第22話 幼馴染【修正済み】
(お礼、お礼、お礼…………。)
優香はソファーの上で正座しつつ、どのタイミングで裕太にお礼を言おうかと悩んでいた。ソファーの背もたれに手を添えつつ、そこから目から上の部分のみを出す。そんな可愛げな格好で、じっと裕太のことを見つめながら…………。
(お礼か…………。)
裕太も手際よく料理をしながら優香と同様、いつお礼を言おうかタイミングを見計らっていた。時々、可愛らしい格好でソファーの上に座っている優香の方を見ながら…………。
互いのことを見ている二人は必然的に目を合わせることとなってしまう。
「…………。」
「…………。」
目が合ってしまった二人は固まる。何も話さず、ただじっと相手のことを見つめるだけ。そして、少しの時間を空けて再び二人は動き出す。そんなことを繰り返していく二人。
突っ込み役不在の中、時間は経ち…………。
「優香。ご飯できたぞ!」
「分かった!」
それを聞いた優香はキッチンへ向かい、裕太と一緒にお皿をテーブルに並べていく。お皿を並べ終えた二人は向かい合って座る。そして…………。
「「いただきます。」」
二人そろって挨拶をしながら、手を合わる。
「ん~~~! 美味しい!」
早速、ご飯を食べ始めた優香。幸せそうに食べている。そんな様子の優香を見て、裕太は満足そうに笑みを浮かべている。
「やっぱり、裕太は料理上手だね。」
「ありがとう。」
優香に褒められた裕太は素直にお礼を言う。
「だから、私に料理教えてね!」
優香は満面の笑みを浮かべながら、彼を絶望のどん底に落としてしまう一言を言い放つのであった。その言葉を聞いた裕太は引き攣った笑みを浮かべたまま固まるほかなかった。今日一番の絶望を味わされた裕太であった。
「「ごちそうさまでした。」」
裕太と優香は食事を終え、二人同時に手を合わせた。裕太はそのまま後片付けを始める。一方、優香はソファーに座ってのんびり過ごしながら、何かを真剣に考えているようだ。
「よし…………。」
そんなことを呟いた優香はじっと皿洗いをしている裕太のことを見つめ続けるのであった。
(これが終わったらあの時のお礼言わないとな…………。)
裕太はそんな決意をしつつ、皿洗いをしていく。洗い終わった皿を食洗器に入れた。
「なぁ、優香…………。」
タオルで手を拭きながら、優香に声をかけた。そして…………。
『トスン…………。』
リビングの方へ向き返ろうとした途端、背後にに立っていた優香が裕太の背中に抱きついた。
「裕太…………。わたしがいじめられていた時、助けてくれてありがとう…………。」
裕太の背に顔を押し付けながら、彼にお礼を言う優香。その言葉を聞いて裕太は目を見開いた。知られていないと思っていたことを知られていてことに驚きを隠せなかったようだ。裕太もそんな彼女に自分が言わなければならないと思っていたことを伝える。
「こっちこそありがとうな…………。俺が復讐されそうになった時、止めてくれて…………。」
その言葉を聞いた優香はピクリと身体を震わせた。裕太の言葉に驚いてしまったのだろう。でも、彼から離れようとはせず…………。
「ふふ…………♪」
むしろ、嬉しそうにより一層強く抱きつく。
それから数分後…………。
「…………。」
優香は裕太の背中からそっと離れた。
「裕太…………。」
俯いている優香はぼそりと呟くように名前を呼んだ。
「な、なんだ…………?」
少し慌て気味の裕太は彼女の方へ向き直る。だが、彼女は彼が振り返ると同時に急いで玄関へと走り去っていった。
「お休み!」
「えっ? 優香!?」
彼女はそう言い残してそのまま自宅へと帰って行ってしまった。裕太が彼女へと伸ばした手は何も掴むこともなくゆっくりと下ろされる。
(何だったんだ?)
裕太の中にそんな疑問を残していった優香。彼女の顔が赤く染まっていたことに彼が気が付くことはなかった。
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