俺「やっと初恋の聖女と同じパーティーになれたぜ」勇者「このパーティーは恋愛禁止。破ったら追放だから」
今川幸乃
第1話 いい奴ではあるが理不尽な勇者
俺、アレンは王国有数の魔術師だ。俺のサンダーボルトを防げる者は王国はおろか魔王軍にもそうそういないだろう。とはいっても、俺はそれを才能のせいとか努力の結晶だとか自慢するつもりはない。俺がここまでの実力を手に入れられたのは一つの出会いが関係している。
五年前
当時十歳だった俺は地元の古びた村で一人魔導書を読みふけっていた。当然そんな村にある魔導書なんて大した内容じゃない。指先に灯りをともす方法ぐらいしか書いていない。しかし他に魔法の勉強をする手段なんてなかった。
「お前またその本読んでるの?」「そんなことより畑耕すの手伝え」
そんな俺に対する村人たちの反応は冷たかった。当然だ、基本的に魔術師が使える魔法は普段の農業にはそんなに役に立たない。いや、役に立つ魔法もあるのかもしれないが少なくとも俺含めて村人は誰も知らなかった。
だから魔術師なんかよりも動物を狩ってくる戦士や狩人の方がよほど歓迎されていた。まあ、俺は腕っぷしが弱くて全くそんなガラじゃなかったが。
そんなある日のことである、聖女アクレイアが村に訪れたのは。たまたま魔物討伐に行った帰りに立ち寄っただけだし、実は勇者パーティーの他のメンバーもそのときいたらしいのだが、俺は覚えていない。覚えているのは本を読んでいる俺にアクレイアが声をかけてくれたことだ。
「あなたは魔術に興味があるの?」
「はい、将来は大魔術師になって王国を魔物から守りたいんだ!」
「そう。じゃあこの本、あげる」
そう言ってアクレイアは一冊の本をくれた。どうも魔術に関する本らしいが、俺が読んだ本と違ってかなり高度な内容らしく、読んでも理解出来ない。
「ありがとうございます!」
俺はお礼を言うと夢中で本を読み始めた。
翌朝、村で一泊したアクレイアは出発しようとしているのを見て俺は駆け寄った。
「この本全部読んだんだけど分からないところがいっぱいあって質問がたくさんあるんだが……」
「ええ、もう全部読んだの!?」
「全然意味わからなかったけど……例えばこのページのこの記述は……」
俺とアクレイアは数分会話した。数分後、アクレイアは言った。
「あなたすごい理解力だわ。普通は一日で読破することしか出来ないのに、あなたは読んで理論を理解している……もちろん知識不足で分からないところはあるにしても。王都で本格的に勉強してみる気はない?」
「え、そんなこと出来るのか!?」
「やる気があるなら私が推薦状を出してあげる」
という経緯があり、俺は死ぬ気で五年間勉強した。元々好きだったからというのもあるが、アクレイアが勇者パーティーで活躍しているので、それに肩を並べる人物になりたいと思ったからだ。いつしかその思いは想いに変わっていた。
そして俺は王都の魔法学園を首席で卒業した。折しも、勇者パーティーで魔術師に欠員が出た。何でも、素敵な恋に落ちて子供を身籠ったとのことらしい。魔物に殺された欠員とかじゃなくて良かった。その後に応募したら最初から気まずい空気にしかならないだろうからな。
だから俺は真っ先に手を挙げて、そしてアクレイアの推薦かは分からないが採用された。
「お前が新入りのアレンか。俺がリーダーのアルフォンゾだ。よろしくな」
初めて会った勇者は俺のイメージと違ってちょっと背が低くてひょろっとした冴えない男だった。すごい装飾のついた大剣を腰に差しているが、いかにも持て余している感じに見える。
「よろしくお願いします」
「早速だが、パーティーに入る以上いくつか決まりがある」
そしてアルフォンゾはいくつかの決まりを述べた。意見が割れても最終的には従うとか、無断で単独行動はしないとか、立ち寄った村で村人に迷惑をかけないとか、特にタンスの中を勝手にあさってはいけないとか、当たり前の内容ばかりだった。俺は特に引っかかることもなく頷いていく。
「……それから、これは最近新しく出来た決まりなんだが」
「何でしょう」
「俺のパーティーは原則恋愛禁止だ」
「は?」
俺は思わず聞き返してしまう。恋愛禁止ってアイドルじゃあるまいし。するとアルフォンゾは何かうっぷんでもたまっていたのか、途端に早口で語り始める。
「どいつもこいつものろけばっかり言いやがって! 愛しの〇〇のためにも魔物を倒します? はあ? 魔物を倒すのは民のためだろうが! おめえの恋人のためじゃねえんだよ! 勇者パーティーなめてんのか! 大体俺は勇者の修行が過酷過ぎて恋人なんて作る暇なかったよ!」
こいつ……。勇者は圧倒的強さをさることながら常に民の幸せを考えた人格者と聞いていたのにこんな私怨でパーティーのルールを決めやがって。いや、民の幸せは考えてそうだが。
「大体何なんだよ懐妊したから引退って! 俺の子供は誰が産んでくれるんだよ! 何で全く納得いってないのに笑って『幸せになってくれ。魔王討伐は俺たちに任せろ』とか言って見送らないといけないんだよ!」
お前いいやつだな。もしかしたら話せば分かってもらえるんじゃ……
「いいだろ、俺たちは勇者パーティーでありつつ人間なんだ。勇者パーティーに入ったら人間としての幸せを捨てなきゃいけないなんて間違ってる」
途端に俺の背筋にぞっとするような寒気が走った。
俺の言葉にアルフォンゾはすさまじい眼光で睨みつけてくる。これまで幾多の魔物と対峙し一歩も退かなかったとされる勇者アルフォンゾの眼光は鋭く、俺は骨の髄まで凍り付くような恐怖を感じた。これが勇者の威圧感か。
結果、俺は何も言い返せなかった。ちなみにこの国では聖女や神官の結婚は特に禁止されていない。
「いいか、少しでも恋愛してる雰囲気があったら追放だ。例外はない。いいな?」
「はい」
俺は頷くことしか出来なかった。
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