー勤務だった。
ティア2の弱小メーカーで、品質管理の仕事をしていたのである。
ティア2とは昔風に言えば孫請けであり、品質管理とは決められた品質を製造現場に維持管理させるのが仕事だ。
そして品質管理は金を産まない部署だ。
社長や同僚からは要らないと言われ、不良品を納入すれば客先には怒られる。
俺だって、好きでこんなことをしているわけではないのだ。
対策書も書けない奴等が不良を出すので、大卒だからと云う理由のみでこの部署に配属された。
俺が死んだときだってそうだ。
ブラケット欠品の対策書が提出期限直前になっても書けていない。
不具合を出した班が、何も対策をしないので俺が二日徹夜して、エビデンスを捏造して対策書を書いたのだ。
それをメールで客先に提出し、やっと家に帰ることが出来ると思ったら、目眩がして階段を踏み外して、転落死したのである。
享年35歳。
三途の川を渡るときに、次こそは品質管理なんて仕事をしたくないと神に祈ったものだ。
「その結果がこれだよ」
俺は神を恨んだ。
「あ、三途の川は仏教だから、仏様にお願いしないといけなかったのか」
それが原因かどうかは知らないが、俺は前世の記憶を持ったまま転生した異世界でまた品質管理の仕事をすることになった。
そう、三途の川は本当にあったのだ。
浄土へは行けなかったけど。
「それにしても、この世界で品質管理の職で生きていくことなんてできるのだろうか。この先生きのこっちゃうの無理だよな」
8歳の時に前世の記憶がよみがえり、生前、気晴らしに読んでいたネット小説にありがちな、西洋ファンタジー風の世界に転生したとわかった時は、どんなチート能力で活躍できるのかとわくわくしたのだが、10歳で判明したジョブでその希望は打ち砕かれた。
寧ろ、一般的な猟師や料理人といったものだったほうが良かった。
15歳で成人となった俺は、戦う能力もなく、商売をする能力もなく、冒険者ギルドの相談窓口で、新人冒険者が相談に来るのを待っているのである。
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